三層世界カランコーレル~目覚めたら隣にいた女の子は神仙なのか魔族なのか?~

NO*NO(ののはな)

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王龍

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山に融けた神仙はどうなるのだろう。

谷底に融けた魔族はどうなるのだろう。

かつての大戦で山に消えた魔族と人間はどうなったのだろう。

滅された魔族はどうなったのだろう。

新しく生まれてくる命の源は何なのだろう。

『生の気』はなぜ人間にしか無いのだろう。

人間の女性はなぜ身籠もりたがるのだろう。
『放』で子種を飛ばせば体に負担も掛からないのに。

恋愛、情愛、親愛、友愛…愛とは何だろう。




私はそんなことをぐるぐると考えている子どもだった。

物心つく頃にはもう母は亡く、何を考えているのか分からない父と、そんな父にまるで存在していないかのように扱われている弟の間で、泣いても笑っても不正解のような居心地の悪さを感じていた。

怒れば良かったのかもしれない。

母の命を奪ったものは何か。

直接的には弟の誕生だが、断じて弟のせいではない。

『放』で飛ばされてしまい、知らぬ間に生まれてきた私に納得出来ずに、なんとしても次の子を身籠もることを望んだ母のせいか?

それを引き留めることが出来ずに許した父のせいか?

そも、私に納得出来ていれば身籠もることなど望まなかった?

私は愛されていなかったのだろうか?




愛というものが知りたかった私は、人間の女性にそれを求めた。

母、蘭玲ランレイの姿は知らない。
父が隠してしまったから。

だけど春鈴シュンリンに出会った時、懐かしさと暖かさを感じた私は彼女を欲した。

卵だけではなく、彼女そのものが欲しかった。

それが愛情だったのかは、もう分からない。

私に王座を譲って消えた父に対する反抗心なのか、愛玩するという行為に溺れただけなのか。

私は彼女を身籠もらせなかった。
卵をもらい、時満ちて一龍イーロンは生まれた。

それでも彼女は息子を愛して会いたがったが、私は滅多にそれを認めなかった。

春鈴シュンリンを守りたかったのか。
ただの拙い独占欲だったのか。

私は彼女を守る結界に細工をした。
命が尽きる時に私に知らせが来るように。
それは結界の崩壊を意味したが、まさかそのタイミングで私より先に一龍イーロンが扉を開けるとは思わなかった。

体温をまだ失い始めてはいなかった母を、事切れているとも知らずに無邪気に起こそうとしている幼い息子を、私は掴み上げて放り投げた。

泣き叫ぶ我が子が、どんどん冷たくなっていく物言わぬ妻が、それらを悼むよりも煩わしく感じてしまう自分が疎ましくて疎ましくて疎ましくて…

私は息子の記憶を封印して、逃げた。

そう…逃げたのだ。
ただの書き置き一枚を残して。
“弟宇然ユーランに王座を譲る”と。

幸いなのかどうかは分からないが、その時に一番の側近はいなかった。
一龍イーロンをもっと母親と会わせてはどうかと進言してくるのが鬱陶しくて、遠方に出向させていたから。

高い塔を結界で見えなくしてほぼ引き籠もっていた弟は、王座など要らなかったと思うがしょうがない。

私たちの瞳に光があれば、『暗』が使えれば、女性の気持ちを求めることなく子を成せれば…。

きりが無い。

いつまでも、あの一番の側近俊英シュンエイから逃げられるとは思えなかった。
正直、この世にも未練が無かった私は、私の滅した。

精神だけになった私は何処へでも行けるが、考えること以外の何も出来ない。

そして私は考える。

命とは、何処から来て何処へいくのだろうかと。

愛とは何なのだろうかと。







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