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「やっちまった……」
あの後、倒れたウェルスナーをあわてて介抱し、屋敷にもどってお湯やら代わりの服やら毛布やらをもってきて、ウェルスナーを着替えさせた俺は、ウェルスナーをとりあえず自分の部屋に連れ帰り、ベッドに寝かせてやった。
その後、倉庫に戻ると倉庫の後始末、換気をし、掃除をしながら「そういやウェルスナーがこの倉庫に来たのって、なんか用事を頼まれてなかったっけ?」と思い出し、ウェルスナーの運ぼうとしていた資材を俺が倉庫から代わりにメイドの元に持っていってやり、届けられたメイドが「!?!?! ロスト様がわざわざ持ってきてくださったんですか!?」と卒倒寸前になり、慌ててウェルスナーが具合が悪くて倒れたため俺が仕事を代わりにやったことを説明し、メイド達から平身低頭の勢いで礼を言われるというアクシデントもあった。
うーん、どっと疲れたぜ。
ちなみに、資材の運搬はいつもは男の使用人がやってるんだけど、今日は急用で屋敷内にいなかったので、ウェルスナーが気をきかせて行ってくれたらしい。堅物とは言われているものの、基本的には女性相手には優しいウェルスナーなのだった。
そして、そんなウェルスナーは、今、俺の部屋のベッドの上でこんこんと眠り続けている。
よほど体力を消耗したのだろう。
倉庫での出来事はお昼前のことだったのだが、もうとっくに日は沈みかけ夕方になろうとしている。だが、ウェルスナーは起きる気配はない。
「……この力、俺が思っていたよりも危険だな」
今回、痒みの能力を初めて人間に行使したことで、わかったことがいくつかある。
まとめると、こんな感じだ。
・俺の視界内に入った生き物の、任意の部分に「痒み」を生じさせることができる。
・胎内など、本来ならば痒みが発生しないようなところでも発生させられる。
・程度はやはり魔力の過多しだい。でも、全体的に魔力消費は少ない。本当に少ない。その気になればずっと続けていられる。
・あたえる痒みの過多によっては、人の理性ではとめることができず、掻き続ける。
特に、最後のやつが今回はいい経験になった。
モンスターの場合、そもそも「痒くても掻くのをとめなきゃいけない」という理性が薄い。S級モンスターなら、人を凌駕した知性と理性を持つって言われてるけれど、そんな危険ランクには会ったことがないしなぁ。
今回、ウェルスナーが俺に見られていても後口を掻くのを止められなかったのは、つまり、俺の能力は発生させたら最後、相手は理性で止めることはできないというわけだ。
つまり。俺はやろうと思えば、相手の身体中に痒みを発生させ、そいつを狂い死にさせることもできる……というわけである。
……わけである、とかクールに言ってる場合じゃねぇ!
絶対もうコレ、人には打ち明けられないヤツじゃん! 見れば最後、相手を狂い死にさせることも可能、って自分のことながら怖すぎるわ!
誰かに知られたら死ぬまで能力を利用されるか、もしくは投獄されて幽閉されるかのどっちかしか未来が見えねェよ!
