ショボい魔法しか使えない私が、魔法のない世界に召喚されたら崇め奉られてます

櫻野くるみ

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聖女の慈愛

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「使者の方、どうぞこのお水を。身体が楽になるはずです。」

アンリはグランタールからの使者に近付くと、前にしゃがんで、水の入った革袋を差し出した。
突然のアンリの行動に、ディランとセガールは焦った声を出し、すぐさま警戒したように兵で囲ませた。

「アンリ、勝手に近付くな!危ないだろ!!」

「お嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ。すぐに戻ってこい。」

しかし、アンリには意味がわからなかった。
グランタールの使者が見るからに弱っていて、とても演技には見えなかったからである。

「私なら大丈夫です。使者さん、さぁどうぞ。あ、毒とか入っていませんよ?」

怪訝そうな表情の使者に、どうやって安全性を示そうか思案していると、使者が革袋を奪い、一気に水を煽った。
毒に備えてか、暫く体に力が入っていたようだが、ほうっと息を吐くと呟いた。

「うまい水だ。久しぶりに口にした。なんだか身体も楽になった気がする。」

「良かったです!お腹は空いていませんか?野菜のスープだったら胃に優しいと思うのですが、いかがですか?」

ニコニコと使者と話し込むアンリの斜め前にディランが陣取り、使者からアンリを隠そうとする。

「ディラン様、この方は私に危害を加えないと思いますよ?」

「何を呑気な。いいか?グランタールの目的は聖女、つまりアンリなんだぞ?」

二人の会話で、使者は目の前のアンリが聖女だと理解したらしい。
ガバッとおでこを床に付けると、平伏した。

「申し訳ございませんでした!いくら暮らしが辛いとはいえ、聖女様を拐い、グランダースを裏切る計画など、正気ではありませんでした。」

アンリがディランを見ると、ディランが説明してくれた。
グランタールもグランダース同様、天候不良と疫病に襲われ、飢餓に苦しんでいた。
最初は同じ状況に苦しむ国同士の、親近感すらあったが、聖女がグランダースに降臨し、瞬く間に立て直し、人々に活気を取り戻した話は、グランタールの城まで伝わった。
既に冷静な判断を下せないほど追い詰められていたグランタールの王は、妬ましさと裏切られたという被害妄想から、だったら拐ってしまえという極端な思考に陥ってしまったらしい。

アンリはグランタールの国王や国民、目の前の使者に同情してしまった。

「あの、顔を上げて下さい。私で出来ることならお手伝いさせて下さい。とりあえず、何か食べましょう!まずは元気になって、それから王様に会いに行きましょう!いいですよね?ディラン様。」

勝手に話を進め出したアンリに苦笑しながらも、ディランも賛成する。

「わかった。だが、今度は勝手に近付いていくなよ?まだ全面的に信頼するのは危険過ぎる。」

確かに、素人の自分がでしゃばり過ぎたと思い、アンリは素直に謝った。


その後、運び込まれたスープを、使者はすごい勢いで食べ始めた。
使者の名前はダスティンというらしい。

「ああ、野菜の味がするなんて久しぶりだ!こんな美味しい食べ物を私一人で食べているなんて、他の者達に申し訳がない・・・」

そう言いつつ、すでに三杯目のスープを平らげ、パンやフルーツも胃に納めていく。
アンリはその姿を嬉しそうに眺めながら、おかわりを注いだ。

「グランタールの皆さんにも早く元気になって貰わないと!まずはすぐにお水を配って、スープもたくさん作っておきましょうね。」

笑顔で自分の国のことまで考えてくれるアンリに、ダスティンは感動していた。

「聖女様!ありがとうございます!!しかし、いきなり我が軍、ましてやグランタールの国民全員を助けるのはいくら聖女様でも難しいと思いますので、まずは王家の一族だけでも。」

アンリの力を見たことのない彼は、謙虚に申し出る。

「普通はそう思うよな。でもお嬢ちゃんを侮っちゃいけねぇよ。まあ見てな。」

セガールが突然、空の寸胴鍋複数個と、薪を用意させると、薪を何ヶ所かに積み始めた。

「嬢ちゃん、頼む!」

合図を受け、アンリが薪の方角に向かって手をかざすと、一気に全部の薪に火が点き、焚き木がいくつも出来上がった。

使者が驚き、言葉を無くす中、アンリは更に念じ、鍋に水を溜める。
力が増したアンリは、続け様に多くの作業もこなせるようになっていた。

あっという間に鍋一杯の水が沸き、投入したカットされた野菜が煮え、味付けをされたスープが出来上がる。

「す、凄い・・・」

「凄いですよね!こちらの世界って、お水がすぐ沸騰するし、お野菜も煮えるのが早くて!」

使者の呟きに、アンリが頓珍漢な相槌を打つ。
どう考えても、聖女の力によるものに決まっているのに、無邪気に喜ぶアンリに皆が顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。

アンリの心根の良さに、ダスティンは感嘆し、ひたすら心酔していた。






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