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想い合う二人の一方では
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「アリッサ、感触を教えてください。」
唇を離したレナートが、今度はアリッサの柔らかい頬に口付けを落とした。真っ赤に染まった頬は、まるで熱を持ったように熱く感じたが、レナートはそのまま、頬からひんやりとした耳に口付けを移した。
「アリッサ、ちゃんと教えて。」
少し焦りを感じさせるレナートの声が耳元で聞こえると、アリッサの体はピクリと動いたが、彼にアリッサを開放する気はない。
「いきなりだったので分かりませんか?でしたら、もう一度。今度はちゃんと感じてくださいね。」
そう言うと、レナートの唇がアリッサの唇に戻って来た。そして、今度はゆっくりと時間をかける。二人以外誰も存在していない静まり返った塔の中に、小さなリップ音が響いていた。
「どうですか?アリッサ。・・・私との口付けは嫌ですか?」
アリッサの頬に両手を当てたレナートが、覗き込むようにアリッサの瞳を見ている。アリッサは、押さえられた顔をどうにかふるふると振り、嫌ではないことを伝えた。
そして、熱に浮かされたようにレナートの唇を見つめると、「柔ら、か、いです。」と、本当に小さな声でなんとか呟いた。
恥じらいながらもうっとりと自分を見つめているアリッサに、顔を赤くしたレナートは、我慢ができないとばかりに、もう一度アリッサの頬を押さえつけると、可愛らしい小さな唇に自分の唇を重ねた。
「これが、本当の私です。アリッサ、お願いです。今の私を感じてください。簡単に私の側から離れようとしないで・・・。何もかも一人で解決しようとしないで・・・。私は、もう貴女を愛しています。この時点で、アリッサの悩みは私の悩みになっているのです。ですから、もう、一人で決断しないで。」
そして、レナートはアリッサの脇に手を持って行くと、そのまま抱き上げて自分の膝に座らせた。戸惑うアリッサを抱え込むようにぎゅっと抱きしめると、彼女の顎を上げ、口付けを続けた。このままでは、いつかアリッサが自分から離れて行ってしまうという焦りもあったが、今ここで、どうしても過去の自分に勝たなくてはいけないとも考えていた。
(本当は、今の私など必要ないと言うことに、アリッサが気付いてしまう前に。)
一方、食堂で昼食を食べるヴィスタの前には、長いさらさらの黒髪が印象的な、彼らの従妹であるナターシャが、神秘的な黒い瞳で背後に潜む人物を感じ取っていた。
「へぇー、あのお嬢様ってば、まだ貴方に飽きていないのね。」
視線をヴィスタに戻したナターシャは、薄く笑いながらヴィスタの反応を伺っていた。
「まあね。ふっ、可愛いよね。」
しかし、まるでなんでもないことのようにヴィスタが笑ったので、ナターシャは少なからず驚いていた。
「可愛い? え? 彼女、そんなタイプ?」
「うん。可愛いよ。」
「へぇー・・・。貴方が女の子を褒めるなんて珍しいこともあるのね。そう言えば、最近見ていないけど、アリッサへの嫌がらせはどうなったの?」
それを聞いたヴィスタは、はははっ、と声を出して笑った。
「もうないよ。そもそも殿下の婚約者候補も辞退したって言ってたから、姉さんを虐める理由もなくなったんだろうね。」
「そう・・・。飽きたのは殿下の方か。ふーん。」
「良くも悪くも素直な人だよ。あんなに嫌っていたのに、今では姉さんと、なんだかんだ仲良くやってるんだから、言いたいことを言って、やりたいことをやって、後腐れのない人だよ。」
楽しそうに笑うヴィスタに、目を丸くしたナターシャは驚きを隠せなかった。
