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呪いの豚とお邪魔虫
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翌日の放課後。教室の隅ではエステルダとアリッサの二人が、端切れを縫い合わせて教会のバザーに出すぬいぐるみを作っていた。
「ですからっ!これではひっくり返した時に生地が裏になるって先ほど教えたばかりですわ!! んんっまあー!! なんて不器用な人なのでしょう!!」
一見すると、悪役令嬢がヒロインを虐めている場面のようだが、意地悪く罵倒しているエステルダの持っているウサギは、耳の部分に赤いリボンが付いており、惚れ惚れするほど完璧で可愛らしい仕上がりであった。それに対して、頬を膨らませながらあからさまにふて腐れているアリッサの歪な形の猫は、大きさどころか左右で高さの違う目を持ち、その上、豚のように大きな鼻が付いていた。
「アリッサ様って、本当に不器用ですのね。なんでも器用にこなすヴィスタ様のお姉様とは思えませんわ。
・・・くふふ、それ、豚みたいですわね。」
老婆のように背中を丸め、無言でちくちく針を刺していたアリッサの手がピタリと止まった。
「なんですかさっきから、もう聞き捨てなりませんわ! 確かに、エステルダ様のウサギは可愛いですよ。ですが、いくら外見が可愛いウサギだとしても気持ちが入っていませんわ。そんなのは普通のつまらない人形です! それに比べて私の猫ちゃんは心がこもっていますからね。とっても愛嬌があります。そちらの無機質な量産品の人形に比べ、ほら、私の猫ちゃんは誰にも作れない一点物なのです。ああ、今にも喋り出しそうですわ。きっと高値で買い取りたいと言う人が現れるはずです。」
「呪いの人形を?」
「のろっ!? は!? なんて失礼なことを!!」
エステルダとアリッサが、ごちゃごちゃと揉めながらもぬいぐるみを作っていると、
「調子はどうですか?」
と、レナートとヴィスタが連れ立って入って来た。
「まあ、ヴィスタ様、ごきげんよう!今日も眩しいほど素敵ですわ。大好きですわ!」
熱烈に愛を吐き出して、ほんのりと頬を染めるエステルダだったが、はっ!と、レナートに目を止めると大声を出した。
「レナート、大変ですわ!! ほら、これをごらんなさい!!」
エステルダに咄嗟に奪われた猫を、「あー!!駄目です!!」と、慌てて奪い返そうとするアリッサだったが、その前にレナートによって腰に腕を回されて 「こんにちは」 と、耳元で挨拶されてしまうと、瞬時に身を固くして静かになってしまった。
「ごらんなさい、レナート! 豚ですわ!!」
エステルダが意気揚々と掲げた猫を見て、ヴィスタが咄嗟に ぷっ、と吹き出した。
「ヴィスタ殿からアリッサは裁縫が苦手と聞いていましたが、なんだ、とても上手ではありませんか。大丈夫です、ちゃんと豚に見えますよ。 そして、とても強そうですね。 そうだ!豚の親分にしてはどうですか?」
「猫です・・・。」
「えっ!?ん? ネコ!?」
レナートにくっ付かれた状態で、小さな声で反論したアリッサだったが、このレナートの驚きようにはさすがに腹を立てたようだった。
眉間に皺を寄せると、そっぽを向いて頬を膨らませている。
その横では、エステルダとヴィスタが目に涙を浮かべて笑っている。・・・すると、
「それはさすがに猫には見えないですね。」
そう言って現れたシャナスが、エステルダに向かってにっこり微笑んだ。
「こんにちは、エステルダ様。」
それまで楽し気に笑っていたヴィスタから表情がスッと消えた。
「・・・ごきげんよう・・・シャナス様。」
エステルダの気のない挨拶にも、シャナスは気付く様子を見せない。
「それにしても、エステルダ様のウサギはさすがですね。まるで売り物のように完璧です。」
そう言って、うっとりするような顔でエステルダを見つめている。
「・・・本日は、どうされましたか?わたくしに何か御用でもございましたでしょうか?」
エステルダのシャナスに対する態度は、あくまでも冷淡で他人行儀であった。しかし、そんなエステルダにはお構いなしで人懐っこい笑みを浮かべたシャナスは四人の輪に入ってこようとしている。チラリとヴィスタに冷たい視線を送ったようだが、珍しく不機嫌を顔に出しているヴィスタがシャナスの方を向くことはなかった。
(まあ、ヴィスタ様が怒ってるわ。これって、もしや、嫉妬!?)
