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追手
しおりを挟むララが新たな街を目指していた頃、トマス・オルフォードは見当違いな場所を探していた。
目撃情報が無いにもかかわらず、鬱蒼と茂る森を捜索していた。「女が隠れ住む場所は大体こんなもの」と決めつけているのだ。
「まだか!まだ見つからんのか!」
苛立ち怒鳴る王子は自分は馬車の中で寛いでいた、茶と菓子を偉そうに口に運び何もしようとしない。ほんとうに探す気があるのだろうか。
「報告します、焚き木などの痕跡がまったくございません。このようにゴブリン共が巣くう森で女子供が潜む余地はないかと思われます」
「ぬう?ゴブリンか……確かになあのように貧相な小娘は生きられないか」
漸く見当違いな捜索であったと気が付いたトマスは、ここから一番近い街を目指すことにした。それはガウドとポルデという町だ。
ガウドはまさに彼女がいた痕跡のある街であったが、トマスはポルデを探すように命令した。
「隠れて暮らすのならば、やはりポルデであろう。その町は不届き者が辿り着くに相応しいからな!」
ポルデは貧民窟がある町なのだ、そこに狙いを定めた愚かなトマスは「待っていろクラーラ!」と誇らしげに笑った。とんだ見当違いだ。
「隊列を組め、前進!」
こうして勘違いをしたままトマスは陣頭指揮を執るのだった。
***
一方その頃、馬車移動をすることにしたララであったが、目的地は遠く港町のポートリックだという。この旅で一番長い道のりだ。馬車を乗り継ぎ3週間はかかる、お尻のガビガビは覚悟しなければならない。
「なんだそんな距離なら私が乗せて行くのに」
「はぁ?」
言うが早いかシェイドは大きな鳥に変身して「背に乗れ」と促して来る。呆気に取られるララを無視して無理矢理に乗せてしまう。
「ちょっと!私は世話になるなど」
「いいから、頼むよ。グエンドローでの失態を取り戻したいのだ、この通り!」
「わわわっ!前のめりにならないで!落ちちゃうから!」
頭を下げた反動で下方にずれたララは悲鳴をあげる、これは二度失敗したと落ち込むシェイドだ。
「ごめんクラーラ、どうか嫌いにならないで!お願いだよ」
「はぁ……」
必死に懇願してくる大きな鳥の背中に「どうしようもない人」と呆れかえるララだ。
「ねえ、どうしてそんなに必死なの?私なんてつまらない人間だわ。そりゃあ少しだけ魔法は得意だけどそれだけよ」
ララはそう卑下して言うがシェイドは「そんな事はない」とぶっきら棒に返事した。
だいぶ飛行した頃合いで休憩しようと下に降りていく、陽はだいぶ傾き茜色に染まっていた。精霊神の彼はともかくとして彼女はかなりきついはずだ。
「はあ~大地……久しぶりの大地」
ヘロヘロになりながら騎乗した鳥から離れる、彼女は「うう~ん」と伸びをした。お尻の被害はほとんどなかったが、背中に大きな負担がかかっていた、慣れないことで余計な力を使っているようだ。
シェイドは人型に戻ると「落とさないように結界をはったから」と言った。
「そう言われてもこっちは必死なの……」
「うん、ゴメン。慣れて欲しい」
改めて彼と対峙したララは長身で体格の良いシェイドに圧倒される。その上、人ならざる美しさをしている。なんて眩しいとララは目を眇める。
「私はどこか可笑しいかな?人間に近しいつもりなのだが」
「……そうね、だいぶ可笑しいから」
「ええ、そんなぁ!」
彼女の忖度無い感想を聞いたシェイドは蒼くなった、そんな様子を見たララは「ぶふっ」と笑ってしまう。
「可笑しい貴方、ご飯にしましょうか、それとも神様はご飯は要らないの?」
「た、食べるぞ!供物は直接食べなくとも平気だが具現化したいまは腹が空く」
「そう、だったら竈を造って」
人に命令されるなどあってはならないはずだが、シェイドは大喜びで請け負う。
「待っててクラーラ!立派なのを造るから!」
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