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第27話 処断

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「ほう……大賢者か……」

「ええ!相手はとんでもない魔導士を擁しています!ですから!危険ですのでさっさと滅ぼしてしまうべきです!」

豪奢な飾りつけが立ち並ぶ煌びやかな空間で、醜く太った男が叫ぶ。
彼の名はグリード・R・ベース。
レブント帝国、その皇室に繋がる血筋の名門貴族の当主だ。
そしてこの場は、現レブント皇帝の執務室に当たる。

「ふむ。所で、聞く所によると勝手に領土侵犯を犯したそうだな?」

「そ、それは……」

謁見の間にある、玉座を真似て作られた豪華な椅子に座る老人が溜息を吐いた。
年のころは80程だろうか。
長い髪と髭はグレーに染まり、顔にはその人生の長さを表わすかの様に深い皺が幾筋も刻まれていた。

この老人こそレブント帝国皇帝、レブント12世。
50年間帝国のトップを務める男だ。

「私は示威の為の軍事演習は許可したが、戦争を仕掛けろと命じた覚えはない」

「そ、それはその……勢いと言いますか……弾みと言いますか」

自分の報告で国が動くとばかり思っていたグリードは、皇帝の返しに思わずしどろもどろする。
領土侵犯など些細な事なので、流されると彼は考えていたのだろう。
だから問いに対して、真面な答えを返す事は出来なかった。

「グリードよ。お前の齎した大賢者の情報は、この国にとって有益な情報だった。そこは評価しよう」

「あ、ありがとうございます!」

責められていたのが一転したため、グリードは喜びの表情を浮かべる。
だがその顔も、皇帝の次の一言で奈落に突き落とされた。

「功績を認め、国家反逆罪でベース家を取り潰すのは勘弁してやろう。早々に次の当主を選別せよ」

次の当主を決めろ。
それは現当主である、グリードの引退を意味する。
元論只の引退ではない。

良くて国外追放。
悪ければそのまま斬首だ。

「へ、陛下……ご、御冗談を……」

「一人の馬鹿者の為に、家を潰すのは忍びないと考えた余の情けのどこに冗談などあると言うのか?」

皇帝は冷たく言い放つ。
戦力差の大きい小国相手とはいえ、私欲で勝手に戦争を始めようとしたのだ。
その罪は決して軽くはない。
それ位少し考えればわかる事だったが、それまでの人生をやりたい放題過ごし、傲慢に生きて来た彼にはそれが理解できていなかった。

「その者を摘み出せ。ああ、逃亡せぬ様、見張りに何人か付けておけ」

「へ、陛下お待ちください!この失態は必ずや挽回いたしますので!どうか御恩情を!」

「自分が犯した失態が何かも理解できぬ男に、チャンスなど与えても仕方なかろう?」

そう皇帝がそう冷酷に告げると、近衛達が彼を取り押さえる。

「は、離せ!私を誰だと思っている!私はベース家の当主だぞ!」

見苦しくグリードが騒ぐが、近衛達はそんな戯言を無視する。
何故なら、彼はもうベース家の“元”当主であって、今は只の罪人でしかないからだ。

「やれやれ」

「タラハ国の件は如何致しましょう?」

皇帝の傍に控えていた、片眼鏡をかけた壮年の執事が伺う。

「グリードの首と共に詫び状を送れ。それと関税も他国同様とする旨を伝えろ」

「は!」

戦争になれば帝国が勝つ。
皇帝はそれを確信してはいた。
如何に強力な魔導士がいようとも、数の暴力で押しつぶせると。

だがそれは余りにもリスクに見合わない行動だった。
戦争とは利益があってする物だ。
仮に戦争して勝ったとしても、お互い焼け野原では意味がない。
それ故、皇帝はタラハとの戦争を避け、講和を持ちかける方向で動く事にしたのだ。

「しかし、大賢者ターニアか。確かカサンで魔王を討ったのも、ターニアと言う名の聖女だったな。偶々か……それとも……」

レブント皇帝は髭を弄り、考え込んだ。
だが答えは出てこない。

「情報が足りんな。大賢者の事も調べておけ」

「畏まりました」

そう言うと皇帝は自らの机にあった書類を手に取り、通常の執務に戻った。
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