24 / 34
聖女の出番
しおりを挟む「やっぱり、アンリを前に乗せて正解だったな。」
ディランの自信に満ちた言葉に、アンリは俯きながら小さく言い返す。
「でもこの体勢は恥ずかしいです。抱っこされているみたいで。やっぱり私が後ろに乗ったほうが・・・」
二人は今、アンリが馬に乗る際に、どこに座るかで揉めている。
自分の前に座らせて、腕で囲うようにして守りたいディランと、恥ずかしい為、ディランの背中で表情を隠しながら乗りたいアンリ。
ハッキリ言ってこの上なく下らない内容であり、周りの兵は勝手にやってくれといった雰囲気で、聞こえないふりをしている。
「後ろから抱きつかれるのもいいが、アンリの握力が心配な上、顔が見えないからな。」
「見えなくていいんです。恥ずかしいので。私も一人で馬に乗れたら良かったな。」
思わず溢した言葉に、ディランがとんでもないと反論する。
「そんなことさせる訳がないだろう!念の為、乗り方は今度教えるが、俺が同行する際は俺の馬に乗れ。」
今日もディランはアンリに甘く、セガールは心の中で突っ込んでいた。
よく、お嬢ちゃんを置いてこようなんて思ったよな。
絶対無理だったじゃねーか!
しかし、少し口から出ていたらしく、兵達が無言で同意していた。
グランタールとの国境は、王都から比較的近い為、二日程度の道程である。
道中、街道には民衆が押し寄せ、聖女であるアンリを皆が見たがった。
実際は兵の進軍なのに、まるで視察に訪れたかのような明るさで、どこに行っても笑いが絶えない。
緊迫感が無さすぎると、セガールは騎士団長として心配していたが、暢気な様子にディランはむしろ安心していた。
戦地に赴くことでアンリを不安にさせたくなかったのである。
「ディラン様、この町も活気が戻ってきていますね!良かったです。」
笑顔で振り返るアンリに、ディランも微笑み返す。
食料にも困らず、兵も元気な為、グランダース軍はすこぶる好調に国境まで辿り着いた。
「さて、到着っと。まずは偵察隊を派遣して・・・って、なんだありゃ?あれがグランタールの軍隊か?」
セガールが、国境の向こうに見える集団を見て驚いているが、それも無理はない。
王自ら軍を率いて来たというのに、圧倒的に数が少なく、全く覇気が感じられないのである。
「何か様子がおかしくないですか?とてもこちらを攻めにきた感じには見えないんですけど・・・」
戦いの素人であるアンリが見ても、明らかに異質であった。
「アンリの誘拐が目的だとしても、あの兵力は説明がつかないな。後から援軍が駆けつける様子もない。」
ディランも首を傾げていると、セガールの元に部下が駆け込んできた。
「団長!使者が!書状を持った、グランタールの使者が来ています!!」
ディランが使者と謁見し、書状に目を通す。
グランタールからの使者は痩せ細り、膝を付く体勢も辛そうなほど、具合が悪く見えた。
傍らでアンリが不安そうにディランを見つめていると、ディランがその視線に気付き、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だ。戦争にはならない。アンリの手を貸してもらうことになるが。」
私の手?
あ、もしかして。
「私、頑張ります!えっと、まずは。」
側にあった革袋に、念じて水を溜めると、アンリは軽やかな足取りで使者に近付いていった。
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
聖女じゃなかったので、カフェで働きます
風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。
聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎
望みはカフェでのスローライフだけ。
乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります!
全30話予定
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる