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31. 女子会
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グツグツとお鍋の中の具が煮えて、フワ~と食欲をそそるような香りが食堂から漏れ出ている。
「ヒルデこんにちは。雉鍋をご馳走してくれるって聞いたから来ちゃったわ。とっても美味しそうな香りね」
食堂に入ってくるレイラ。いっぱいに充満する美味しそうな香りが食欲をそそる。
「レイラ様いらっしゃいませ。坊ちゃまはいらっしゃいませんでしたか?サラ様をお茶に誘うと言っていましたが、どうせすぐに戻ってくるだろうと思っていたのですが……」
なかなか酷い言い草だがサラを目の前にするとトーマスはうまく話せなくなるからしょうがない。どうせ誘うこともできずにとぼとぼ帰ってくるとヒルデは思っていた。
「ああ、トーマスならさっき門の近くで会ったわよ。サラのところに行くところだったのね。なんか箱をもって腕を振り回してるから何してるのかと思ったわよ。サラに会いに行くのに気合をいれていたのね。先に食べててくれって言ってたわよ」
「左様でございますか……。主人よりも先にご飯をいただくのもどうかと思いますが、先にいただいてしまいましょう」
いや、結構前にサラのところに行くと言っていたのに、まだ門のところにいたとは……。気合はあるもののなかなか勇気が出ないというところなのか。
「……ていうか、主人と使用人が一つの鍋をつつくというのもそもそもありえないわよね」
「……それを言うならレイラ様、使用人と同じ鍋をつついておる貴族様も珍しいと思いますよ」
「……まあ、うちではしないわよ。でも、ここは家じゃないからいいのよ。さあ、食べましょ」
ヒルデとレイラは鍋を挟んで向かい合って座って食べ始めた。
「「いただきます!」」
「ん~~~おいしい!っていうかヒルデって元将軍だったのよね?なのにどうして色々なことができるの?身の回りの世話とかされる側だったでしょ」
もぐもぐと食べながら、話し出すレイラ。貴族として普段の食生活では黙って食べるのが当たり前。だがここにはマナーを気にするものはいない。ということで食べながら話す。
「ご存知かとは思いますが、私はもともと捨て子でございましたので、施設におりました。その施設で幼い頃からこき使われておりましたので、それなりに色々なことはできるようになりました。あまりにも非情な施設でしたので、6歳で逃走致しましたが、その後出会って私を育てた方もサバイバル……といいますか……、アウトドアと言いますか……自分のことは自分でやれと言う方でございましたので……」
ヒルデが親の顔も知らない、捨て子だということはほとんどの国民が知っていることだった。血統主義や実力のない高位の貴族からは侮蔑の視線を向けられ、平民からは成功者の象徴とされていた。戦争を終わらせたとして英雄と呼ぶ人もいる。
「ふーん……。あれっ、その人がこの前話してた人?」
サラッと聞いてそんなに関心ありませんよという顔をしているが微妙にこわばった顔をしている。この前少しビビらせすぎたかしら……と反省。びびりつつも気になるのか深く聞いてくるレイラ。
「そうですよ」
「ヒルデってファザコン?年上主義?んーーー……でも、この前の様子を見ると、例えるなら……熱烈な信者って感じ……?」
レイラが一方的に話すのを黙って鍋をつつきながら、聞いているヒルデ。最後の呟きのように吐き出された言葉に反応を示した。
「熱烈な信者、ですか……。そうですね、あの方は私にとって、唯一無二の存在ですね。彼の言うことは絶対従い、彼が願うことは絶対に叶えてさしあげたいと思いますね。まあ彼のために私は生きているようなものなので」
「ふーん……でもここでゆったりと使用人をしてるじゃない」
「今のこのこき使われようをゆったりとは言えないと思いますが……まあこれで良いんですよ」
ちらっとヒルデの表情を見るもこの前のような禍々しさはどこにもない。話しを続けても良さそうだと安堵する。
「でもさ……それって楽しい?人の為に生きてるとか……なんか、その妄信的な感じが怖い。やっぱり人ってさ……自分のことを第一に考えてる人が多くない?利用されてるんじゃないの?ヒルデも自分のことを第一に考えればいいのに」
レイラの言葉に思わず頬がゆるむヒルデ。この前の自分の狂信的な姿を見て二度とこの手の話題は出てこないと思ったが、レイラが持ち出したのに少し不思議な気がしたが。なんてことはない。ヒルデの身を案じているということだった。
「………………ふふっ、大丈夫ですよ。利用されていることも知っていますし、本人にはっきり言われたこともあります。それに、利用しているというのはこちらにも当てはまりますので……」
そう、自分はあの人と出会わなかったら自ら命を絶っていたかもしれない。もしくは世界を滅ぼす存在になっていたかもしれない。あの人との出会いに理由をつけて生きているのは自分のほう。
「ふーん……まああなたがいいなら良いのかしら。……って怖っ!なっ……なによっ!?」
なんというのか……ヒルデから立ち上るオーラのようなものにビクッとしてしまう。
「まだこの話しを続けますか?」
すなわち、もうやめようということか。それならそうと言えば良いのに。何も人を脅かさなくても……心の中でブツブツ文句を言いながらもこの話題を終わらせたレイラ。
プイッとヒルデから目を背けるレイラは次の瞬間、そうだ……と何かを言いかけてはやめる様子。
「レイラ様」
「何よ」
ヒルデの声掛けに少々尖った声で返答してしまったレイラはチラチラとヒルデを見ていた視線をヒルデに固定した。
「私と話したいことはジオ様のことですよね?」
「………………」
