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41. 先王はまだまだ語る①
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先王の話しを黙って聞いていたキールを除く5人は思った。
(先王の話しって…………長い)
王様(今は先王だが)というとどんと構え必要最低限のことしか話さないイメージがある。話す必要があることでも、側近に話させたりというイメージがあるので、こんなに長々と話す姿はなんとも違和感がある。まあ、かわりに話す人もいないのだから、先王が長々と話すのも当たり前のことなのだが……。
そして皆が思ったが、言っても良いものか迷っていた言葉をキールが吐いた。
「………………こう……なんか…………ありきたり……なことですよね?強力な呪いなので、もっと壮絶なドラマがあるのかと思ったのですが…………」
天下の黒獅子もさすがに遠慮がちに、しかし皆が言いたかったことを先王に言った。まあ悲劇といえば悲劇と言える話だった。しかし男女間の問題、貴族だろうが平民だろうが盗った盗られたというのは世の常である。身分差がありすぎるゆえの悲恋。そんなものはいくらでもある。
貴族の間ではもちろん政略結婚が多いし、たまに親の反対を押しのけて身分差がある男女ができてしまうこともある。そういうときに、身分が低いものが高位貴族からのやっかみ、洗礼を受けることは非常に高い確率で起こる。
子供に関しては間違いなく悲劇であったと言える。でも子供を捨てて逃げる男なんて捨ててしまえばよかったのだ。お腹の子は王家の子……色々言うやつも出てくるだろうが食うに困る生活ではなかったはず。王家の一員として生きていく道はあったはずで、道連れにしたのは王女自身の選択である。それで呪いが発動されるとは……。
「そうだ」
気の毒ではあるが、ありきたりなことであることをあっさりと認める先王。
「男女の痴情のもつれ。捨てられたものがいれば、選ばれたものがいた。捨てられたものは耐えきれず、前に進めず、自分が守るべきものを守らず、一緒に果てた。男が逃げた理由も情けないことではあるが、理解できる。貴族の洗礼……それに耐えられないものが逃げるのは当たり前。数多くある訳では無いが、数少ない特別に珍しいことでもない。まあ王家の娘相手にやらかすというのはなかなかないものだろうがな。だが、もともと王家の婚約者は熾烈な争いが行われる。選ばれたからと言って安泰とは言えないしな……まして相手は低位貴族。なにもない方がおかしいとも言える」
「では、こんな呪いが発動してしまったのは……」
トーマスが沈痛な面持ちで呟いた。それに対し、先王ははっきりと言い切った。
「いろいろなものが積み重なった結果。運が悪かっただけだ」
運が悪かった。たった一言で片付けられてしまう。なぜこんな事態になってしまったか……そう、運が悪かったのだ。
本来であれば、これほどまでに強力な呪いになどならなかった。それほどまでに強い魔力を持った人間は極稀にしかいない。実際王女にもそんな力はなかった。そして、お腹の子にも。だが、それは一人ならばの話し。二人はへその緒を伝い、二人の力は一つの魔力となり、男への強い恨み……子にとっては母の思いを叶えたいという無邪気な心が呪いを完成させてしまった。
「当事者の男爵で呪いが終われば良かったがその息子も同じ目に合い、更にその息子までが湖に引きずり込まれていった。しばらくして王家も男爵家も悟った。ああ……子々孫々まで呪いは続くのだと。なぜか子供は男の子一人しか産まれず、彼らは子供を成した後に死んだ。皆年齢はバラバラだったがな。幸せの絶頂で命を奪いたいのか……自分は産めなかったからなのか……どうせ後で命を奪うのにな。よくわからないが……。それから男爵家はアルコールに逃げるもの、女に逃げるもの、自害しようとするもの、自分の身代わりを立てるもの、子供を産まない選択をしようとしたもの……結局は呪いの力なのか子は成されたが……いろいろなことが起こったが呪いが解かれることはなかった」
呪者は王女。世に広めて良い話ではない。ヒルデはよく私的なことだと言っていたがどこが私的なことなのだ。王家ががっつり絡んでいる話しだった。黙って聞いていたキールが、はて?と首をかしげた。
「先王」
「なんだ?」
「王家は呪いを知っているんですよね?なぜ今の陛下はしらないんでしょうか?それに、なぜ男爵になんの説明もなされていないのですか?」
至極まっとうな疑問だった。先王はああ、と少し自嘲気味に笑みを浮かべた。
「ヒルデだ」
「は?」
「ヒルデだ」
「いや、聞こえておりますが……」
聞こえてはいるがどういうことだ。ヒルデが何だというのだ。全く意味がわからない。皆が混乱している中、再び先王が言葉を発した。
「ヒルデは過酷な運命を背負った娘だ。いや、我らが背負わした。あの小さい肩にとてつもない重荷を背負わせた……」
先王は沈痛な面持ちだった。思わず、皆息を呑む。一人を除いて。
「ヒルデの肩はそんなに小さくないと思いますが……。将軍を勤めていましたし、身長も女性にしてはしっかりあるので……。まあ、華奢ではありますが……」
キールだった。そんなキールの言葉に呆れる先王。
「……お前、顔面偏差値や地位が高い割にモテないのはそういうところだぞ。女性の身体的問題に物申すな。そもそも、小さい肩と言ったのは、あいつに重荷を背負わせたときは子供だったのだ。だから、小さい肩と言ったのだ」
「いや、モテずとも妻いますし。で、負わせた重荷とは?」
