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「セリーン、どういうことだ、セリーン!!」
「あら。お久しぶりです、ユリウス・ハーバー伯爵家ご令息様。どうかなさいましたか?」
うららかな午後、マリエと付添人の老婦人の三人で気取らない午後のお茶会を開いていたところに、珍客が乱入してきた。
「私たちの婚約が破棄されたとは、どういうことだ!!!」
「どういうことも何も……ねぇ?」
頬に片手を当てて、セリーンはマリエを見た。
視線の先のマリエも悪い顔をして笑っていたが、マリエから見たセリーンの顔も大概だった。
「ユリウス様におかれましては、ハーバー伯爵家より我がラートン男爵家に婿入り戴けるとのお話に、誠に良縁だと一族郎党喜んでおりましたが、それが男爵家乗っ取りの企てと判明したからにはお受けすることは出来かねるのです」
「なっ?! だ、男爵家の乗っ取りなど。私がするわけないだろう!」
そんなつもりがあろうとなかろうと、やろうと試みたことがそれに当たるのだという事すら理解できないのだろう。
「この件につきましては、すでに王宮審査官の審議に入っている筈です。追って取り調べが入ると思いますので、どうぞ申し開きなどがございましたら、そちらでどうぞ」
お帰りはあちらです、とセリーンが笑顔で指し示す。
「王宮、審査官の審議?」
高位貴族が下位にあたる貴族家や平民を迫害し、借金を返さないなど、財産を乗っ取るような横暴な態度を取った時に、その行動が犯罪に当たるかどうかを判断する機関がこの国にはある。
今回のユリウスの行動はまさにそれに引っ掛かる。
実際に、平民が高位貴族を訴えるなどできないが、それでも建前上でも法は整備されているのだ。
叙爵したばかりの下級貴族家に強引に婿入りするまではぎりぎり許容されても、その家にまったく血の繋がらない自身の血筋の者を後継者として強引に迎え入れさせることまではさすがに誰の目から見ても許されることではないのだ。
「乗っ取りのつもりはなかったときちんと証明できれば、罪に問われるまではないかもしれませんよ」
無理だと思いますがと心の中でのみ付け加えつつ、それでも優しい口調で諭したセリーンに、ユリウスは激高した。
「そんなの! 僕が証明するまでもない。君がしてくれればいい」
「お断りいたします。なぜ私が?」
こてん、と首を傾げたセリーンは、内心今にも噴出しそうである。
実際のところ、後ろでマリエは肩を揺らしているのを、付添人の老婦人が窘めていた。
「君が、僕を愛しているからだ! 素直になるんだ。君がそれほど嫌がるなら養子の件は許してやってもいい。余所へ出せばいいだけなんだから」
そうか、普段の一人称は僕なのね、甘ったれな貴族のご令息らしいわとセリーンはどうでもいいことばかりが頭の中を過っていく自身にも笑いたくなっていた。
「訂正を。私は、ユリウス様を愛したことなどありませんわ。なぜそのような勘違いをなさったのですか?」
セリーンは心底不思議だった。どう考えても、これまでユリウスがセリーンに向けてきた行動に、惹かれるものなどひとつもないからだ。
「だって君は、……セリーンは僕のしたいこと、やってきたことに何一つ文句をいうでなく受け入れてくれていたじゃないか!」
夜会でエスコートすることなく他の女にうつつを抜かそうとも。
婚約の贈り物以外、何も贈ったこともない。間にあった誕生日の祝いすら顔を出して終わりだった。さらに言えば、綺麗な女性つきで会場入りしていた。
それでも。セリーンはユリウスの婚約者でいた。居続けた。
ひとつの文句を口にすることもなく。笑顔で。
それが、ユリウスの自信となった。今回の暴挙に繋がったのもそれを根拠とする自信からだ。
「あぁ、なるほど。それはですね」
セリーンは、泣きそうに歪められたユリウスの顔を見あげてきっぱりと告げた。
「ユリウス様は婚約者とするには最悪でしたが、お顔がとてもよろしかったので」
セリーンは、はじけるような満面の笑顔でそう告白すると、ぶーっとマリエと付添人が噴き出した。
