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田中神代

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15 山中の邂逅

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 知らず知らずのうちに走っていたのか。
足を止めたクァイリは,息を整える。
そして程なく追いついたディエントへ、振り返る。
「ディエントさん……、」
 しかし,言葉が続かない。
まだ切れている息を整えようとしつつ、視線を前へ戻す。
驚いていたディエントも、その視線の先にあるものへ目を向ける。
「…、野性の、ハリネズミ?」
 フーッ、と敵意を向けている,一匹のハリネズミがそこに居た。
たまに会う野生動物と何ら変わりない、警告音を出し警戒していた。
その姿を恍惚とした、嬉しくて仕方がない表情を見つめるクァイリ。
「これが、どうかしたの?」
 しばらく見ていたものの,何がそんなに嬉しいのか分からず,そう問う。
その言葉にクァイリは我に返り、一歩、後ろへ下がる。
一瞬、警告音が途切れるが、立ち去らないと分かると再びフーッ、と鳴き始める。
「このハリネズミ、…誰かに飼われていますか?」
「はぁ……?」
 そう問われ、訝しげに視線を前へ向ける。
分かっていたものの、目の前のハリネズミは明らかに野生動物そのものだった。
誰がどう見ても人慣れしていない、外敵に対する態度を再確認したディエントは
視線をクァイリに戻す。
「……野生動物、ですよね」
「ええ  野生動物だと思います」
 即答。
その素っ気ない返答に、少しムッとする。
しかし、すぐに次の言葉が続いた。
「野生動物が、ここまでの要塞を作り上げているんです」
 そう言われ、最初は何の事か、分からなかった。
ただ、要塞という大きなスケールの言葉に視野を広げる。
「……あ、」
 今ハリネズミが居る、巣穴付近。
そこを中心に、様々なものが辺りに配置されていた。
太めの枝で作られた柵
深く抉られている堀
折られた枝で作られている、屋根。
 人為的なものにしては、雑に作られているそれらは、自然に溶け込むようにそこにあった。
ディエントは試しに足元にある柵に手を振れてみるが、簡単には壊れなかった。
どうやったのか、深く差し込まれており、その上尖っている先端が外側へ向けられている。
「…気をつけてくださいね」
 ディエントの行動に気がついたクァイリが声をかける。
頷きながら、ふと手元に意識を向けると、少し違和感を覚えた。
緑色の、何かの植物をすり潰したような粘液が、尖っている先端に塗られていた。
「これは、何かしら…」
「おそらく、毒性のあるものかと」
 えっ、と手を引っ込める。
自分の手に少しついたその粘液をジッと見つめる。
そして軽く舐めると、舌を刺激する独特の感覚があった。
「………,確かに、ヤマキバチみたいね」
「無茶しますね」
 少し呆れながら、クァイリは荷物を背負い直した。
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