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彼女のペットになりたい~エイベル視点~

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 そうか、これが恋か。

 彼女と疑似デートを積み重ねるたびに、僕は「特別」という意味を噛み締めていた。なんだ、やっぱり運命の人に出会っていなかっただけなんだ。

 何人もの女の子と付き合って身体を重ねても、ピンとこなかったはずだ。

 僕は自分が「そこそこ好きにはなれるけれど、本気で一人を愛せない寂しい奴」なんだと思いかけていた。

 違ったんだ。

 委員長──ルシールが、僕の運命の人だった。やっと……見つけた。

 会うたびに彼女の魅力に逆らえなくなる。そうなるのに一か月も要らなかった。

 もしかして、もっと長く付き合ったら、飽きてくるのだろうか。僕はそれが気になっていた。

 それに体を何度も重ねたら? 飽きるのかな?

 ドクン、と心臓が跳ね上がる。さすがにそれは言い出せないが、飽きるわけがないじゃないか、と妙な確信があった。

 ところが、ルシールは今までの女の子たちのように、スキンシップを求めてこない。はっきり言うと、僕に抱かれたい素振りをしない。

 据え膳食わぬは男の恥というし、明らかな誘いを断るのは悪いから、契約した彼女たちは頂いてきた。

 今まで付き合ってきた彼女たちのことはそれなりに好きだったし、女性に恥をかかせてはいけないのだし……。

 みんな、普段の淑女ぜんとした態度からは程遠い、肉食系に豹変するのでちょっと怖かったが、それでも恥をかかせてはいけないのだ。

 彼女たちが望むことを汲み取って奉仕する感じだったとはいえ、僕もそれなりにムラムラを解消できたのもあり、苦痛ではなかった。

 女の子たちから指摘され、僕は自分が女性を喜ばせる技術に長けていると知った。みんなが僕に夢中になったから、自惚れても仕方ないじゃないか。

 ……そう、ルシールも誘ってくるんじゃないかなって、ちょっと期待していた。もしそうなら、僕は彼女の望むままに応じて、メロメロにさせる自信があった。

 なのに、手を繋ぎたいという素振りすら見せない。

 当たり前か。

 ルシールは、僕に気があるわけではないのだから。僕の彼女のふりをしてくれているだけなんだ。

 下心無く僕に協力してくれているなんて、やっぱりすごく優しい子なんだろう。

 そう思うと同時に、僕はこの偽交際期間にもの足りなさを感じていた。

 彼女が男を好きになると、どんなふうに変わるのか気になって仕方なくなった。


 数か月付き合ってみたが、ルシールはあまり変わらなかった。

 恋人っぽいこともほとんどしていないのに、僕の気持ちだけがどんどん大きくなる。

 節目やお祝いなどのイベントの時に、僕は宝石やドレスをプレゼントしようとした。でも、すごく困惑した顔をされてしまった。

「士官学校に受かるまでの恋人契約なのに、悪いわよ。そこまで厳密にやらなくても、皆気づかないと思うわ」

 僕は単純に、彼女にプレゼントしたかっただけなんだけどな……。


 冬が来てガイアス神の生誕祭を終え、春になり、卒業試験の論文を提出し、士官学校の試験を受け、そしてついに卒業パーティーを迎えるころには、僕は完全にルシールに参ってしまっていた。

 感情の起伏が少ないと思っていたルシールは、本当は多感な子だって分かった。

 一緒に観にいった劇でも気づけば目を真っ赤にして鼻をグスグスさせていたし、犬猫が大好きで、動物を触るときだけはあの涼し気な表情が優しく甘くデレデレと和むのだ。

 僕は犬猫になりたかった。ひんやりした視線も素敵だけど、どうせならあんな目で見られたかった。

 卒業パーティーが終わったらすぐ、士官学校の合格発表だ。

 彼女との契約がそこまでであることに、僕は日に日に打ちのめされていった。

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