よし、誰にもこの力のことは打ち明けないようにしよう。
そして今以上に、俺がこんな力をもってるってことは誰にもバレないようにしなければ。
「みゃあ」
思案にふけっていた俺の耳に、かわいらしい声が聞こえた。
そして、ぴょんと俺の膝のうえに何かがのってくる感触。
「なんだミーコ、俺を心配してくれるのか?」
「みゃお」
「ふふ、可愛いやつめ」
ウェルスナーの寝ているベッドの傍らに腰掛けていた俺。そんな俺の膝の上にのってきたのは、まっしろでふわふわの毛並みのエアリーキャットだった。
そう。こいつは幼い頃の俺が庭で、最初にこの力の犠牲にしてしまった小型モンスターである。
あれからなんでか、エアリーキャットは俺になついて、そのまま俺の部屋に住み着いていた。手のひらほどのサイズしかなかった体躯は、やはりそのままだが、背中には小さくて透明の羽が生えており空を飛ぶこともできる。
ちなみに、エアリーキャットは庭に穴をほって花壇を台無しにしてしまう害獣なのだが、このエアリーキャット――ミーコは、俺が教え込むと既定の場所以外でしか穴掘りをしないようになった。なので、その可愛らしさでメイドや使用人たちからもでれでれに愛されている。
「みゃお!」
「あっ、ミーコ」
そんなミーコは、俺の膝からジャンプすると、勢いよくウェルスナーの寝ているベッドにダイブした。しかも、ウェルスナーの腹のあたりにぽてんと落ちる。
ミーコは「お前がもたもたしてるから起こしてやったぜ!」みたいないたずらげな表情で俺を見返した後、ベッドから走り去ってどこかへと言ってしまった。
「う……」
ミーコがダイブした軽い衝撃に、ウェルスナーの目がゆっくりと開かれた。
「ぁ……ロスト、様? なんでおれ、ここに……?」
「あー、いや。そのだな、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっき……?」
寝ぼけ眼だったウェルスナーだったが、先ほどのことをを忘れたわけではなかったようだ。
その顔はみるみる真っ赤に染まり、とうとう耳まで赤くなった。
「っ、おれ……! な、なんて格好をロスト様に……っ、申し訳ございません!」
がばりとベッドから飛び起き、ベッドの上で正座をして頭を下げてくるウェルスナー。
「落ち着け、ウェルスナー。俺もお前がいきなりあんなことをするのはおかしいと思ってたんだ。何か理由があったんだろう? 俺でよければ話してくれないか?」
そんなウェルスナーをなだめるように声をかける俺。相変わらずしらじらしい演技だが、ウェルスナーはそれに気づく様子はなく、しばし逡巡する様子を見せたものの事の次第を俺に語ってくれた。
◆
「ふぅん……。つまり今日、突然お前の身体の一部分に耐えきれない痒みが生じた、と。何も心当たりはないんだな?」
「はい……何故、私の身体にいきなりそんな異常が起こったのか……」
まぁ、あるわけないよね。
本当は俺のせいなんだ、ごめんよウェルスナー。
「何かの病気か、またはお前の身体の中で魔力が暴走を起こしている、ということかな……」
「……魔力の暴走、ですか」
「ああ。ウェルスナーの魔力はそんなに多い方じゃなかったよな?」
「はい、魔法はろくに使えません。今だって、そんなに魔力が増えた感じはないのですが……」
「なるほど。なら、何かのきっかけで突発的に魔力が増えるよなことになり、それが体内で暴走しているのかもしれない」
「魔力」というのはこの世界の人間すべてが所持をしているものだ。
持っている魔力の質や属性、多さはによって違いがある。魔力の多さが多ければ多いほど強力な魔法が使えるし、魔力の属性によって火魔法、水魔法、聖魔法などの魔法が使えるようになる。一般的な人間では、魔法が使えるほどの魔力を持っている者は稀だ。
俺のもっともらしい今考えたテキトーな説明に、考え込むように黙るウェルスナー。
「だが、まだそうと決まったわけではないしな。しばらくは様子を見て、この症状がひどくなるようなら対策方法を考えよう」
「……ありがとうございます。でも、そこまでロスト様にして頂くわけにはいきません。治癒者は自分で探してみるつもりですので、お気遣いなく」
「…………ふぅん?」
……なんだかなぁ。
起きてからのウェルスナーは、先ほどの痴態はまるで夢の出来事だったみたいに、かたくなで不愛想で、つれない態度だ。倉庫の中では、あんなに可愛く俺にねだってきてくれたのに。
そういや、いつの間にかウェルスナーの一人称も「私」に戻ってるな。
戻るというか、本来の素での一人称は「おれ」の方なのだろう。倉庫の中や、先ほど起きたばっかりの時は「おれ」だったのに、不愛想な態度になったと同時に一人称も「私」になってしまった。
……なんだか、さびしい。
「……治癒者を探すっていうのはツテがあるのか?」
「いえ、ありませんが」
「じゃあ、どうやって探すつもりなんだ? 人になんて説明をするつもりか、今、俺に言ってみてくれないか?」
「っ、それは……っ」
ウェルスナーの無表情だった顔に、かぁっと朱がさした。
「わかったか? とても人には説明しづらいだろう、こんな症状では」
「で、ですが……。このまま放置しておくわけにはいきません。俺には、ロスト様の護衛騎士という任務があるのですし……」
「ならなおさら、俺を放っておいて治癒者を探しにいかれても困るな。ふむ、つまりいい考えがある。
――――俺がお前の治療にあたればいいわけだ」
「……はい?」
こてん、と首をかしげて聞き返してくるウェルスナー。
何を言っているのかわからない、という様子だ。
安心しろ、俺も自分自身に対してそんな気持ちだ!
