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47. 俺の親父はどんなやつ①

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 無事に解呪できた後、先王とキールは何やらヒルデと離した後帰っていった。湖の中で戦いが行われていた為、屋敷の中も庭園も何一つ変わらない。いつもの日々が戻って来た。

「お~~~い、ヒルデ!」

 湖を眺めていた……わけでなく、湖の前で薪割りをしていたヒルデは遠くから自分を呼ぶ声に気づいた。大きな声を発した本人であるトーマスの姿が現れた。

「坊ちゃま、どうされましたか?」

「今日の昼飯、これ使ってくれ」

 どさっと何か重たいものが落ちる音がする。視線をやると丸々とした猪だった。

「まだ食料庫に食材はたくさんあったので、豪華に丸焼きにしちゃいましょうか」

「いいな」

 二人はそう言うと割った薪を担ぐと屋敷に向かって歩き始めた。屋敷前で丸焼きの準備を黙々と二人でやっていると、トーマスが珍しく小さい声で問いかけてきた。

「……なあ、王宮に戻らなくて良かったのか?」

 聞き取れるか聞き取れないかという小さい声だったがヒルデにはちゃんと届いていた。

「戻るも何も、もともと王宮に居場所があったわけでもないですし……。それに、今の平和なときに将軍が戻ったところで邪魔にしかなりませんよ」

「でも、黒蝶隊の将軍といえば民にも兵士にも慕われてるって有名だったぞ」

「民衆に出回る噂は、民衆にとって都合の良い話しが多いものですよ。庶民出身の将軍が大活躍、大人気、そう思いたいものです」

「そうか、じゃあ王宮ではあんまり人気なかったんだな」

「高位貴族にはヤバいくらい」

 実力のない血統第1主義のやつほど愚痴愚痴言うものだ。しかし、何か困り事があれば解決してくれと言ってくる。そんな利己主義者が多かった。でもこの国はまだ腐っていないほうだと言える。王であるリカルドが実力主義の傾向にあるから。

「そうか」

 そして、再び猪の丸焼きづくりを始める二人。 黙々黙々……モクモクモクモク……煙が出てきた。

「……なあ、俺の父親ってどんなやつだった?」

 これまた小さい声だったがヒルデにはちゃんと届いた。

「狂った人でした」

 ヒルデの返答に思わずぎょっとしてしまう。そんなトーマスを気にせず、続ける。

「全国を自らの足で探し回り見つけ出し、今まで解呪が絶望的だった呪いを解呪させようと6歳の子に恐ろしい訓練をさせる人間がまともであると思いますか?そもそも私は解呪できなくても被害がない関係ない存在ですよ?自分の家族や大切な人間の解呪のために必死で訓練させるならわかりますけど、私無関係ですからね。まあ、やばい孤児院から連れ出してくれましたけど、別に私の魔力があれば抜け出すことは可能でしたし……。彼は本来なら協力してくれる私に敬意を払ってもいいくらいだったんですよ」

 本当にやばい訓練だった。池に落とされて何時間も耐える訓練だったり、3日間飲まず食わずで陛下の近衛10人、魔術師5人に囲まれたこともある。

 ヤバイ孤児院では不気味だと怖がられ自分だけは悪い待遇ではなかったんですから!そのままそこにいても良かったんですから!と言うヒルデ。

「じゃあ、なんで協力してくれる気になったんだ?」

「暇だったから」

「は?」

「暇だったからです」

 暇だったから、冗談なのか、本気なのかヒルデの表情からは読み取れない。

「孤児院のクソ職員も孤児の子たちも私のことをビビってました。雑用もほとんどさせられなかったし、ご飯もちゃんともらえてました。やることもないし、話しもまともに誰もしてくれない。でもお父上は私の目を見て力を貸してくれ、と言ってきました。ちょっとトキメいちゃいました」

 キャハっとか言っている、ちょっとイラッとしたけどスルーするトーマス。

「どうせ何かやるやら、いいこと誰かのためになることをやったほうがいいじゃないですか」

 確かにそうだが……

「それに、お父上は狂った人だったから」

「は?」

 またもや他人の父親への不敬な言葉に驚いてしまった。

「いつ湖にひきずりこまれるかわからない恐怖、あなたもおつか犠牲になることへの絶望。何よりも死にたくない……でも、どうしようもない。諦めているようで諦めていない。あなたの死だけはなんとしてもと口でいいながらも、自分もできたら……。やはり死にたくない……。いろいろな感情がごちゃまぜになってしまって、なかなか鬼気迫るものがありましたよ」

 それはそうだろう。自分の死……子供の死……。恐怖だろう。どうにかあがいても先が見えない。解呪のために動こうと思っただけ、なかなかの強者だったと言えるだろう。

「彼がどうなっていくのか……それが気になってしまいました」

「そんなことで、自分の命をかけることにしたのか?」

 フフッと笑うヒルデ。

「私、まだ6歳でしたので、好奇心を抑えられませんでしたの」

 結果あちこち連れ回され、無茶振りされ……王宮でも精鋭部隊と戦わすような自分と自分の子供以外どうでも良いサイコパス野郎だった。子供子供と言いながら自分が死ぬのが怖くて人には過酷な訓練を課しといてお酒を飲んでイビキをかいて寝ていた時は危うく手刀でやらかすところだった。このままどんどん自分中心に考えるだけの存在になるかと思ったら最後はカッコつけて散っていった親バカ。

「はあ、そうなのか」

 ヒルデの内心が聞こえるはずがなし。好奇心……それでいいのか。天才の心はわからない、とコホンっと咳払いするトーマス。

「いや、俺父親の顔も知らねーし。肖像画では見たことあるけどな。本当にどうしようもないやつで女作って逃げてったと思ってたからよ……。解呪の為だったって聞いて少し申し訳ないな、とか思ったんだよ。だけど、なんかよ……。顔くらい見せに帰ってきても良かったんじゃねえのかな……と思っちまってさ……」

 ヒルデの訓練につきあってたにしても、少しくらいと思ってしまう自分を止められない。だってヒルデの話しによると自分は大切にされていたようだから。

「弱いからだと言っていましたよ」

「弱い?」

「あなたに会ってしまったら、生きたいという思いが強くなってしまう。どうして自分を助けてはくれないんだ、と私を憎んでしまう、と言っていました。自分の命は助からない……と察していたんでしょうね。それでも助かりたいという思いもありもがき苦しんでおりましたが……。私の成長はなかなかのものでしたが、何分幼すぎました。お酒に逃げることもありましたが成長を目にすることで坊ちゃまだけは助けられると安堵している様子でしたよ」

 それは弱いというのか……?とてつもなく強い人だったのではないだろうか……?自分の父親を少し誇りに思えるような気がした。



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