「貴方達姉弟は、一体どうしちゃったのよ!? アリッサが、あの大きすぎる金髪王子に夢中なのは分かるけど、貴方までおかしくなってしまったら駄目じゃない!現実から目を背けては駄目よ!?あんな高位貴族相手に、本当に上手くいくとでも思ってるの!?」
「ははっ、上手くいかないだろうね。」
は?どうなってるの?と、訝しげに首を傾げるナターシャを前に、ヴィスタは爽やかに微笑んでいるのであった。
「何を楽しそうに話しているのかしら・・・」
ヴィスタとナターシャが見える位置に席を取ったエステルダは、スープ皿のじゃがいもをスプーンでつつきながら、独り言を漏らした。
エステルダの見る限り、ヴィスタの横には女性が居ることが多い。特に誰と決まっている訳ではなかったが、ただでさえヴィスタの美しい桃色の髪は人を引き付けるというのに、更にスタイルも良く、優しい物腰の美男子とくれば、いくら没落寸前の子爵令息と言えど、彼に群がる令嬢は少なくなかった。
ただ、貴族令嬢であるならば、誰もが彼の家に嫁ぐリスクを理解していたし、なによりヴィスタ本人が令嬢達に深入りさせないようにと、一定の距離を保っているのが傍から見ていても直ぐにわかるのだった。
そんなヴィスタも、姉のアリッサと従妹のナターシャにだけは心を許しているようで、二人と居る時間は他の令嬢に比べるとかなり多かった。
(アリッサ様は、あの二人を兄妹のようなものだとおっしゃっていましたが、こうして見ていると、どうしても二人の関係を疑ってしまいますわ・・・。ヴィスタ様は、いつでもどんな時でも、優しく微笑んでおられますが、あのように別の表情を見せる相手はアリッサ様とナターシャ様だけですわ。今だって、あんなに楽しそうに笑って・・・。なんて、美しい笑顔・・・ではなく、なんて羨ましい。)
いいだけ突っついたじゃがいもをようやく口に運んだ時、彼女は、自分の横に男性が立ち止まったことに気が付いた。
「こんにちは、ロゼット嬢。」
エステルダが、口をもぐもぐと動かしながら見上げた相手は、柔らかそうな茶色の髪の男子生徒で、エステルダに向かってにっこりと微笑んでいた。
唇を離したレナートが、今度はアリッサの柔らかい頬に口付けを落とした。真っ赤に染まった頬は、まるで熱を持ったように熱く感じたが、レナートはそのまま、頬からひんやりとした耳に口付けを移した。
「アリッサ、ちゃんと教えて。」
少し焦りを感じさせるレナートの声が耳元で聞こえると、アリッサの体はピクリと動いたが、彼にアリッサを開放する気はない。
「いきなりだったので分かりませんか?でしたら、もう一度。今度はちゃんと感じてくださいね。」
そう言うと、レナートの唇がアリッサの唇に戻って来た。そして、今度はゆっくりと時間をかける。二人以外誰も存在していない静まり返った塔の中に、小さなリップ音が響いていた。
「どうですか?アリッサ。・・・私との口付けは嫌ですか?」
アリッサの頬に両手を当てたレナートが、覗き込むようにアリッサの瞳を見ている。アリッサは、押さえられた顔をどうにかふるふると振り、嫌ではないことを伝えた。
そして、熱に浮かされたようにレナートの唇を見つめると、「柔ら、か、いです。」と、本当に小さな声でなんとか呟いた。
恥じらいながらもうっとりと自分を見つめているアリッサに、顔を赤くしたレナートは、我慢ができないとばかりに、もう一度アリッサの頬を押さえつけると、可愛らしい小さな唇に自分の唇を重ねた。
「これが、本当の私です。アリッサ、お願いです。今の私を感じてください。簡単に私の側から離れようとしないで・・・。何もかも一人で解決しようとしないで・・・。私は、もう貴女を愛しています。この時点で、アリッサの悩みは私の悩みになっているのです。ですから、もう、一人で決断しないで。」