「お前の症状、先ほどの様子では一人では解決できそうにもないだろう? だから、これからはああいった症状が出たら、俺に報告をしろ。俺が一緒に解決をしてやる。あとは、治癒者についても、伯爵家のツテを借りて口の堅くて信頼できる奴を探そう」
堂々と「親の威を借りるぜ!」宣言。
人としてどうかと思う発言だが、貴族社会なんてこんなもんなので、特にウェルスナーが幻滅する様子はないので何よりだ。
「そんな……ロスト様に、そんなにお手を煩わせるわけにはいきません」
「手を煩わせるなんてことはないさ」
肩をすくめて、ウェルスナーを安心させるように笑ってみせる俺。
「ウェルスナーは俺の大事な騎士だからな。それに、お前のああいう姿を他のヤツに見せたくない」
「え……」
俺の言葉に目をしばたいてポカンとしているウェルスナーに、俺は手をのばして、その栗色の髪をすくようにして撫でる。倉庫にいた時も思っていたのだが、意外と猫っ毛なウェルスナーの髪は、触っていて気持ちがいい。
だが、俺のような年下の男に頭をなでられるなんて、ウェルスナーが嫌がるかと思ったが、意外にもそのまま黙って、されるがままに俺の手を受け入れていた。
その後、しばらくたってから最後に小さく、「ありがとうございます」と小さくウェルスナーが呟いたのが可愛すぎて、なかなか頭なでなでをやめるタイミングが掴めなかったのはご愛敬だろう。
さて、先ほどの俺の「これからこういう症状が出たら俺に報告しろ」という発言。
……うん、つまり、俺はまだまだウェルスナーに対してこの能力を使うつもりだ。
理由は2つある。
まず1つ。
お気づきだろうか? そう、ウェルスナーに今回しかけた実験は、「新しく手に入れた快楽発生という能力の検証」という名目があったはずなのだが……。
俺、ウェルスナーにイタズラするのに夢中になり過ぎて、新しい能力をウェルスナーに試すのをすっかり忘れてました。ハイ。
いや、しょうがないんだって! あの状況だとウェルスナーもいっぱいいっぱいだったし、さらに快楽なんか加えてたらウェルスナーの精神が壊れてたよ!
まぁ、そんなこんなでまだ新しい能力の実験をしていない、ってのが理由の1つ。
2つ目は……。
ウェルスナーのあんなにいやらしい痴態、あれきりだなんて勿体ない!
もう一度だけ……いや、何度でもずっとでも見たい!
能力を試すだけということで、本当は今回だけのつもりだった。だけどさ、いつもは堅物だなんて言われている不愛想でポーカーファイスなウェルスナーが、他人の知らない所ではあんなに乱れて、俺の意のままに調教されるなんて最高だよね?
