異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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9章 異邦人が生きるために

340 鈴音

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 く、最後の最後に気付かなくて良いことにまで気付いてしまって、無駄に精神ダメージを負ってしまったぜ……。
 真昼間の街中で、いきなり俺を殺そうとしてハンマー振り下ろしてくる妖怪だったからな。あの時の異常に強気な態度を思い返すと、常習犯だった可能性が高すぎる……。

 ダメだ。癒しが欲しい。ウィルスレイアでみんなと合流しなきゃ。


 報告は以上なので失礼しますって言ったけど、誰も反応してくれなかった。
 まぁ気持ちは分かる。頑張って受け入れて欲しい。


「お待ちください! 少々お時間いただけませんか!?」


 城の出口手前で呼び止められた。
 声の主はアリスに嗾けられて俺に突っかかってきた女だった。


「急いでるから用件だけを簡潔に。長いと思ったら付き合わない」

「――――え? あ、……あっと。はい。
 ……先日は失礼致しました。本当に申し訳ありませんでした」

「はい分かりました。じゃ」

「……え? えええええ!? ちょ、ちょっと! もうちょっとだけお待ちになって!?」

「あぁ? 急いでるっつったろ、ったく。じゃあ早く話せよ」

「あ、あの! 私に何か言う事とかないですか!? これでも私、この国の王女なんですけど!?」


 何だコイツうっざ。用件も的を得ないし付き合うだけ無駄か。


「言う事ね。ならお前の父親に伝言だ。金輪際娘を俺に近づけるなって伝えといて」


 返事は聞く気がないので対音バリアで完全無視。
 さて早くみんなに会いに行かないと。


「お、今帰りか。商売が順調そうで羨ましい」

「どうもです。お勤めご苦労様です」


 住宅街の兵士さんにはなんか挨拶しちゃうわ。


 わざわざ住宅街を抜けてからゲートでウィルスレイアに向かう。
 開発局は行かなくて良いや。直接ブラクムール大図書館に行く事にしよう。


「あれ? 今日はこっちに来たんだね。魔導具の方は良かったの?」

「いやぁ。報告に行ったら、王様に加えて精霊家の当主が揃っててさ。流石にちょっと疲れちゃった。
 みんなの顔が見たかったし、図書館にも入ってみたかったからさ。こっちに来たんだわ」


 内装は日本の図書館のイメージとは結構違うな。静かにしろっていう雰囲気でもなく、資料を持って個室に入り、集団で議論するようなスタイルらしい。
 この機会に、開発局から借りてる資料、全部読んじまうか。

 日没を迎え閉館。リーネを拾ってベイクに帰る。


「トーマ! 出来た! やっと出来たんだ! 私、とうとう出来たんだよ!」


 帰宅するなりマーサが抱きついてきた。
 え、もう妊娠したの? って言葉は、ギリギリで飲み込んだ。


「お疲れさん、頑張ったなマーサ。早速見せてもらえるか?」

「勿論だぜ! 間違いなく私の最高傑作だ!
 名前はつけてないから、出来ればトーマが決めてくれないかな……?」


 なんでテンションマックスから一気にしおらしくなるんだコイツは。

 マーサに手渡された、ひと振りの刀。鞘から引き抜くと、どこまでも透き通るような、真っ白な刀身。


「ま、実のところ、名前は既に決めてあるんだよ。俺専用の武器が出来たら、必ずこの名前をつけようと思ってたんだ。
 この刀の名前は『すず』だ。ようやく会えたな、鈴音」


 その時、まるで俺の声に応えるように、高くて綺麗な音が響いた。
 鈴音って名前、気に入ってくれたのかな?


「うん。鈴ってリンとも読むし、リーンとトルネの名前から取ったんだね? そして音読みだとリンネで、リーネの名前にも重なるし、異世界転生の輪廻ともかけてあるのかな?
 ふふ。そうして考えた名前が鈴音なんて、出来すぎだね。トーマって、ここぞって時に鈴の音を鳴らして合図してくれるもん」

「……ハルさんや。流石に解説されると恥ずかしいんですけど?
 言いたくないけど全部図星ですよコンチクショウ!」


 ま、今日から宜しくな相棒。
 鈴音を鞘に納めて腰に下げる。今までずっとありがとう。ロングソード。


「スズネか。いい名前じゃねぇか。スズネも気に入ったみたいだしな。
 まさか武器が啼くなんて、思ってもみなかったぜ……」

「まだ武器だけとは言え、エリアキーパーと戦う準備は出来てきたね。
 僕の心緑の流刃とトーマのスズネは、間違いなくエリアキーパーにも通じる武器のはずさ」

「ふふ。マーサに打たせて、私とトルネとリーネの名前を入れるなんて、トーマったら、私達のこと好きすぎでしょー!」

「うっせぇな。大好きに決まってんだろ。知ってるくせに。
 それに元いたところでは、武器に女性の名前をつけるのって、まぁまぁ珍しくなかったっぽいからな」

「私も大好きですよ。命を預ける武器に、私達の名前を選んでくれるなんて、素敵ですね」

「私は迷宮に入れないから、私がいない時は、私の代わりにトーマを守ってあげてね、スズネ……」


 短く綺麗な鈴の音が鳴る。


「うん。鈴音には意思があるのかな? それなら真っ白な美人、美刃さんだったし、綺麗な名前で似合ってると思うな」

「うおおおかっこよすぎっす! 綺麗過ぎっすよ! いいなートーマいいなー!
 カンナっち! 私たちも強くなって、マーサに武器を作ってもらうっすよぉ!」

「かっこいいし綺麗なのもわかるんだけど、なんとなく可愛さも感じるわね。
 トーマのことが好きで好きで堪らない子供みたいな……?」


 なんとなくだが分かる。鈴音が俺の事を大好きだってことが。
 ま、だからと言って仕舞っておく訳にはいかないけども。


「そりゃあトーマの嫁の私が、トーマのことだけを考えて生み出した、私の子供みたいなもんだからな!
 トーマのことが好きなのは当たり前だろ!? 私の想いを全部槌に乗せて打ったんだからな!」


 エリアキーパーの素材を使って、心核も用いて、最高の技術とスキルを身につけた職人が、魂を込めて生み出した刀だからな。そりゃ意思くらいあっても驚かない。

 他にも装備品は用意してもらう予定だけど、不思議だな。
 鈴音を見ていると、もう誰にも負ける気がしないわ。
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