話しをそらしておいてあっさり戻るんかい、と呆れたが口には出さない。口に出せばまた脱線してしまう。
(先王の話しって…………長い)
王様(今は先王だが)というとどんと構え必要最低限のことしか話さないイメージがある。話す必要があることでも、側近に話させたりというイメージがあるので、こんなに長々と話す姿はなんとも違和感がある。まあ、かわりに話す人もいないのだから、先王が長々と話すのも当たり前のことなのだが……。
そして皆が思ったが、言っても良いものか迷っていた言葉をキールが吐いた。
「………………こう……なんか…………ありきたり……なことですよね?強力な呪いなので、もっと壮絶なドラマがあるのかと思ったのですが…………」
天下の黒獅子もさすがに遠慮がちに、しかし皆が言いたかったことを先王に言った。まあ悲劇といえば悲劇と言える話だった。しかし男女間の問題、貴族だろうが平民だろうが盗った盗られたというのは世の常である。身分差がありすぎるゆえの悲恋。そんなものはいくらでもある。
貴族の間ではもちろん政略結婚が多いし、たまに親の反対を押しのけて身分差がある男女ができてしまうこともある。そういうときに、身分が低いものが高位貴族からのやっかみ、洗礼を受けることは非常に高い確率で起こる。
子供に関しては間違いなく悲劇であったと言える。でも子供を捨てて逃げる男なんて捨ててしまえばよかったのだ。お腹の子は王家の子……色々言うやつも出てくるだろうが食うに困る生活ではなかったはず。王家の一員として生きていく道はあったはずで、道連れにしたのは王女自身の選択である。それで呪いが発動されるとは……。
「そうだ」
気の毒ではあるが、ありきたりなことであることをあっさりと認める先王。
「男女の痴情のもつれ。捨てられたものがいれば、選ばれたものがいた。捨てられたものは耐えきれず、前に進めず、自分が守るべきものを守らず、一緒に果てた。男が逃げた理由も情けないことではあるが、理解できる。貴族の洗礼……それに耐えられないものが逃げるのは当たり前。数多くある訳では無いが、数少ない特別に珍しいことでもない。まあ王家の娘相手にやらかすというのはなかなかないものだろうがな。だが、もともと王家の婚約者は熾烈な争いが行われる。選ばれたからと言って安泰とは言えないしな……まして相手は低位貴族。なにもない方がおかしいとも言える」
「では、こんな呪いが発動してしまったのは……」
トーマスが沈痛な面持ちで呟いた。それに対し、先王ははっきりと言い切った。
「いろいろなものが積み重なった結果。運が悪かっただけだ」
運が悪かった。たった一言で片付けられてしまう。なぜこんな事態になってしまったか……そう、運が悪かったのだ。
本来であれば、これほどまでに強力な呪いになどならなかった。それほどまでに強い魔力を持った人間は極稀にしかいない。実際王女にもそんな力はなかった。そして、お腹の子にも。だが、それは一人ならばの話し。二人はへその緒を伝い、二人の力は一つの魔力となり、男への強い恨み……子にとっては母の思いを叶えたいという無邪気な心が呪いを完成させてしまった。
「当事者の男爵で呪いが終われば良かったがその息子も同じ目に合い、更にその息子までが湖に引きずり込まれていった。しばらくして王家も男爵家も悟った。ああ……子々孫々まで呪いは続くのだと。なぜか子供は男の子一人しか産まれず、彼らは子供を成した後に死んだ。皆年齢はバラバラだったがな。幸せの絶頂で命を奪いたいのか……自分は産めなかったからなのか……どうせ後で命を奪うのにな。よくわからないが……。それから男爵家はアルコールに逃げるもの、女に逃げるもの、自害しようとするもの、自分の身代わりを立てるもの、子供を産まない選択をしようとしたもの……結局は呪いの力なのか子は成されたが……いろいろなことが起こったが呪いが解かれることはなかった」
呪者は王女。世に広めて良い話ではない。ヒルデはよく私的なことだと言っていたがどこが私的なことなのだ。王家ががっつり絡んでいる話しだった。黙って聞いていたキールが、はて?と首をかしげた。
「先王」
「なんだ?」
「王家は呪いを知っているんですよね?なぜ今の陛下はしらないんでしょうか?それに、なぜ男爵になんの説明もなされていないのですか?」
至極まっとうな疑問だった。先王はああ、と少し自嘲気味に笑みを浮かべた。
「ヒルデだ」
「は?」
「ヒルデだ」
「いや、聞こえておりますが……」
聞こえてはいるがどういうことだ。ヒルデが何だというのだ。全く意味がわからない。皆が混乱している中、再び先王が言葉を発した。
「ヒルデは過酷な運命を背負った娘だ。いや、我らが背負わした。あの小さい肩にとてつもない重荷を背負わせた……」
先王は沈痛な面持ちだった。思わず、皆息を呑む。一人を除いて。
「ヒルデの肩はそんなに小さくないと思いますが……。将軍を勤めていましたし、身長も女性にしてはしっかりあるので……。まあ、華奢ではありますが……」
キールだった。そんなキールの言葉に呆れる先王。
「……お前、顔面偏差値や地位が高い割にモテないのはそういうところだぞ。女性の身体的問題に物申すな。そもそも、小さい肩と言ったのは、あいつに重荷を背負わせたときは子供だったのだ。だから、小さい肩と言ったのだ」
「いや、モテずとも妻いますし。で、負わせた重荷とは?」
話しをそらしておいてあっさり戻るんかい、と呆れたが口には出さない。口に出せばまた脱線してしまう。
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