ということで、半分どころか百パー俺の私欲によって、ウェルスナーを今後も人体実験という名の調教をすることに決めた俺。
ごめんな、ウェルスナー。でも、お前が悪いんだ。
俺のことが嫌いなくせに、俺の護衛騎士なんかになったお前が悪い。俺にいつも不愛想で無関心な態度みたいなくせに、あの時、あんなに俺をことを求めてねだったお前が悪い。
……本当は、わかってるんだ。
こんな方法じゃあ、お前が俺に振り向いてくれたわけじゃないってこと。
でも、しょうがないだろう。
ようやくお前が、俺に色んな顔を見せてくれるようになったんだから。
俺には、こんな方法しかないんだから。
あの後、倒れたウェルスナーをあわてて介抱し、屋敷にもどってお湯やら代わりの服やら毛布やらをもってきて、ウェルスナーを着替えさせた俺は、ウェルスナーをとりあえず自分の部屋に連れ帰り、ベッドに寝かせてやった。
その後、倉庫に戻ると倉庫の後始末、換気をし、掃除をしながら「そういやウェルスナーがこの倉庫に来たのって、なんか用事を頼まれてなかったっけ?」と思い出し、ウェルスナーの運ぼうとしていた資材を俺が倉庫から代わりにメイドの元に持っていってやり、届けられたメイドが「!?!?! ロスト様がわざわざ持ってきてくださったんですか!?」と卒倒寸前になり、慌ててウェルスナーが具合が悪くて倒れたため俺が仕事を代わりにやったことを説明し、メイド達から平身低頭の勢いで礼を言われるというアクシデントもあった。
うーん、どっと疲れたぜ。
ちなみに、資材の運搬はいつもは男の使用人がやってるんだけど、今日は急用で屋敷内にいなかったので、ウェルスナーが気をきかせて行ってくれたらしい。堅物とは言われているものの、基本的には女性相手には優しいウェルスナーなのだった。
そして、そんなウェルスナーは、今、俺の部屋のベッドの上でこんこんと眠り続けている。
よほど体力を消耗したのだろう。
倉庫での出来事はお昼前のことだったのだが、もうとっくに日は沈みかけ夕方になろうとしている。だが、ウェルスナーは起きる気配はない。
「……この力、俺が思っていたよりも危険だな」
今回、痒みの能力を初めて人間に行使したことで、わかったことがいくつかある。
まとめると、こんな感じだ。
・俺の視界内に入った生き物の、任意の部分に「痒み」を生じさせることができる。
・胎内など、本来ならば痒みが発生しないようなところでも発生させられる。
・程度はやはり魔力の過多しだい。でも、全体的に魔力消費は少ない。本当に少ない。その気になればずっと続けていられる。
・あたえる痒みの過多によっては、人の理性ではとめることができず、掻き続ける。
特に、最後のやつが今回はいい経験になった。
モンスターの場合、そもそも「痒くても掻くのをとめなきゃいけない」という理性が薄い。S級モンスターなら、人を凌駕した知性と理性を持つって言われてるけれど、そんな危険ランクには会ったことがないしなぁ。
今回、ウェルスナーが俺に見られていても後口を掻くのを止められなかったのは、つまり、俺の能力は発生させたら最後、相手は理性で止めることはできないというわけだ。
つまり。俺はやろうと思えば、相手の身体中に痒みを発生させ、そいつを狂い死にさせることもできる……というわけである。
……わけである、とかクールに言ってる場合じゃねぇ!
絶対もうコレ、人には打ち明けられないヤツじゃん! 見れば最後、相手を狂い死にさせることも可能、って自分のことながら怖すぎるわ!
誰かに知られたら死ぬまで能力を利用されるか、もしくは投獄されて幽閉されるかのどっちかしか未来が見えねェよ!