そして当のユリウスは、その言葉に多大な衝撃を受けていた。
それでも顔がいいということは素晴らしい。奇跡のようだとセリーンは惚れ惚れとした顔でユリウスの歪んだ顔を鑑賞した。
「日々の生活の中で『あれしろこれしろ』と命令されて過ごすにしても、どうせなら美しい顔の男性に言われる方がずっと気分が良いものでしょう?」
だから、まぁいいかと受け入れることにしていたのだと朗らかに笑うセリーンに、ようやく最初に受けた衝撃から脱したユリウスが、一縷の望みを掛けて言葉を繋いだ。
「な、なら。もうよそ見はしない。約束しよう。貴女が好きなこの私の顔を、存分に眺めて暮らせばいい。どうだ、セリーンの好きなこの顔を見れなくなるのは辛いのではないか」
自分で言っていて、情けなくなったのだろう。段々とユリウスの声が小さくなっていく。
「金蔓を手放さないために必死ですね」とマリエが小さく呟いた言葉に、ユリウスがぎっと強い視線で睨みつけた。
「大丈夫です。ユリウス様のお顔はとても綺麗で素晴らしいと思いますが、私にはもう、彼がいるので」
嬉しそうに笑ったセリーンの視線を追ったユリウスが、自信を取り戻したように笑った。
「そんな平民を受け入れるというのかい? この私の顔が何より好きだといった貴女が?」
嘲るようなユリウスの声に、セリーンは余裕の態度をもって、新しい婚約者たるヨハンの横まで歩いた。
その腕を取り、自らの手を絡めると、もう片方の手を彼の顔に伸ばす。
「えぇ。これまで、私の判断基準は『顔がいいこと』それのみで構成されておりました。けれど、どうせならそこに『有能』とか『私に一途』とか、いろんなオプションがついていてもいいってことに気が付いたんですの」
するりと男らしい線を描く頬を撫であげ、そのまま長すぎる前髪を持ち上げる。
そこにあったのは、男性的な美の顕現。
直線的で力強い眉。切れ長で、強い意志を感じさせる瞳。
すこし厚めの唇はいっそセクシーだ。
中性的なユリウスとはまったく違った方向性ではあるものの、ヨハンの美しさは決してユリウスに劣るものではなかった。むしろ多くの女性にとってはより強く惹かれるものがあると言えそうだった。
「同じく顔がよろしい者であったなら、ついてくるオプションは多い方がよろしいでしょう?」
当然ですわよね、とセリーンはにっこりと笑った。
「しかし。その男は平民で……」
「祖父は騎士爵を叙しておりましたが、元を辿れば伯爵家の三男でした。その縁で、大伯父であるベント伯爵家に養子に迎えて貰うことになりました。そこからこちらへ婿入りする予定です」
ベント伯爵家とはラートン家の家業である銀山との取引もある。
武家であるベント家の領地では武具の加工も盛んで、その材料として銀が使われているのだ。
剣より計算で身を立てることにしたヨハンの父は、騎士爵である祖父の跡を継ごうとはしなかった。そうしてその息子であるヨハンも同じく平民として商人となるべく勤勉に務めてきた。
しかし、愛する女性を手に入れる為にできることがあるならば、手段を選ぶつもりはないのだ。
「くそっ。セリーン、お前こそ僕という婚約者がありながらこんな平民あがりの男と浮気をしていたんだな! 絶対に許さないぞ」
睨みつけるユリウスからセリーンを庇うように、ヨハンがその身を後ろに隠した。
「やってみろ。返り討ちにしてやるさ」
すでにヨハンは伯爵家の子息だ。ユリウスとは同位となる。
「ふん。王宮審査官が来たからなんだというのだ。私がラートン家を乗っ取ろうとしたという証拠などどこにある? この婚約は破棄させない。そうすればお前らの浮気が実証される。ベント家にたっぷり慰謝料を請求してやるから用意して待っているんだな」
長い捨て台詞は、セリーンの笑い声で遮られた。
「嫌ですわ。証拠もなしに男爵になりたてのラートン家から格上のハーバー家を訴えることなどできる筈がないではありませんか。王宮審査官に話を聞いても戴けないでしょう。……ご自分でサインした書類を、もうお忘れですか?」