レイラの顔が曇った。ヒルデの顔を直視できず、気まずげに視線を下げてしまうレイラ。恋バナを仕掛けてきた理由はヒルデのことを案じる他にもう一つあるようだ。
「ヒルデこんにちは。雉鍋をご馳走してくれるって聞いたから来ちゃったわ。とっても美味しそうな香りね」
食堂に入ってくるレイラ。いっぱいに充満する美味しそうな香りが食欲をそそる。
「レイラ様いらっしゃいませ。坊ちゃまはいらっしゃいませんでしたか?サラ様をお茶に誘うと言っていましたが、どうせすぐに戻ってくるだろうと思っていたのですが……」
なかなか酷い言い草だがサラを目の前にするとトーマスはうまく話せなくなるからしょうがない。どうせ誘うこともできずにとぼとぼ帰ってくるとヒルデは思っていた。
「ああ、トーマスならさっき門の近くで会ったわよ。サラのところに行くところだったのね。なんか箱をもって腕を振り回してるから何してるのかと思ったわよ。サラに会いに行くのに気合をいれていたのね。先に食べててくれって言ってたわよ」
「左様でございますか……。主人よりも先にご飯をいただくのもどうかと思いますが、先にいただいてしまいましょう」
いや、結構前にサラのところに行くと言っていたのに、まだ門のところにいたとは……。気合はあるもののなかなか勇気が出ないというところなのか。
「……ていうか、主人と使用人が一つの鍋をつつくというのもそもそもありえないわよね」
「……それを言うならレイラ様、使用人と同じ鍋をつついておる貴族様も珍しいと思いますよ」
「……まあ、うちではしないわよ。でも、ここは家じゃないからいいのよ。さあ、食べましょ」
ヒルデとレイラは鍋を挟んで向かい合って座って食べ始めた。
「「いただきます!」」
「ん~~~おいしい!っていうかヒルデって元将軍だったのよね?なのにどうして色々なことができるの?身の回りの世話とかされる側だったでしょ」
もぐもぐと食べながら、話し出すレイラ。貴族として普段の食生活では黙って食べるのが当たり前。だがここにはマナーを気にするものはいない。ということで食べながら話す。
「ご存知かとは思いますが、私はもともと捨て子でございましたので、施設におりました。その施設で幼い頃からこき使われておりましたので、それなりに色々なことはできるようになりました。あまりにも非情な施設でしたので、6歳で逃走致しましたが、その後出会って私を育てた方もサバイバル……といいますか……、アウトドアと言いますか……自分のことは自分でやれと言う方でございましたので……」
ヒルデが親の顔も知らない、捨て子だということはほとんどの国民が知っていることだった。血統主義や実力のない高位の貴族からは侮蔑の視線を向けられ、平民からは成功者の象徴とされていた。戦争を終わらせたとして英雄と呼ぶ人もいる。
「ふーん……。あれっ、その人がこの前話してた人?」
サラッと聞いてそんなに関心ありませんよという顔をしているが微妙にこわばった顔をしている。この前少しビビらせすぎたかしら……と反省。びびりつつも気になるのか深く聞いてくるレイラ。
「そうですよ」
「ヒルデってファザコン?年上主義?んーーー……でも、この前の様子を見ると、例えるなら……熱烈な信者って感じ……?」
レイラが一方的に話すのを黙って鍋をつつきながら、聞いているヒルデ。最後の呟きのように吐き出された言葉に反応を示した。
「熱烈な信者、ですか……。そうですね、あの方は私にとって、唯一無二の存在ですね。彼の言うことは絶対従い、彼が願うことは絶対に叶えてさしあげたいと思いますね。まあ彼のために私は生きているようなものなので」
「ふーん……でもここでゆったりと使用人をしてるじゃない」
「今のこのこき使われようをゆったりとは言えないと思いますが……まあこれで良いんですよ」
ちらっとヒルデの表情を見るもこの前のような禍々しさはどこにもない。話しを続けても良さそうだと安堵する。
「でもさ……それって楽しい?人の為に生きてるとか……なんか、その妄信的な感じが怖い。やっぱり人ってさ……自分のことを第一に考えてる人が多くない?利用されてるんじゃないの?ヒルデも自分のことを第一に考えればいいのに」
レイラの言葉に思わず頬がゆるむヒルデ。この前の自分の狂信的な姿を見て二度とこの手の話題は出てこないと思ったが、レイラが持ち出したのに少し不思議な気がしたが。なんてことはない。ヒルデの身を案じているということだった。
「………………ふふっ、大丈夫ですよ。利用されていることも知っていますし、本人にはっきり言われたこともあります。それに、利用しているというのはこちらにも当てはまりますので……」
そう、自分はあの人と出会わなかったら自ら命を絶っていたかもしれない。もしくは世界を滅ぼす存在になっていたかもしれない。あの人との出会いに理由をつけて生きているのは自分のほう。
「ふーん……まああなたがいいなら良いのかしら。……って怖っ!なっ……なによっ!?」
なんというのか……ヒルデから立ち上るオーラのようなものにビクッとしてしまう。
「まだこの話しを続けますか?」
すなわち、もうやめようということか。それならそうと言えば良いのに。何も人を脅かさなくても……心の中でブツブツ文句を言いながらもこの話題を終わらせたレイラ。
プイッとヒルデから目を背けるレイラは次の瞬間、そうだ……と何かを言いかけてはやめる様子。
「レイラ様」
「何よ」
ヒルデの声掛けに少々尖った声で返答してしまったレイラはチラチラとヒルデを見ていた視線をヒルデに固定した。
「私と話したいことはジオ様のことですよね?」
「………………」
レイラの顔が曇った。ヒルデの顔を直視できず、気まずげに視線を下げてしまうレイラ。恋バナを仕掛けてきた理由はヒルデのことを案じる他にもう一つあるようだ。
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