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第八章 | 守銭奴商人 vs 性悪同心
守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾肆
しおりを挟む喜兵寿と直がいない間、麦芽をつくるためにつるがどれだけ頑張っていたかは、夏から聞いていた。温度と水分量を確認し、何か異変がないか心を砕く。出来上がった麦芽をみた瞬間、つるがどれだけ真摯に麦芽と向き合ってきたかは、すぐにわかった。
そして。聞けば、村岡が柳やに突如押しかけてきた際には、その身を挺して麦芽を守ったというではないか。喜兵寿が鬼の形相で村岡を罵っていた傍らで、直は「愛がすげえ!つるめちゃくちゃかっこいい!」と叫んだことを思い出した。
「あれ?米を使ってビールを醸造しようとしていること、つるはどう思ってるんだ?」
つるが命をかけて守った麦芽。それを「これは使えなかった」と脇において、新たな方法を話し合っていたとき。つるは一体どんな顔をしていただろうか?
直は必死で記憶を振り絞ろうとしたものの、どうしてもその表情を思い出すことはできなかった。
「つるってさ、自分の人生変える決意してまで、ビール造ろうって決めたんだよな……?」
直はぼそりと呟く。
「兄ちゃんのこととかいろいろあってさ、それでも酒造りたいって夢があってさ。だから俺『一緒にやろうぜ』って言ったんだよな」
「やっべ……」そう呟くと直は立ち上がった。
「俺つるのこと迎えに行ってくるわ!」
「はぁ?何言ってんだ!」
勢いよく麹室を飛び出そうとする直を、喜兵寿が慌てて止める。
「急に何を言ってるんだ!どこで誰が見てるかわからないんだぞ?!つるは死んだことになっている。それをよく考えろ」
喜兵寿の言葉に、直は「でもつるだって仲間だろ!」と叫ぶ。
「俺たちが酒蔵でビールを造るって話をしたとき、あいつがどんな気持ちだったか……一緒に造ろうって約束したのに、何も言わずに出てきちまった」
「仕方ないだろう!つるは麹がつくれるわけでもない。日本酒を醸造できるわけでもない。危険を冒してまで、ここに来る意味なんてないだろ!」
「そんなんわかってるよ!」
直はぐうっと唇を噛みしめた。
「でもつるは自分の子供を育てるように麦芽をつくってくれたんだ。それが不要だって言われて、どんな風に思ったか。つるだって人生かけてビールを造るって決めたんだ。危ないからあとはずっと家の中で指をくわえて見てろって……そんなの可哀そうすぎるだろ」
「そんなこと言って、つるに何かあったらどうするつもりなんだ!」
今にも取っ組み合いが始まりそうな二人の間に、小西は「まあまあ」と割って入った。
「だったらワシが籠を手配しよう。下の町には馴染みの籠屋が数件あってな。口は堅いよ」
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