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第20話 恐怖

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吹き飛ばす予定の場所にまず結界を展開する。
物質は通さず。
魔法の力は素通りするタイプの結界だ。

そして――

「ゼルゲイム!エクストラ!」

ゼルゲイム。
私の扱う最強の爆裂魔法だ。

熱と爆風で全てを消し飛ばすこの魔法は、大岩をも容易く吹き飛ばす程の威力を持つ。
更にこの魔法に極限まで魔力を籠めた上で、同じ魔法を複数同時に発生させて重複エクストラ化する事により、その威力は爆発的に上がる。

――巨大な火球が大きな山へと吸い込まれ、私の視界を真っ赤に染めあげた。

発生した凄まじい破壊のエネルギーによって、目の前の山は粉々に弾け飛んだ。
だが音はない。
そこから発生しているであろう高温の熱も、全てを吹き飛ばす爆風も。
それらは全て結界によって遮られているからだ

やがて燃える様な赤は、粉塵の灰色へと変わっていく。
私は結界の範囲を絞り、中の物を圧縮した。
質量によって、これ以上圧縮できない限界まで。

「……」

振り返ると、クプタ王子達が無言で私と、その背後に見える結界に閉じ込められた大量の土砂に驚愕の眼差しを向けていた。

私はその目を知っている。

カサンでもそうだった。
聖女と称えられてはいても、私の力は異常で。
味方であるはずの兵士や魔導士ですら、私の巨大すぎる力を恐れた。

そう、それは異質なる者を見る目だった。

だから余り強力な魔法は使いたくなかったのだ。
多少慣れてはいるので、他の人達ならそれほど気にはならない。
だが王子にそれを向けられると、流石に傷つく。

まあレブント帝国に好き放題やらせないため自分で選んだのだから、諦めて受け止めるしかないだろう。
国への貢献の評価が、王子の中で私の化け物染みた力のマイナス査定を上回ってくれる事を祈るばかりだ。

「さて、こんな感じです」

私は務めて平静を装い、報告を行う。

「え……あ、あぁ」

「素晴らしい。これが魔王を倒した力だと言うならば、納得です。まさにこのタラハの未来を切り開く魔法でした」

タラハシは私の魔法を絶賛し拍手する。
それにつられて周囲の兵士や魔導士達も拍手を始めた。

これはきっと、タラハしなりのフォローなのだろう。
彼はカルメさんの一件で、私に強い恩義を感じてくれている。
その恩返しと言った所だ。

まあ実際の評価が覆るかどうかは別だが、これで雰囲気は少しはましになるだろう。

「タラハシの言う通りだ。ターニア、ありがとう。君のお陰でタラハが長年抱えていた問題を解決できる。国を代表して礼を言わせて貰うよ」

そう言うと王子は頭を大きく下げた。
それを見て私は慌てる。

「お、おおお……王子!?やめてください!そんな大げさな!」

「大げさなんかじゃないさ。それと、すまなかった」

今度は謝ってから、王子が再び頭を下げた。
一体何を謝られているのか、私にはさっぱりだ。

「僕は一瞬、君を怖いと思ってしまった。この国の為に力を発揮してくれた君を。情けない話だ。だから、すまなかった」

そう言って、王子は再度頭を下げる。
それを見て私は、やっぱりこの人は凄いと思った。

恐れるのは仕方のない事だ。
恐怖とは本能に根付く物なのだから、それをなくす事は出来ない。

だがこの人はそれを隠さず素直に認め、謝る事が出来る人だ。
やっぱりこの人は凄い。
私の男性を見る目に、間違いはなかったと胸を張って言える。

本当にこの人を好きになってよかった。

因みに、土砂は少し南にある奈落と呼ばれる巨大な底の見えないクレバスに運んでポイしている。

……にしても深いわね。

山三つ分丸々飲み込んでもなお、そのクレバスの底は見えてこなかった。
王子達としては此処を埋め立てたいと考えていた様だが、それは無理そうだ。

ま、何はともあれ。
基礎工事完了。
後は大きな起伏などを慣らしてしまえば、ここは交易の要となってくれるだろう。
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