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聖女誘拐計画
しおりを挟むグランダースの王都は、昔のような活気を取り戻しつつあった。
商店には久方ぶりに新鮮な野菜や卵、肉類が並び、通りには多くの民が明るい顔で会話を楽しみながら歩いている。
街はアンリが召喚される前と比べ、短期間で劇的な変化を遂げていた。
これも、何より民が聖なる水によって病から回復し、食料が確保されたからである。
穀物がまるで品種改良をしたかのような見事な生育を見せ、それを飼料にしている畜産業も発育が良くなり、供給量が激増した。
パンも小麦の風味が豊かなものが出回るようになり、新鮮野菜を挟んだ惣菜パンも人気を呼んでいる。
王都に余裕が出来たことで、徐々に遠い地域にも生活物資が行き渡り始めた。
騎士団長のセガールが中心となり、遠征部隊による配給が隅々まで行われ、水と土の増やしかたの実践指導が行われた。
聖なる水によって伝染病が下火になり、なおかつ有能な聖女が降臨したことで、グランダースはいまだかつてない熱気に包まれ、人々は聖女に熱狂した。
おかげで王宮には今日も、感謝を伝える者達が後を絶たない。
「聖女様、こんな立派な芋が採れました!どうか皆さんで召し上がって下さい。」
「もうダメかと思っていたのに、元気な孫が産まれました。聖女様、どうかこの子に祝福を!」
いちいち相手にしていられないほどの多人数だったが、アンリは時間が許す限り門前に立ち、笑顔で彼らに応対した。
皆の喜ぶ様子が嬉しく、疲れなど微塵も感じなかったのである。
「まあ、なんて大きなお芋!!これで何を作ろうかしら?」
「可愛い赤ちゃん!抱っこさせてもらってもいいですか?」
農業や料理を手伝い、驕ることもなく親しげに接するアンリを、民衆も心から受け入れ、家族のような愛情と親近感を持つようになった。
アンリは、ずっと欲しかった人との温かい触れあいの時間を、この世界でようやく手に入れたのである。
もちろん国王のディランは、民衆に囲まれるアンリの身を案じるのと同時に、少しの嫉妬もあるらしく、出来るだけアンリの傍に張り付いていた。
その為、「心配性の旦那を持つと大変だねぇ」などと、民にからかわれるのも日常的な風景となり、ディランが抱かれていた厳しい印象も、日々薄らいでいったのである。
◆◆◆
グランダースが安定を取り戻す中、ある情報が早馬で秘密裏にディランの元に届いた。
隣国のグランタールが、聖女アンリの誘拐を企て、国王自ら挙兵したというのである。
「グランタールというのはどういった国なのですか?グランダースと似ている名前なのですね。」
こちらの地理に詳しくないアンリが尋ねると、ディランが教えてくれた。
どうやら、グランタールは元々グランダースの一部だったらしい。
何代か前の国王が独立を認めたことにより、グランタールが建国され、当時の王はグランダースの王族の流れを組む家から選出されたそうだ。
「では、グランタールの王様は、ディラン様と遠い親戚なのですね。」
複雑な心境でアンリが呟くと、ディランが苦笑した。
「まあ、そうなるな。かなり血は薄まっているだろうが。今の国王とも子供の頃からの付き合いだ。何故突然こんなことを仕掛けてくるのか・・・」
辛そうな表情に、アンリの心も締め付けられた。
親しい者の裏切りが辛いことは、アンリは経験上良く知っている。
「何か理由がある気がします。しかしそれはさておき、目的がアンリ様である以上、まずはアンリ様の御身の安全を確保し、こちらも兵を挙げる必要がありますね。」
クラウスが厳しい顔で、セガールを呼んだ。
セガールにも話は伝わっていたようで、意気揚々と現れた。
「まさか復帰してこんなに早く、俺様の出番が来ようとはな!いっちょ、派手に暴れてやるぜ!!」
既に戦う気満々のセガールを、クラウスが落ち着かせる。
「むやみに争いたくはありません。話し合いの場を設けられればいいのですが。」
「セガール、俺も行く。クラウス、お前は残ってアンリを・・」
「私も行きます!」
ディランの声を遮って、アンリは叫んでいた。
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