私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ

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不意の来訪。

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 オジサマの家まで送って貰い着替えを済ませた私は、そのまま真っ直ぐにアパートへと戻り、リリーカさんの言葉を思い返していた。

「私を殺してリリーカさんを手に入れる、か……」

 日本のメロドラマにもありそうなこの手の謀略。不老不死である私が能力を生かして暴く事も出来るが、能力が白日の下に晒されてしまうのが問題だ。

「リリーカさんの言う通り、何もしないのが正解なのかな」

 はあ。と、ため息を吐いてベッドへ倒れ込む。同時に、おでこの痛覚に異常をきたして、声にならない声を上げて転げ回った。花火っ! 花火が出たっ!

「くぅ~っ、痛ったぁ……何なのよもう」

 枕の下に手を突っ込むと、コツリと硬い物質に触れる。引っ張り出してみると、それは赤に染まった鉱物。

「そういえばコレがあったんだっけ」

 確定では無いが、私の血と混ざり合って出来たであろう鉱物。とっとと鑑定して売り払いたい所だけれど、過去二回鉱物絡みで事件に巻き込まれているだけに躊躇してしまう。

「どうしたら良いものやら……」

 幸い、通商ギルド『アルカイック』との契約は破棄されているから売ろうと思えば何処ででも売れる。しかし、ただの一般市民である私がこんな物を持ち込んだら大騒ぎになるのは明白。

「隠し持っておくにも不安があるしなぁ……」

 空き巣にも入られた経緯があるからタンス貯金は出来ないな。何処かに預けておければ……

「そうだ! 貸金庫にでも預け……って、結局ソコへ辿り着くのか」

 堂々巡りをしそうになっている事に気付き、その事は取り敢えず保留としてランタンの火を落とした。



 頬に感じた不思議な感触で意識が覚醒する。その感触とは、生暖かく柔らかな卸し金。ソレが幾度となく頬を行き来し、その度にザリザリザリとした音が耳に届く。

「んー? なーにぃ?」

 手に触れるもふっとした何か。あり得ない感触に、脳から緊急信号が送られた身体が即座に反応を見せて飛び起きる。

「な、なに?!」

 クルル。という鳴き声の様な音。暗がりに光る赤い目に、魔物でも入り込んだのかと冷や汗が大量に溢れ出る。近づいて来る動物に私も身構える。そして窓から差し込む月明かりでその姿が露わになった。

「え? ね、ネコ?」
「にぃ」

 細部は違うが、ソレはペットショップでお馴染みの猫の姿。私の膝に頭を擦り付ける行動からしても猫にしか見えなかった。

「ああ、ビックリした。魔物かと思ったじゃない」

 大型の魔物なら気付かれて退治されるだろうが、子猫サイズの魔物なら街中に入り込めそうだ。

「それにしても何処から入ったのよ」

 窓はキッチリ閉まっていて尚且つ鍵まで掛かっている。もしかしたら何処かに隙間でもあるのかもしれないが、今それを探そうとまでは思わなかった。

 私の膝に、しきりにマーキングしている猫の様な動物の襟を掴んでひょいと持ち上げ、窓から屋根の上に乗せる。

「お帰り、ここはあなたの住処じゃないのよ」

 何処かで聞いた事がある様な台詞を口にし、窓をバタンと閉める。大きな欠伸をしてから布団を被り寝直したその時、恐ろしい攻撃が始まった。

「にぃ、にぃ」

 カリカリ……

「にぃ、にぃ」

 カリカリカリ……

 寒いよ。入れてよ。そう言っているとしか思えないこの攻撃に、私は耐える事なく大敗を喫した。



 ──朝。目を覚ました私は、何時もよりは僅かに重い布団に気付く。その原因をソッと持ち上げて横に下ろし、爆発した頭を掻きむしって個室へと向かう。姿も映り込みそうなまでに磨かれた白磁の器に腰を下ろそうとして、いつの間にか付いて来ていたソレと目が合った。

「動物といっても流石に……」

 下ろし掛けのパンツをグイッと引き上げ、猫の様な動物を個室の外に追い出す。そして再び始まるにぃにぃカリカリ。しかしそれも通常版が産まれた頃には聞こえなくなっていた。

「ふぅ……」

 タンクの横に付属しているレバーを下ろすと、通常版の我が子は何処と知れぬ旅に出る。個室のドアを開けて室内に戻ると、猫の様な動物がテーブルの上に置かれた赤い鉱石に攻勢を掛けている所だった。

「ホント、何処から入ったんだろ……あ」

 室内を見渡して気付いた異変。それは、天井に見つけた僅かな隙間だった。

「もしかしてあそこから?」

 室内に降りたものの、高過ぎて戻れなくなった。といった所か。その可能性が高いな。

「ハァ、何かまた厄介事が増えたなぁ」

 ポイと出してしまえば良いのだろうが、私にはあの攻撃に抗う事が出来ないらしい。どうしたものかと頭を悩ませていると、ガラランッとドアベルが鳴り響いた。

『お姉様、いらっしゃいますか?』

 外から聞こえてきたのはリリーカさんの声。てしてしてしとキックをかましている猫の様な動物から鉱石を取り上げ、枕の下に隠してリリーカさんに応える。そして玄関の鍵に手を伸ばしかけて、慌てて再び室内に戻った。危うくパンツ一丁で出迎える所だったよ。