その言葉で、ようやくユリウスは先日の書類に思い至った。
最後まで読むことすらせず書いたサインのその内容は、ほんの数行しか知らない。
しかし、そこに書いてあった文だけでも、十分すぎるほどの自供となるだろう。
「……そんな」
「これに懲りたら、最後まできちんと読まずにホイホイと書類にサインなどなされてはいけませんよ?」
「その前に、婚約中に他の令嬢に手を出すこともね!」
「マリエ?」止めなさい、とセリーンは咎めるように視線を送る。
それに対してマリエは軽く肩を竦めただけだった。
ついに、何も言葉を見つけられなくなったユリウスは、ふらふらと立ち上がり強引に入ってきた部屋から出ていこうとした。
その後ろ姿に。
「ユリウス様。ご縁はありませんでしたが、どうぞお元気で」
セリーンが声を掛けたが、立ち止まることはあっても、ユリウスが振り返ることは、もうなかった。
「あんな屑男に、励ましの言葉なんか掛ける必要ありませんよ」
憤慨した様子で付添人の老婦人が苦言を呈した。
付添人は通常、親族の未亡人が務めることが多いが、この老婦人はまだ寡婦ではなかった。そして、セリーンの親族でもない。
「未来の大伯母様は辛辣ですね。でも、ここで挫けてあの美貌が陰ることにでもなったら人類の損失ですわ。せっかくあれだけ顔がよろしいのに。……あら、そういえば、未来のお姑さまとおよびすべきでしたかしら? ねぇ、おばさまの事は、どちらで呼び掛けるのが正しいのでしょう」
セリーンのその問いに答えをくれる者は誰もいなかった。
皆、セリーンにツッコミを入れるのに忙しかったからだ。
「セリーンの恋愛基準、最後まで本当にブレないわね」
「ブレない娘セリーン、恐ろしい子」
「セリーン様らしすぎて。
……そんなセリーン様を、お慕いしております」
「あら。お久しぶりです、ユリウス・ハーバー伯爵家ご令息様。どうかなさいましたか?」
うららかな午後、マリエと付添人の老婦人の三人で気取らない午後のお茶会を開いていたところに、珍客が乱入してきた。
「私たちの婚約が破棄されたとは、どういうことだ!!!」
「どういうことも何も……ねぇ?」
頬に片手を当てて、セリーンはマリエを見た。
視線の先のマリエも悪い顔をして笑っていたが、マリエから見たセリーンの顔も大概だった。
「ユリウス様におかれましては、ハーバー伯爵家より我がラートン男爵家に婿入り戴けるとのお話に、誠に良縁だと一族郎党喜んでおりましたが、それが男爵家乗っ取りの企てと判明したからにはお受けすることは出来かねるのです」
「なっ?! だ、男爵家の乗っ取りなど。私がするわけないだろう!」
そんなつもりがあろうとなかろうと、やろうと試みたことがそれに当たるのだという事すら理解できないのだろう。
「この件につきましては、すでに王宮審査官の審議に入っている筈です。追って取り調べが入ると思いますので、どうぞ申し開きなどがございましたら、そちらでどうぞ」
お帰りはあちらです、とセリーンが笑顔で指し示す。
「王宮、審査官の審議?」
高位貴族が下位にあたる貴族家や平民を迫害し、借金を返さないなど、財産を乗っ取るような横暴な態度を取った時に、その行動が犯罪に当たるかどうかを判断する機関がこの国にはある。
今回のユリウスの行動はまさにそれに引っ掛かる。
実際に、平民が高位貴族を訴えるなどできないが、それでも建前上でも法は整備されているのだ。
叙爵したばかりの下級貴族家に強引に婿入りするまではぎりぎり許容されても、その家にまったく血の繋がらない自身の血筋の者を後継者として強引に迎え入れさせることまではさすがに誰の目から見ても許されることではないのだ。
「乗っ取りのつもりはなかったときちんと証明できれば、罪に問われるまではないかもしれませんよ」
無理だと思いますがと心の中でのみ付け加えつつ、それでも優しい口調で諭したセリーンに、ユリウスは激高した。
「そんなの! 僕が証明するまでもない。君がしてくれればいい」
「お断りいたします。なぜ私が?」