昨日、自分も嫉妬をします。と、しっかり聞いたエステルダは、不謹慎にも不機嫌なヴィスタに胸をときめかせていた。瞳を輝かせて、何度もヴィスタの横顔をチラチラと盗み見ていたのだが、調子に乗ったシャナスがエステルダの隣に座り、その手に触れようとした時、エステルダの瞳は瞬時に吊り上がった。
「シャナス様、いい加減になさいませ!貴方様の目的は、わたくしではなくロゼット公爵家ですわよね!? でしたら、このような戯れは時間の無駄にございます。先日、家に届いた釣書にもお断りのお返事を致したはずです。それに貴方は演技が下手過ぎるのです。何を参考にそのような人間性を演じていらっしゃいますの?」
「ですからっ!これではひっくり返した時に生地が裏になるって先ほど教えたばかりですわ!! んんっまあー!! なんて不器用な人なのでしょう!!」
一見すると、悪役令嬢がヒロインを虐めている場面のようだが、意地悪く罵倒しているエステルダの持っているウサギは、耳の部分に赤いリボンが付いており、惚れ惚れするほど完璧で可愛らしい仕上がりであった。それに対して、頬を膨らませながらあからさまにふて腐れているアリッサの歪な形の猫は、大きさどころか左右で高さの違う目を持ち、その上、豚のように大きな鼻が付いていた。
「アリッサ様って、本当に不器用ですのね。なんでも器用にこなすヴィスタ様のお姉様とは思えませんわ。
・・・くふふ、それ、豚みたいですわね。」
老婆のように背中を丸め、無言でちくちく針を刺していたアリッサの手がピタリと止まった。
「なんですかさっきから、もう聞き捨てなりませんわ! 確かに、エステルダ様のウサギは可愛いですよ。ですが、いくら外見が可愛いウサギだとしても気持ちが入っていませんわ。そんなのは普通のつまらない人形です! それに比べて私の猫ちゃんは心がこもっていますからね。とっても愛嬌があります。そちらの無機質な量産品の人形に比べ、ほら、私の猫ちゃんは誰にも作れない一点物なのです。ああ、今にも喋り出しそうですわ。きっと高値で買い取りたいと言う人が現れるはずです。」
「呪いの人形を?」
「のろっ!? は!? なんて失礼なことを!!」
エステルダとアリッサが、ごちゃごちゃと揉めながらもぬいぐるみを作っていると、
「調子はどうですか?」
と、レナートとヴィスタが連れ立って入って来た。
「まあ、ヴィスタ様、ごきげんよう!今日も眩しいほど素敵ですわ。大好きですわ!」
熱烈に愛を吐き出して、ほんのりと頬を染めるエステルダだったが、はっ!と、レナートに目を止めると大声を出した。
「レナート、大変ですわ!! ほら、これをごらんなさい!!」
エステルダに咄嗟に奪われた猫を、「あー!!駄目です!!」と、慌てて奪い返そうとするアリッサだったが、その前にレナートによって腰に腕を回されて 「こんにちは」 と、耳元で挨拶されてしまうと、瞬時に身を固くして静かになってしまった。
「ごらんなさい、レナート! 豚ですわ!!」
エステルダが意気揚々と掲げた猫を見て、ヴィスタが咄嗟に ぷっ、と吹き出した。
「ヴィスタ殿からアリッサは裁縫が苦手と聞いていましたが、なんだ、とても上手ではありませんか。大丈夫です、ちゃんと豚に見えますよ。 そして、とても強そうですね。 そうだ!豚の親分にしてはどうですか?」
「猫です・・・。」
「えっ!?ん? ネコ!?」
レナートにくっ付かれた状態で、小さな声で反論したアリッサだったが、このレナートの驚きようにはさすがに腹を立てたようだった。
眉間に皺を寄せると、そっぽを向いて頬を膨らませている。
その横では、エステルダとヴィスタが目に涙を浮かべて笑っている。・・・すると、
「それはさすがに猫には見えないですね。」
そう言って現れたシャナスが、エステルダに向かってにっこり微笑んだ。
「こんにちは、エステルダ様。」
それまで楽し気に笑っていたヴィスタから表情がスッと消えた。
「・・・ごきげんよう・・・シャナス様。」
エステルダの気のない挨拶にも、シャナスは気付く様子を見せない。
「それにしても、エステルダ様のウサギはさすがですね。まるで売り物のように完璧です。」
そう言って、うっとりするような顔でエステルダを見つめている。
「・・・本日は、どうされましたか?わたくしに何か御用でもございましたでしょうか?」
エステルダのシャナスに対する態度は、あくまでも冷淡で他人行儀であった。しかし、そんなエステルダにはお構いなしで人懐っこい笑みを浮かべたシャナスは四人の輪に入ってこようとしている。チラリとヴィスタに冷たい視線を送ったようだが、珍しく不機嫌を顔に出しているヴィスタがシャナスの方を向くことはなかった。
(まあ、ヴィスタ様が怒ってるわ。これって、もしや、嫉妬!?)
昨日、自分も嫉妬をします。と、しっかり聞いたエステルダは、不謹慎にも不機嫌なヴィスタに胸をときめかせていた。瞳を輝かせて、何度もヴィスタの横顔をチラチラと盗み見ていたのだが、調子に乗ったシャナスがエステルダの隣に座り、その手に触れようとした時、エステルダの瞳は瞬時に吊り上がった。
「シャナス様、いい加減になさいませ!貴方様の目的は、わたくしではなくロゼット公爵家ですわよね!? でしたら、このような戯れは時間の無駄にございます。先日、家に届いた釣書にもお断りのお返事を致したはずです。それに貴方は演技が下手過ぎるのです。何を参考にそのような人間性を演じていらっしゃいますの?」
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