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フェルミト王国編

第22話 聖女の追跡

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翌日

 あの後、 王女様と友人になった私達は今後もどこかで会う機会を設けようと約束し、その場で解散した。

 目が覚めると、私の横には白鳥さんが居た。

 例の白鳥型のオマルであった。

「私に何か用事ですか?」

 白鳥さんは首をカクンと傾け肯定の意を示し、私の部屋の扉を開けて出て行った。

「後を追ってみましょう。」

 私が部屋を出ると、白鳥さんはギャモーの部屋の扉を何度も蹴りつけていた。

 どうやらギャモーにも来て欲しいようだ。

「どうしたってんだ?」

 ギャモーも既に起きていたようで、部屋から出てくる。

「白鳥さんが何か用事があるそうです。」

「何だそりゃ?」

 私達が会話をしていると、白鳥さんは走り出してしまう。

「待って下さい。」

「待て。俺も行くぞ。」

 私が白鳥さんを追い、それをギャモーが追いかける形になった。

 どこかへ誘導しようとしているようだ。

 こんな朝から一体どんな用事があるというのでしょう?

 私達は迎賓館を出て、そのまま街を疾走するオマルを追う。

 早朝だというのに、流石は王都。

 まばらではあるが、既に起床した人達が活動を始めているようだ。

 商店街を駆け抜け、冒険者ギルドを通り過ぎ、道行くカツアゲ男を踏みつけ、辿り着いた先は……。

「ここは……。」

「はぁはぁ……。一体何だってんだ?」

 ギャモーは体力が無いようで、既に息があがっている。

 ほんの30分走っただけなのにね。今度鍛えてあげようかしら?

「スラム街って奴か?」

「そうかもしれないわね。」

 綺麗な表通りとは別世界。ここの区画はまるでスラムと言っても差し支えないような、言ってしまえば汚らしい格好をした浮浪者が居り、廃材で出来た小屋のような物まで存在していた。

 白鳥さんは、そんなスラムを更に奥へと駆け抜ける。

「あっ。待って。」

「……まだ走るのかよ。」

 スラム街は結構な広さだったようで、更に15分程走った。

 私はギャモーが心配で、彼に合わせて走っていたら白鳥さんとは距離が離れてしまう。

しかし、白鳥さんは古ぼけた大きな館の玄関を何度も蹴りつけ始めたので、何とか見失わず追い付けた。

「人の家を蹴ってはダメですよ?」

 そう諭すが、言う事を聞いてくれずそのまま蹴っている。

 結構な威力で蹴りつけていたようで、館の玄関を破壊してしまった。

「どうしましょう。住人に謝らなきゃ。」

 白鳥さんは壊した玄関を通り抜け、正面の階段を上って二階へと行く。

「何だテメェは?」

「襲撃か?」

 そう言って二階から出て来たゴロツキのような風貌をした男達を次々と蹴りとばして、奥へと進んでいく白鳥さん。

「あぁ。ごめんなさい。後で言って聞かせますから。」

「お、おい。これ本当にヤバイんじゃねぇか?」

 ギャモーは何かを感じ取っているのか、顔色が悪い。

「こういう所ってのは、スラム街のまとめ役のような奴がいるんじゃねぇのか?」

 何それ? 村長とか町長みたいな人の事?

「でも、白鳥さんがやった事ですし、私達が行って謝らないと。」

 奥の部屋からは悲鳴が聞こえて来る。

「ダメよ。人を蹴ったらいけないわ。」

 私は白鳥さんを止める為、奥の部屋へと入る。

 すると……

「やめてくれ! 何故こんな所に魔物が出るんだ!!」

 ゴロツキ達が蹴り飛ばされていた。

 その中には上手く蹴りを回避するちょっとだけ偉そうな感じの人がいる。

 親分的な人かしら?

 どうやら魔物の襲撃と勘違いしているようだ。

「白鳥さん。その人を蹴らないで下さい。」

 私が声を掛けると白鳥さんは蹴るのをやめてくれた。

「貴様等、魔物をけしかけて一体どういう了見だ!!」

「ごめんなさい。この白鳥さんは友達のペットなんですけど、どうしてかここへ走って来てしまい、それを追いかけて来たんです。」

「フンッ! 見え透いた嘘を言うな。お前はどこの鉄砲玉……」

 言葉を止め、私をジロジロと見る親分みたいな人。

 何だか視線が厭らしい。

「おい、そこの冒険者の男。その女を渡せば今回の件は許してやっても良いぞ。」

「はぁ?」

「俺は元SSランク冒険者、火炎のゼンだ。今でこそこんな所に住んじゃあいるが、実力は錆び付いちゃいねえ!」

 SSランク? ギャモーより強いじゃない。

「クソ! 何でここにそんな二つ名持ちが居やがる。俺じゃ止められねえっ!」

「その女を大人しく寄越せば痛い目に合わずに済むぜ? どうする?」

 ニヤニヤとこちらを見る元SSランクの男。

 グレーターデーモンとどちらが強いかしら?

「悪い事は言わねぇ。アリエンナに手を出すのはやめろ!」

「ほう。この女はアリエンナってのか。こんな上玉見た事がねぇ。」

 私を品定めする男は言葉を続ける。

「アリエンナ。俺の物になれば痛い目に合わねえぜ。」

「何を言ってるんです? 白鳥さんの事は謝ったじゃないですか。」

「こいつらは怪我してんだぜ? 謝られてもハイそうですかとはいかねえ。」

 そう言って倒れているゴロツキ達を指す。

「なんで貴方の物にならないといけないんですか?」

「落とし前だ。こんな事してタダで済ますわけねぇだろ。」

 謝っても許してくれそうにない。

 これは……ブッ叩いてあげないとダメかしら?
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