こてん、と首を傾げたセリーンは、内心今にも噴出しそうである。
実際のところ、後ろでマリエは肩を揺らしているのを、付添人の老婦人が窘めていた。
「君が、僕を愛しているからだ! 素直になるんだ。君がそれほど嫌がるなら養子の件は許してやってもいい。余所へ出せばいいだけなんだから」
そうか、普段の一人称は僕なのね、甘ったれな貴族のご令息らしいわとセリーンはどうでもいいことばかりが頭の中を過っていく自身にも笑いたくなっていた。
「訂正を。私は、ユリウス様を愛したことなどありませんわ。なぜそのような勘違いをなさったのですか?」
セリーンは心底不思議だった。どう考えても、これまでユリウスがセリーンに向けてきた行動に、惹かれるものなどひとつもないからだ。
「だって君は、……セリーンは僕のしたいこと、やってきたことに何一つ文句をいうでなく受け入れてくれていたじゃないか!」
夜会でエスコートすることなく他の女にうつつを抜かそうとも。
婚約の贈り物以外、何も贈ったこともない。間にあった誕生日の祝いすら顔を出して終わりだった。さらに言えば、綺麗な女性つきで会場入りしていた。
それでも。セリーンはユリウスの婚約者でいた。居続けた。
ひとつの文句を口にすることもなく。笑顔で。
それが、ユリウスの自信となった。今回の暴挙に繋がったのもそれを根拠とする自信からだ。
「あぁ、なるほど。それはですね」
セリーンは、泣きそうに歪められたユリウスの顔を見あげてきっぱりと告げた。
「ユリウス様は婚約者とするには最悪でしたが、お顔がとてもよろしかったので」
セリーンは、はじけるような満面の笑顔でそう告白すると、ぶーっとマリエと付添人が噴き出した。
そして当のユリウスは、その言葉に多大な衝撃を受けていた。
それでも顔がいいということは素晴らしい。奇跡のようだとセリーンは惚れ惚れとした顔でユリウスの歪んだ顔を鑑賞した。
「日々の生活の中で『あれしろこれしろ』と命令されて過ごすにしても、どうせなら美しい顔の男性に言われる方がずっと気分が良いものでしょう?」
だから、まぁいいかと受け入れることにしていたのだと朗らかに笑うセリーンに、ようやく最初に受けた衝撃から脱したユリウスが、一縷の望みを掛けて言葉を繋いだ。
「な、なら。もうよそ見はしない。約束しよう。貴女が好きなこの私の顔を、存分に眺めて暮らせばいい。どうだ、セリーンの好きなこの顔を見れなくなるのは辛いのではないか」
自分で言っていて、情けなくなったのだろう。段々とユリウスの声が小さくなっていく。
「金蔓を手放さないために必死ですね」とマリエが小さく呟いた言葉に、ユリウスがぎっと強い視線で睨みつけた。
「大丈夫です。ユリウス様のお顔はとても綺麗で素晴らしいと思いますが、私にはもう、彼がいるので」
嬉しそうに笑ったセリーンの視線を追ったユリウスが、自信を取り戻したように笑った。
「そんな平民を受け入れるというのかい? この私の顔が何より好きだといった貴女が?」
嘲るようなユリウスの声に、セリーンは余裕の態度をもって、新しい婚約者たるヨハンの横まで歩いた。
その腕を取り、自らの手を絡めると、もう片方の手を彼の顔に伸ばす。
「えぇ。これまで、私の判断基準は『顔がいいこと』それのみで構成されておりました。けれど、どうせならそこに『有能』とか『私に一途』とか、いろんなオプションがついていてもいいってことに気が付いたんですの」
するりと男らしい線を描く頬を撫であげ、そのまま長すぎる前髪を持ち上げる。
そこにあったのは、男性的な美の顕現。
直線的で力強い眉。切れ長で、強い意志を感じさせる瞳。
すこし厚めの唇はいっそセクシーだ。
中性的なユリウスとはまったく違った方向性ではあるものの、ヨハンの美しさは決してユリウスに劣るものではなかった。むしろ多くの女性にとってはより強く惹かれるものがあると言えそうだった。
「同じく顔がよろしい者であったなら、ついてくるオプションは多い方がよろしいでしょう?」
当然ですわよね、とセリーンはにっこりと笑った。
