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リボンをむしり取った結果

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(あった!!これだわ!!やっぱり同じ物だわ。ですが・・・何故同じ物がここに・・・。)

 ピアノの前で腕組をしたエステルダが、首を傾げて唸っていると、後ろでクスリと笑う声が聞こえた。

「そのリボンで間違いないですか?ですが、そのリボンがどうかしましたか?」

ドアに寄りかかるように立っていたレナートに向かいエステルダは、これで間違いないことを伝えた。

「ですが、貴方はどうしてこのリボンだと、直ぐに気付いたのですか?」

「ははっ、姉上は、お忘れですか? あんなに私を叱りつけたのに。」

「えーと・・・それは? なんのことかしら・・・。」

「うわー・・・、本当に覚えていないんですね。やはり、そんなに大事な物ではなかったってことですね。なのにあんなに私を怒って・・・。」

レナートは、呆れた顔で自分を見ていたが、その言葉の意味を全く理解できないエステルダは、眉間に皺を寄せて懸命に思い出そうとした。しかし、いくら考えても記憶が蘇ることはないのだった。
すると、やれやれとでも言うようにレナートは話始めた。
 
「それは、姉上のドレスのリボンです。子供の時のお茶会で、姉上のドレスから一つだけもらって、私が小さな女の子にあげたんですよ。」

「え?・・・・あっ・・・そう言えば・・・。」

遠い記憶の中で、まだ少年のレナートを、なにやら𠮟りつけている自分の姿が蘇ってきた。それは、赤や青の原色のドレスを好んで着ていたエステルダが、ロゼット公爵家主催のお茶会で、初めてモスグリーンのドレスに挑戦しようとした時の記憶だった。

(そうだわ・・・。大人を意識してあの色にしたんだったわ・・・。濃い緑のリボンがたくさん付いたドレス。そうそう、私の瞳の色を意識してリボンにはサファイアが・・・。)


「これだわ!!」


熊のぬいぐるみの前に仁王立ちしたエステルダが、ビシっと指をさし、大きな声で叫ぶと、その姿を見たレナートは、ブッと吹き出した。そして、もう堪えきれないとばかりに、お腹に手を当てて笑い出した。
何がそんなに可笑しいのか・・・。腰を曲げて笑っているレナートを横目でジロリと睨んだエステルダは、指をさしたまま、くるりとレナートに向き直った。

「レナート!このリボンについて、覚えていることを今すぐ説明するのです!」

「いやぁ、ははっ、最近の姉上はなんだか生き生きとしていますね。何を一人でポーズ決めてるんですか。まるで、推理小説の主人公のようですよ!」

名探偵姉上!などと言いながら、未だ涙目で肩を震わせているレナートを前に、意味が分からないとばかりにきょとんとしたエステルダだったが、気を取り直して、もう一度瞳に力を込めた。

「レナート!笑っていないで、さっさと質問に答えるのです! 先ほどの話から言って、少なくともわたくしよりは覚えているのでしょう?・・・残念ですが、わたくしの記憶はドレスを台無しにされて怒っているところだけなのです。」

「うーん・・・。何を知りたいのか分かりませんが、私の記憶と言っても先ほど言ったことが全てと言いますか―――」

「よく思い出すのです!!」

「はあ。よく・・・ですか。確か、あのお茶会で、小さな女の子が泣いていて・・・。なぜ泣いていたのかな・・・。それで、可哀想だと思ったので、姉上のドレスに付いていたリボンを渡そうと思ったんです。そうそう、姉上のドレスにたくさん付いていたから、一つくらいなら貰っても大丈夫だと思ったのに、それに気付いた姉上が烈火のごとく怒って―――」

「当たり前です!!着ようと思ったドレスのリボンが引きちぎられているのですから怒るに決まっているではありませんか!!」

その日、エステルダはブルーのドレスで母親と挨拶回りをして、その後に部屋に用意していたモスグリーンのドレスに着替える予定でいたのだ。なのに、着替えようと部屋に戻ったら、明らかにリボンを無理やり引きちぎったと見られるあとが残っていたのだった。

「あっ・・・。だから、この熊にリボンが・・・。」

「思い出しましたか? 姉上は、ドレスが駄目になったと散々怒りつけた後、とても気に入っていたのに!と言って、ドレスからリボンをむしり取って、嫌がらせでこの熊にそのリボンを付けて私の部屋に置いたんですよ。」

「ああ・・・。これを見る度に反省しなさい・・・だったかし・・・ら?」

うふっと、可愛らしく小首を傾げて微笑んでいるエステルダを無言で見ているレナートだったが、その鋭い三白眼は氷のように冷たかった。


その、冷たい視線からのがれるかのように、エステルダは一つ咳払いをした。
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