よし、誰にもこの力のことは打ち明けないようにしよう。
そして今以上に、俺がこんな力をもってるってことは誰にもバレないようにしなければ。
「みゃあ」
思案にふけっていた俺の耳に、かわいらしい声が聞こえた。
そして、ぴょんと俺の膝のうえに何かがのってくる感触。
「なんだミーコ、俺を心配してくれるのか?」
「みゃお」
「ふふ、可愛いやつめ」
ウェルスナーの寝ているベッドの傍らに腰掛けていた俺。そんな俺の膝の上にのってきたのは、まっしろでふわふわの毛並みのエアリーキャットだった。
そう。こいつは幼い頃の俺が庭で、最初にこの力の犠牲にしてしまった小型モンスターである。
あれからなんでか、エアリーキャットは俺になついて、そのまま俺の部屋に住み着いていた。手のひらほどのサイズしかなかった体躯は、やはりそのままだが、背中には小さくて透明の羽が生えており空を飛ぶこともできる。
ちなみに、エアリーキャットは庭に穴をほって花壇を台無しにしてしまう害獣なのだが、このエアリーキャット――ミーコは、俺が教え込むと既定の場所以外でしか穴掘りをしないようになった。なので、その可愛らしさでメイドや使用人たちからもでれでれに愛されている。
「みゃお!」
「あっ、ミーコ」
そんなミーコは、俺の膝からジャンプすると、勢いよくウェルスナーの寝ているベッドにダイブした。しかも、ウェルスナーの腹のあたりにぽてんと落ちる。
ミーコは「お前がもたもたしてるから起こしてやったぜ!」みたいないたずらげな表情で俺を見返した後、ベッドから走り去ってどこかへと言ってしまった。
「う……」
ミーコがダイブした軽い衝撃に、ウェルスナーの目がゆっくりと開かれた。
「ぁ……ロスト、様? なんでおれ、ここに……?」
「あー、いや。そのだな、さっきのこと、覚えてるか?」
「さっき……?」
寝ぼけ眼だったウェルスナーだったが、先ほどのことをを忘れたわけではなかったようだ。
その顔はみるみる真っ赤に染まり、とうとう耳まで赤くなった。
「っ、おれ……! な、なんて格好をロスト様に……っ、申し訳ございません!」
がばりとベッドから飛び起き、ベッドの上で正座をして頭を下げてくるウェルスナー。
「落ち着け、ウェルスナー。俺もお前がいきなりあんなことをするのはおかしいと思ってたんだ。何か理由があったんだろう? 俺でよければ話してくれないか?」
そんなウェルスナーをなだめるように声をかける俺。相変わらずしらじらしい演技だが、ウェルスナーはそれに気づく様子はなく、しばし逡巡する様子を見せたものの事の次第を俺に語ってくれた。
◆
「ふぅん……。つまり今日、突然お前の身体の一部分に耐えきれない痒みが生じた、と。何も心当たりはないんだな?」
「はい……何故、私の身体にいきなりそんな異常が起こったのか……」
まぁ、あるわけないよね。
本当は俺のせいなんだ、ごめんよウェルスナー。
「何かの病気か、またはお前の身体の中で魔力が暴走を起こしている、ということかな……」
「……魔力の暴走、ですか」
「ああ。ウェルスナーの魔力はそんなに多い方じゃなかったよな?」
「はい、魔法はろくに使えません。今だって、そんなに魔力が増えた感じはないのですが……」
「なるほど。なら、何かのきっかけで突発的に魔力が増えるよなことになり、それが体内で暴走しているのかもしれない」
「魔力」というのはこの世界の人間すべてが所持をしているものだ。
持っている魔力の質や属性、多さはによって違いがある。魔力の多さが多ければ多いほど強力な魔法が使えるし、魔力の属性によって火魔法、水魔法、聖魔法などの魔法が使えるようになる。一般的な人間では、魔法が使えるほどの魔力を持っている者は稀だ。
俺のもっともらしい今考えたテキトーな説明に、考え込むように黙るウェルスナー。
「だが、まだそうと決まったわけではないしな。しばらくは様子を見て、この症状がひどくなるようなら対策方法を考えよう」
「……ありがとうございます。でも、そこまでロスト様にして頂くわけにはいきません。治癒者は自分で探してみるつもりですので、お気遣いなく」
「…………ふぅん?」
……なんだかなぁ。
起きてからのウェルスナーは、先ほどの痴態はまるで夢の出来事だったみたいに、かたくなで不愛想で、つれない態度だ。倉庫の中では、あんなに可愛く俺にねだってきてくれたのに。
そういや、いつの間にかウェルスナーの一人称も「私」に戻ってるな。
戻るというか、本来の素での一人称は「おれ」の方なのだろう。倉庫の中や、先ほど起きたばっかりの時は「おれ」だったのに、不愛想な態度になったと同時に一人称も「私」になってしまった。
……なんだか、さびしい。
「……治癒者を探すっていうのはツテがあるのか?」
「いえ、ありませんが」
「じゃあ、どうやって探すつもりなんだ? 人になんて説明をするつもりか、今、俺に言ってみてくれないか?」
「っ、それは……っ」
ウェルスナーの無表情だった顔に、かぁっと朱がさした。
「わかったか? とても人には説明しづらいだろう、こんな症状では」
「で、ですが……。このまま放置しておくわけにはいきません。俺には、ロスト様の護衛騎士という任務があるのですし……」
「ならなおさら、俺を放っておいて治癒者を探しにいかれても困るな。ふむ、つまりいい考えがある。
――――俺がお前の治療にあたればいいわけだ」
「……はい?」
こてん、と首をかしげて聞き返してくるウェルスナー。
何を言っているのかわからない、という様子だ。
安心しろ、俺も自分自身に対してそんな気持ちだ!
