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痛いっ……体も心も痛い

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 みしみしという音がしなかったのが不思議なくらいの痛みだった。痛くしないようにするって、バカじゃないの、痛いわよ!

 体を内側から引き裂かれる。そう思ったけど、じっさいは裂けなかったみたい。不思議。

 根元まで挿れられ、苦痛の声を押し殺すも、さらにずりずりと引き抜かれ、堪えられずに喉の奥から苦鳴をあげる。

 脂汗が額から滑り落ち、変に腕を突っ張って力を入れすぎた体はガチガチ。後で筋肉痛になるだろうな、と痛みの中で思った。

 そんな拷問のような抜き差しを繰り返され、ただひたすら痛みに慣れるように祈るだけになった時、ようやく黒騎士様は全部引き抜いてくれた。

 お腹の辺りに温かい物がブチまかれる。なんだろ、これ。……おしっこ?

「危なく中出しするところだった。きつすぎて」

 ノワール様のつぶやきを、私はまるで夢の中の出来事のように薄い膜を通した遠くで聞いていた。

 泣きすぎてビチョビチョの顔のまま、天井をぽっかり見つめている私は、彼が涙を拭いてくれたのにも気づかなかった。

「これで刑は執行されたから」

 そっと囁く黒の騎士。いつものあの蔑みに満ちた、辛辣な口調じゃないのが不思議だった。同情だろうか。

「殿下、終わりました」

 その声に、私もうつろな目を向けると、ローレッタ様が必死でクリフォード様を押しのけている。

「殿下、初夜の前にふしだらなことはいけません」
「しかし僕は童貞だぞ、あんな天にも昇りそうな顔の堅物ノワールを見たら、早く僕もローレッタとやりたくなるではないか」
「……っ! 俺は断じてそんな顔してません! とにかく、殿下は入籍までお待ちくださいっ」

 黒騎士様は顔を真っ赤にして怒っている。

「結婚まで、本当に待ってくださいね」

 ローレッタ様も強めに言った。

「それまでにスローライフルートを探らねば」とローレッタ様が意味不明の言葉を吐き捨てるのを、私はぼんやり他人事のように聞いていた。

 ノワール様が私を見下ろす気配がした。

「彼女の服を裂いてしまった。代わりのを持って来させていいですか?」
「そのまま真っ裸で追放、でいいではないか」

 黒騎士の事務的な要求に対し、愉快そうに笑うクリフォード様の声。

 私は首を傾げた。彼は誰? 私、こんな人を愛していたのだろうか。まるで、過去の全てが嘘だったかのように思えた。

 優しかったクリフォード様は、私の幻だったのかもしれない。きらびやかな世界と甘い恋愛を、夢に見ただけだったのかも……。

 ローレッタ様とノワール様に冷たい目で見られたことに気づいたのか、クリフォード様は慌てて牢番を呼んだ。

 冷たい石の床の上に大の字になったまま、私は牢の天井のシミを意味なく眺めていた。

 腰から下がジンジンして麻痺している。恋人以外には見せてはいけない、と言われていた裸を晒したまま。だけど体を隠そうという気にならない。

 強引に人前で暴かれたのだし、今さら羞恥を感じるのも変な話だな、と……。汚された体の価値など、無いように思えたのだ。

 痛みは酷いが、頭のてっぺんから足のつま先まで、石になっていくようだった。このまま石像になるのかな、そう思った。それもいい。

「死にたい」

 ぽろっと呟きが漏れた。ノワール様がハッと息を呑むのが分かった。

 どうしてクリフォード様は、黒騎士に私を殺すよう命じてくれなかったのかしら。

 そこで悪役令嬢ローレッタ様の顔が浮かんだ。

 ああ、なるほど。クリフォード様はローレッタ様のご機嫌を取りたいのよね。私を生かすことで寛容さを、嬲って執着が無いことを、ローレッタ様に知らしめたいのね。

 ローレッタ様も、平民女に一度王太子妃の道を閉ざされた屈辱がある。慈悲をかけるふりをして、内心はクリフォード様の目論見通り、喜んでいるのかもしれない。

 簡単に殺してはつまらないものね。

「ニーナ、お前に服をやるが、薬剤師の免許及び実家の開業許可証及び財産没収の上、王都から追放する」

 クリフォード様がローレッタ様を抱き上げ、そう宣言していた。

 私は全裸で寝そべったままそちらに目をやったけれど、たぶん仲睦まじい二人が映っただけで、感情はこもってなかったと思う。

 もう酷い目にあったし、これ以上悲しいなんて思わない、うん。

 黒の騎士は自分の身支度を整えながら、気まずそうに言う。

「暗殺未遂を起こしておきながら、追放で済むのだから軽い方だ」

 その時、別の声がした。

「失礼します、着替えをお持ちしました」

 従僕から地味なワンピースを受け取ろうと、黒騎士が私から目を離した。

 私は何も考えずに、舌を出し、そのまま思い切り噛み千切ろうとした。
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