「しかし。その男は平民で……」
「祖父は騎士爵を叙しておりましたが、元を辿れば伯爵家の三男でした。その縁で、大伯父であるベント伯爵家に養子に迎えて貰うことになりました。そこからこちらへ婿入りする予定です」
ベント伯爵家とはラートン家の家業である銀山との取引もある。
武家であるベント家の領地では武具の加工も盛んで、その材料として銀が使われているのだ。
剣より計算で身を立てることにしたヨハンの父は、騎士爵である祖父の跡を継ごうとはしなかった。そうしてその息子であるヨハンも同じく平民として商人となるべく勤勉に務めてきた。
しかし、愛する女性を手に入れる為にできることがあるならば、手段を選ぶつもりはないのだ。
「くそっ。セリーン、お前こそ僕という婚約者がありながらこんな平民あがりの男と浮気をしていたんだな! 絶対に許さないぞ」
睨みつけるユリウスからセリーンを庇うように、ヨハンがその身を後ろに隠した。
「やってみろ。返り討ちにしてやるさ」
すでにヨハンは伯爵家の子息だ。ユリウスとは同位となる。
「ふん。王宮審査官が来たからなんだというのだ。私がラートン家を乗っ取ろうとしたという証拠などどこにある? この婚約は破棄させない。そうすればお前らの浮気が実証される。ベント家にたっぷり慰謝料を請求してやるから用意して待っているんだな」
長い捨て台詞は、セリーンの笑い声で遮られた。
「嫌ですわ。証拠もなしに男爵になりたてのラートン家から格上のハーバー家を訴えることなどできる筈がないではありませんか。王宮審査官に話を聞いても戴けないでしょう。……ご自分でサインした書類を、もうお忘れですか?」
その言葉で、ようやくユリウスは先日の書類に思い至った。
最後まで読むことすらせず書いたサインのその内容は、ほんの数行しか知らない。
しかし、そこに書いてあった文だけでも、十分すぎるほどの自供となるだろう。
「……そんな」
「これに懲りたら、最後まできちんと読まずにホイホイと書類にサインなどなされてはいけませんよ?」
「その前に、婚約中に他の令嬢に手を出すこともね!」
「マリエ?」止めなさい、とセリーンは咎めるように視線を送る。
それに対してマリエは軽く肩を竦めただけだった。
ついに、何も言葉を見つけられなくなったユリウスは、ふらふらと立ち上がり強引に入ってきた部屋から出ていこうとした。
その後ろ姿に。
「ユリウス様。ご縁はありませんでしたが、どうぞお元気で」
セリーンが声を掛けたが、立ち止まることはあっても、ユリウスが振り返ることは、もうなかった。
「あんな屑男に、励ましの言葉なんか掛ける必要ありませんよ」
憤慨した様子で付添人の老婦人が苦言を呈した。
付添人は通常、親族の未亡人が務めることが多いが、この老婦人はまだ寡婦ではなかった。そして、セリーンの親族でもない。
「未来の大伯母様は辛辣ですね。でも、ここで挫けてあの美貌が陰ることにでもなったら人類の損失ですわ。せっかくあれだけ顔がよろしいのに。……あら、そういえば、未来のお姑さまとおよびすべきでしたかしら? ねぇ、おばさまの事は、どちらで呼び掛けるのが正しいのでしょう」
セリーンのその問いに答えをくれる者は誰もいなかった。
皆、セリーンにツッコミを入れるのに忙しかったからだ。
「セリーンの恋愛基準、最後まで本当にブレないわね」
「ブレない娘セリーン、恐ろしい子」
「セリーン様らしすぎて。
……そんなセリーン様を、お慕いしております」
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とっても面白かったです!
ハーバー家もセリーンもどちらも欲しいものが清々しかった(笑)
めちゃ納得のいくラストでした!! 読ませていただきありがとうございます♪
みこと。さん、こんにちはですー
ありがとうございますー🙌ヤッター
くちさがない女が最後は三人も集まっていいたい放題してるこのお話。
自分で書いてて笑っておりましたw
楽しんでいただけて嬉しいです。
ありがとうございましたー💖