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恋のライバル
しおりを挟む食事を与えられ、すっかり元気になったダスティンは、グランタールの国王への書状を託され、グランダースの陣から出ていった。
持てるだけの水と食料をアンリから手渡されたダスティンは、グランタールの兵でありながら、すっかり聖女アンリの虜になっていた。
「私をグランダースで雇って下さい!下っ端からで構わないので、聖女様にご恩返しがしたいんです!!」
陣を離れる前、そう言って、騎士団長のセガールを困らせていた。
「気持ちは買うけどな。グランタール次第だろうな。ま、実際国境は越えてねーから、まだ戦も始まっちゃいねぇし。お前さんが書状を持って、王同士の会見で丸く収まれば、それもアリかもな。」
「わかりました!聖女様の素晴らしさを、我が王に語って聞かせてきます!」
気合の入った表情で飛び出していったが、アンリに未練があるらしく、何度もこちらを振り返っている。
アンリはアンリで、今ではしっかりとした足取りで国境を超えていくダスティンに、嬉しそうにいつまでも手を振っている。
「セガール、あいつは雇わなくていいからな。」
アンリが絡むと、途端に了見の狭い男になってしまうディランを、セガールが豪快に笑い、からかっていた。
書状の内容は、速やかに両国王の会見を行い、お互いの国の現状を報告し合い、関係改善を図ろうという提案である。
グランダースとしては、聖女の力を借り、グランタールの経済復興を手助けする意志があるとも記載されていた。
グランタール側は読むや否や、すぐにこちらの希望通りに動くことを伝えてきた為、翌日、国境地点でお互いの王が顔を合わせた。
グランタールの王様って、あの方だよね?
ディラン様より若いって聞いていたけれど、元気がないからか、年上みたいに見えるわ。
王でありながら、食べるものにも困っていたのだろう。
痩せて、苦労を重ねた顔にはシワができ、実際よりも年をとってみえた。
今すぐにでも水を持っていきたいが、前日注意されたことを思い出し、アンリはぐっと我慢をする。
グランタールの王はディランを見るなり、一瞬顔をくしゃっと歪ませ、泣きそうな顔で膝を付くと、か弱い声ながらしっかり謝罪をした。
「ディラン!いや、ディラン様!!私は自分が情けない。国も国民も守れず、卑怯な手を使おうとした。友好国を裏切ろうなどと、浅はかな考えだった。責任は私一人にある、だから国民だけは助けてくれ!!」
切羽詰まったように頭を下げる王を、ディランは悲しそうな顔で見ていた。
「ハリー、頭を上げてくれ。何故俺に頼ってこない?こんなバカなことを考えやがって。」
悔しそうなディランの言葉に、グランタールの王は肩を揺らしながら啜り泣いている。
ハリー?
アンリが疑問に思っていると、セガールがこっそり教えてくれた。
グランタールの王は、ハリソンという名前で、ディランは弟のように思っているらしい。
やっぱり元は仲が良かったのね。
仲直り出来るといいけど。
アンリが心配する中、ディランはハリソンに近付くと、膝を折り、ハリソンの肩を叩いた。
「ずっとまともな食事も摂れてないんだろ?まずは腹ごなしだ。腹が満たされれば、お前は賢いんだから、良い案もすぐ浮かぶ。」
ディランが合図をすると、ゾロゾロとグランダースの兵達が集まり、スープやパンを準備し始めた。
私もお手伝いしなきゃ!
えっと、配膳を手伝えばいいかな?
アンリがキョロキョロしていると、ハリソンの奥に使者のダスティンが控えているのが見えた。
手を振ろうとすると、ダスティンがハリソンの近くまで移動し、片膝を付いて発言した。
「恐れながら、我が国の兵に水をお与えいただけませんか?出来ましたら、聖女様のお力をハリソン様にもご覧いただきたいのです。」
「聖女様、不躾なお願いですが、私にもお見せいただけますか?」
ハリソンにまで頼まれ、元々出番を待っていたアンリは張り切って頷いた。
「もちろんです!ダスティンさん、皆さんは容器はお待ちですか?」
容器さえあれば、五十人程度の水など容易い。
聞けば、体調不良でどんどん数が減り、ここへ辿り着けたのがこの数だったらしい。
「よし!みんな準備しろー!!」
ダスティンの号令で、各々が持ってきていた皮袋を取り出した。
国王のハリソンまで手に持っており、期待に満ちた表情を見せている。
「ではいきますねー。それっ!」
アンリが念じると、一斉に皮袋が水で満たされた。
「すごい!話に聞いていたより遥かにすごいな!」
「なんて旨い水だ!!」
喜びの声を上げる兵達の中、ハリソンだけ反応が違っていた。
「美しい!なんて神々しい姿なのだ。まるで女神のように慈愛に満ちているのに、無邪気に笑う顔は可愛らしい。ああ、聖女様、ぜひ私の妻になって下さい!」
うっとりとした表情でアンリを見つめているが、速攻でディランのゲンコツを頭にくらっていた。
え?妻??
キョトンと首を傾げるアンリだったが、一瞬でアンリに骨抜きにされてしまったハリソンは、殴られても痛さを感じぬほど、アンリに魅入られていたのだった。
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