「お前の症状、先ほどの様子では一人では解決できそうにもないだろう? だから、これからはああいった症状が出たら、俺に報告をしろ。俺が一緒に解決をしてやる。あとは、治癒者についても、伯爵家のツテを借りて口の堅くて信頼できる奴を探そう」
堂々と「親の威を借りるぜ!」宣言。
人としてどうかと思う発言だが、貴族社会なんてこんなもんなので、特にウェルスナーが幻滅する様子はないので何よりだ。
「そんな……ロスト様に、そんなにお手を煩わせるわけにはいきません」
「手を煩わせるなんてことはないさ」
肩をすくめて、ウェルスナーを安心させるように笑ってみせる俺。
「ウェルスナーは俺の大事な騎士だからな。それに、お前のああいう姿を他のヤツに見せたくない」
「え……」
俺の言葉に目をしばたいてポカンとしているウェルスナーに、俺は手をのばして、その栗色の髪をすくようにして撫でる。倉庫にいた時も思っていたのだが、意外と猫っ毛なウェルスナーの髪は、触っていて気持ちがいい。
だが、俺のような年下の男に頭をなでられるなんて、ウェルスナーが嫌がるかと思ったが、意外にもそのまま黙って、されるがままに俺の手を受け入れていた。
その後、しばらくたってから最後に小さく、「ありがとうございます」と小さくウェルスナーが呟いたのが可愛すぎて、なかなか頭なでなでをやめるタイミングが掴めなかったのはご愛敬だろう。
さて、先ほどの俺の「これからこういう症状が出たら俺に報告しろ」という発言。
……うん、つまり、俺はまだまだウェルスナーに対してこの能力を使うつもりだ。
理由は2つある。
まず1つ。
お気づきだろうか? そう、ウェルスナーに今回しかけた実験は、「新しく手に入れた快楽発生という能力の検証」という名目があったはずなのだが……。
俺、ウェルスナーにイタズラするのに夢中になり過ぎて、新しい能力をウェルスナーに試すのをすっかり忘れてました。ハイ。
いや、しょうがないんだって! あの状況だとウェルスナーもいっぱいいっぱいだったし、さらに快楽なんか加えてたらウェルスナーの精神が壊れてたよ!
まぁ、そんなこんなでまだ新しい能力の実験をしていない、ってのが理由の1つ。
2つ目は……。
ウェルスナーのあんなにいやらしい痴態、あれきりだなんて勿体ない!
もう一度だけ……いや、何度でもずっとでも見たい!
能力を試すだけということで、本当は今回だけのつもりだった。だけどさ、いつもは堅物だなんて言われている不愛想でポーカーファイスなウェルスナーが、他人の知らない所ではあんなに乱れて、俺の意のままに調教されるなんて最高だよね?
ということで、半分どころか百パー俺の私欲によって、ウェルスナーを今後も人体実験という名の調教をすることに決めた俺。
ごめんな、ウェルスナー。でも、お前が悪いんだ。
俺のことが嫌いなくせに、俺の護衛騎士なんかになったお前が悪い。俺にいつも不愛想で無関心な態度みたいなくせに、あの時、あんなに俺をことを求めてねだったお前が悪い。
……本当は、わかってるんだ。
こんな方法じゃあ、お前が俺に振り向いてくれたわけじゃないってこと。
でも、しょうがないだろう。
ようやくお前が、俺に色んな顔を見せてくれるようになったんだから。
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