 身なりを整えてドアを開けると、リリーカさんが申し訳なさそうな表情で立っていた。

「あのお姉様、少しお話が……」
「話……? 何時ものお迎えじゃなくて?」
「はい。そうで──」
「てへっ、来ちゃった」

 リリーカさんの横からひょっこり。と顔を覗かせた、一人暮らしの彼氏の部屋に連絡も無しに突然やって来た彼女が、直後に彼の浮気現場を目の当たりにし、寝取られた事を知るであろう台詞を吐いた人物に、両の目を大きく見開いた。

「おおお王女殿下!?」
「しーっ、声が大きい」

 言われて慌てて口を塞ぐ。

「上がらせて貰っても良いかしら?」
「え、あ。どどどどうぞっ」

 右手の平を室内に向けて王女に道をあける。王女は物珍しげに見渡しながら入ってゆく。

「へぇぇぇ、これが庶民の部屋なのねぇ」

 庶民の中でも底辺の部屋ですがね。なにせ、月千五百ドロップなもんで。

「汚い所ですみません」
「んーん、そんな事無いよ。キレイに整理整頓されてるし、馬小屋よりは全然」

 最後の一言が余計だなこの王女様は。

「ねぇ、コレ。何処で売っているの?」

 王女が指差したのは、中に色取り取りの石が入っている瓶。何気に人気だな。

「それは買った物ではないですよ」
「え?! コレ売ってないの!?」
「はい、河原で拾ったただの石です」

 こんなに綺麗なのが河原に?! と驚いた表情でしげしげと眺めていた。

「粗茶ですがどうぞ」
「ん、有難う。……変わった味ね」

 出したお茶を一口飲んで最初に出た言葉がソレ。そりゃぁ、底辺庶民の底辺茶ですからね。

「それで王女殿下、お話とは……?」
「え? ああ、そうそう。これはリブラにも教えてないんだけど──」

 ゴクリ。と唾を飲み込んで次の言葉を待つ私とリリーカさん。そこで言葉を打ち切った王女は、コクリ。とお茶を飲み干して一息付く。クイズ番組の解答時の様なタメは要りませんって。

「──決闘してもらうわよっ」
「「へ?」」

 ビシッと私を指差して言ったその意味を理解するまでに、やや時間が掛かった。

「けっ! けけけけっとーですかっ?!」
「ええ、そうよ。相手には既に話をつけてあるから」
「王女殿下、その相手とはもしや……」
「勿論、あなた達の相手をするのは──」

 言葉の途中で、王女の動きが電池が切れた玩具の様に止まる。そしてその原因となったあるモノが、私の側を駆け抜けた。

「何このコ。可愛いっ!」

 王女は走り寄って来た獣を抱き上げてしきりに頬擦りをしている。が、獣の方が心なしか嫌がっている様に見えた。

「お姉様、あの動物は?」
「気付いたら居たのよ。天井の隙間から入り込んだんだと思うんだけど、外に出そうにも可哀想だから取り敢えず置いてるの」

 実際は可哀想だからではなくて、入れてよアピールに負けたからなんだけど。

「リリーカさん。アレなんていう動物なの? 私、見た事無いんだけど……」
「いえ、わたくしも見た事がありません。少なくとも、キュアノスと『セヘルグリス』周辺では見ませんわ」

 『セヘルグリス』。キュアノスより南。魔導船で一日程の場所にある、ウィリデ王国最南端の都市。リリーカさんが通っている魔術学校がある都市だ。

「魔物とも違うみたいですし、もしかしたら他の土地から来たのかもしれません」
「他の土地から? どうやって?」
「魔導船やキャラバンの荷物に紛れてとか。もしかしたら、サーカス一座の誰かが飼っているペットなのかもしれませんわね……」

 サーカス? 成る程、その可能性が高いか。

「ねぇ、お姉ちゃん。この子エリィに頂戴っ!」

 キラキラと目を輝かせて獣を差し出す王女。急に美幼女化しないでくれませんかね?

「頂戴って言われましても、私が飼い主ではないので……」
「なぁんだ。エリィつまんなぁい」

 頬をプクッと膨らませ、王女は抱いていた獣を床に下ろす。

「王女殿下、お話の続きをお願いします」
「そんな事より見てみて。このコ、解れ糸に戯れ付くの」

 床にぽいっ。と糸を投げ、ズルズル。と引っ張ると、ネコの様な獣はお尻を振りつかせて糸に飛び掛かる。その糸はベッドからはみ出たシーツへと伸びていた。

「エリシア様っ!」

 何度も話が脱線した所為か、リリーカさんは苛ついている様子。両手を付いたテーブルがダンッ。と思いの外大きな音を立て、それに驚いたネコの様な獣は軽く飛び上がってベッドの下に逃げ込んだ。大きな音に驚くなんて、ほんとネコっぽい。

「んもう、驚いて逃げちゃったじゃない」
「先ずはお話を。その後に思いっきり遊びましょう」

 リリーカさんも遊ぶ気マンマンじゃねーかっ!

「はいはい、分かったわよ。それで? えーっと、何だっけ? ああ、そうそう」

 頭を傾げていた王女は、パシッと手を打ちビシッと私を指差した。

「お姉ちゃんには決闘をして貰いますっ!」

 うん。それ最初に聞いた。
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