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最期
しおりを挟むアンブラ家は貴族制廃止の前に即刻取り潰しとなった、しかも極刑は免れない。これは法改正1日前のことだ。己の欲が招いたことである、誰も彼らを憂う者はいない。
「あの……あの家の者は」
「いいや、キミが気にすることじゃない。忘れると良い」
「でも……」
だが、フレデリクはそれ以上言わさなかった。王族特有の威厳のなせる業とでも言うのか、彼がじっと見つめるとエミリアは委縮してしまい口を噤む他出来ない。
ここは城の一室である、モダンスタイルの調度品の素晴らしさに感嘆する、そして完全に孤立したエミリアは所在無げにしていた。
「えっと……それでは私はそろそろお暇しますね」
居たたまれなくなった彼女はよそ行きの顔を見せて退室する旨を伝えた。すると明らかに不機嫌になったフレデリクは待ったをかける。
「どうした?何か歓待に不手際でもあっただろうか」
「いいえ!そんな事は決して!お茶も美味しかったですし……」
「ならばどうして茶を残したんだ、ほとんど飲んでないじゃないか」
いつもの軽口でそういう彼にエメリアはつい反論する。
「はあ?急にこんな所に押し込められて平常心を保てという方がどうにかしてる!お城よ!下町の小娘が連れて来られて困惑すると思わないの?サイテー!」
「え……いや、済まなかった。配慮が足りなかったよ」
急に悄気てしまったフレデリクは王子の顔をしていない、いつもの”フレディ”になっていた。城の従者たちの手前どうしても王族の顔を貼り付けなければならなかった。
「ではこうしよう、皆の者人払いを……あぁ扉は半開きにしておいてくれ」
「畏まりました、いつでもお呼びください」
侍女が最後にそういうと護衛騎士すらいなくなった。
改めて彼女に対峙する彼は再び”フレディ”に戻ると冷めた茶を下げて自ら淹れ直し不器用そうに注ぎ入れる。
「美味しいかはわからないけど……」
「え、ありがとう」
それはちょっとばかり渋かったが上等な茶は十分に美味しいと彼女は思った。
「それで言い訳を聞かせて貰おうかしら?」彼女はやっといつもの顔に戻りクッキーを一つ摘まむ。
***
貴族制廃止当日、大きな変化は特に見られなかった。ただ、下位の貴族達は何かとツケで支払いをしていたのが仇となり一部で取り立てにきた商人たちに袋叩きにあっていた。
その後、すっかりフレディに戻ったフレデリク王子はエメリアの店に入り浸り何かとチョッカイをかけていた。
「もう、何しにきたのよ!王子様!やっすい紅茶など要らないでしょ?」
「そう言わないでくれよぉ、ね?機嫌直して」
「ふん!」
彼の言い訳は大したことではない、王子の身分を隠して下町に来ていたのは嫁探しだ。
『今後の王族はもっと親し気に民と向き合うべきだ!俺は平民の事をもっと知りたい、そして嫁だ!嫁は自分の目で見定めたい』
と宣ったのだ、貴族がいなくなったのだから当然と言えたが半分は遊びたいだけなのではとエミリアは思う。
エミリアは忙しなく動き働いている、商店は相変わらず繁盛している。たまに元貴族だったものがやってきて酒を樽で売れと言ってくる。
「あらぁ、それで支払いのほうは?払えるんでしょうね?」
「そんなものツケだ!当たり前だろう!」
以前と同様にふんぞり返る元貴族は無理矢理に樽を奪おうをしていた。だが……
「おやおや、困るね旦那ぁキッチリ現金払いして貰わないと」
「なにぃ!何を偉そうに……」
「うん、偉いよ?王子だからね」
「いっ!?」
例のブローチを見せびらかして彼は言う「王家に楯突くの?平民の癖に」とやり込めた。
「あんたって本当は腹黒いのでは?」
「え?今頃知ったのかい、でもね王族は腹黒どころかドロドロに腐敗してないとやってられないんだ」
「へーそうなんだ、こっわ!」
いつもの軽口を言い合う二人は大笑いしている。
「それでいつ嫁に来る?俺はいつでも準備万端なんだけどな」
「え~冗談、私は嫌よ。あんな堅苦しいところ」
「そこを何とか!商売なら続けていいから!ね、お願い!」
「ん~さて、どうしようかな?」
完
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