そして、レナートはアリッサの脇に手を持って行くと、そのまま抱き上げて自分の膝に座らせた。戸惑うアリッサを抱え込むようにぎゅっと抱きしめると、彼女の顎を上げ、口付けを続けた。このままでは、いつかアリッサが自分から離れて行ってしまうという焦りもあったが、今ここで、どうしても過去の自分に勝たなくてはいけないとも考えていた。
(本当は、今の私など必要ないと言うことに、アリッサが気付いてしまう前に。)
一方、食堂で昼食を食べるヴィスタの前には、長いさらさらの黒髪が印象的な、彼らの従妹であるナターシャが、神秘的な黒い瞳で背後に潜む人物を感じ取っていた。
「へぇー、あのお嬢様ってば、まだ貴方に飽きていないのね。」
視線をヴィスタに戻したナターシャは、薄く笑いながらヴィスタの反応を伺っていた。
「まあね。ふっ、可愛いよね。」
しかし、まるでなんでもないことのようにヴィスタが笑ったので、ナターシャは少なからず驚いていた。
「可愛い? え? 彼女、そんなタイプ?」
「うん。可愛いよ。」
「へぇー・・・。貴方が女の子を褒めるなんて珍しいこともあるのね。そう言えば、最近見ていないけど、アリッサへの嫌がらせはどうなったの?」
それを聞いたヴィスタは、はははっ、と声を出して笑った。
「もうないよ。そもそも殿下の婚約者候補も辞退したって言ってたから、姉さんを虐める理由もなくなったんだろうね。」
「そう・・・。飽きたのは殿下の方か。ふーん。」
「良くも悪くも素直な人だよ。あんなに嫌っていたのに、今では姉さんと、なんだかんだ仲良くやってるんだから、言いたいことを言って、やりたいことをやって、後腐れのない人だよ。」
楽しそうに笑うヴィスタに、目を丸くしたナターシャは驚きを隠せなかった。
「貴方達姉弟は、一体どうしちゃったのよ!? アリッサが、あの大きすぎる金髪王子に夢中なのは分かるけど、貴方までおかしくなってしまったら駄目じゃない!現実から目を背けては駄目よ!?あんな高位貴族相手に、本当に上手くいくとでも思ってるの!?」
「ははっ、上手くいかないだろうね。」
は?どうなってるの?と、訝しげに首を傾げるナターシャを前に、ヴィスタは爽やかに微笑んでいるのであった。
「何を楽しそうに話しているのかしら・・・」
ヴィスタとナターシャが見える位置に席を取ったエステルダは、スープ皿のじゃがいもをスプーンでつつきながら、独り言を漏らした。
エステルダの見る限り、ヴィスタの横には女性が居ることが多い。特に誰と決まっている訳ではなかったが、ただでさえヴィスタの美しい桃色の髪は人を引き付けるというのに、更にスタイルも良く、優しい物腰の美男子とくれば、いくら没落寸前の子爵令息と言えど、彼に群がる令嬢は少なくなかった。
ただ、貴族令嬢であるならば、誰もが彼の家に嫁ぐリスクを理解していたし、なによりヴィスタ本人が令嬢達に深入りさせないようにと、一定の距離を保っているのが傍から見ていても直ぐにわかるのだった。
そんなヴィスタも、姉のアリッサと従妹のナターシャにだけは心を許しているようで、二人と居る時間は他の令嬢に比べるとかなり多かった。
(アリッサ様は、あの二人を兄妹のようなものだとおっしゃっていましたが、こうして見ていると、どうしても二人の関係を疑ってしまいますわ・・・。ヴィスタ様は、いつでもどんな時でも、優しく微笑んでおられますが、あのように別の表情を見せる相手はアリッサ様とナターシャ様だけですわ。今だって、あんなに楽しそうに笑って・・・。なんて、美しい笑顔・・・ではなく、なんて羨ましい。)
いいだけ突っついたじゃがいもをようやく口に運んだ時、彼女は、自分の横に男性が立ち止まったことに気が付いた。
「こんにちは、ロゼット嬢。」
エステルダが、口をもぐもぐと動かしながら見上げた相手は、柔らかそうな茶色の髪の男子生徒で、エステルダに向かってにっこりと微笑んでいた。
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