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第四話 緊縛ジャスティス山田
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三回目のおパンティータイム。
前回の改善点を踏まえ、四つのデザインを小池は考え付いた。
そして松崎は眼鏡を外し、顎鬚な撫でながらいつも以上に真剣に確認している。
——パサッ
企画用紙と長机の間の摩擦音が、会議室の空気を更に張りつめさせる。
相変わらず松崎は顔色一つ変えない。そして形の良い唇がゆっくり開く。
「デザインDは没だ。その他の三つを試作しよう」
三つは通った。
これだけでも今までのおパンティータイムを考えれば進歩した方だ。だが、そこで喜ばず、小池は意地を見せた。
「Dは何故駄目なのでしょうか? 結構攻めていると思うのですが」
めげずに食らいついてきた小池に松崎は成長した姿を垣間見た。
そして視線を落とす。
「これのコンセプトはなんだろうか」
「ネーミングするなら「やめて、お願い」ですかね」
「なるほど。良いネーミングだ。それだけでこのおパンティーのデザインの意味が分かる。だが、そのデザインはいまいちだ」
デザインDはなんとも斬新だった。アナルから性器にかけて、股の部分が破れているのだ。
「無理矢理やられたい願望のある方には堪らないかと」
鋭利に裂けているわけではなく、誰かに破られたように裂けているのだ。
「切り口も、あたかも誰かに破られたようなデザインにしていますし」
「しかし機能が考慮されていない。確かに私は一回目のおパンティータイムで機能重視ばかりはよくないと言ったが、これでは終始睾丸がぶら下がった状態だ」
ノーパンの男が何を言っているのだと小池は突っ込んだが、ひるまず食いつく。
「つまり行為中以外にも履くという前提ですね? でも普段から履く人なんているのでしょうか?」
「世界には何億人という人間がいるのだ。一人は必ずいる」
少数派を見捨てぬ菩薩の様な心に小池は頭を捻った。コスト面や大多数の顧客を第一優先に考える部長が少数派の意見を取り入れるのは不思議でならなかった。
だが、今はそこを掘り下げる時間ではない。
「しかしDが駄目となるとSMに特化した下着がなくなりますね」
「うむ……そうだ!」
「?」
松崎が携帯電話を取り出す。懐かしい折り畳みの携帯電話だ。
そして誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし山田君? 今大丈夫かね。ちょっと猥談になるから、聞かれたくなければ席を離れなさい。あっ、そのままでいいのかい?」
会話の内容からSM玩具担当のデザイナー山田にかけていた。そして席は外さなかったらしい。
「君は緊縛が好物だっただろうか? そうか。緊縛が一番で、二番目は三角木馬で、三番は……おお、服を破られる事か! それは丁度よかった、君に相談したいことがあるのだよ」
松崎は小池を手招きした。
そしてスピーカーモードにして山田の声を拡声する。
『聞きたい事って何でしょうか?』
「下着が破れた女性をどう思う? 興奮するかい?」
何とも直球だ。
『心配になりますね』
想像とは全く違う回答に二人は無言になる。
「しかし君は破るのが好きなのだろ?」
『部長、僕はMですよ。破るのじゃなくて破られることに興奮するんです』
「そちら側の人間か」
『でも、僕も破れた下着を履くのは御免です』
「どうして?」
『それはですね……』
急に声のトーンが変わった山田に小池は反射的にペンとメモ用紙を準備した。
『あれは破る事・破られる事に意味があるんです。あの裂ける時の音! そして羞恥心! 徐々に秘境に近づく様な興奮! 破る事それはまさにジャングルの生い茂る密林を薙ぎ払うのと同じ! そして破られる方は、音の先にいるのは猛獣? それとも冒険者? その冒険者は一体僕をどうするの? そんな危機迫るような焦燥感でじらされる……はああ、それが堪らないんですよ。ロマンです! ロマン!! なのに既に破ってある衣服なんて好物の食べかすを見せられているも同然じゃないですか‼』
急いでメモを取る小池と、ポーカーフェイスの松崎。静かなのを良い事に山田の話は『宝箱の中には三角木馬……』と別の話を始めた為、松崎は礼だけを言って切った。
「……なるほど」
「奥が深いですね。では、デザインを少し変えてみるのはどうでしょうか? また出来次第持ってきます。それにOKが貰えれば試作に移りましょう!」
「いや、著しく成長する君を信じ、デザインDも私の許可なく試作に回してくれて構わない。」
小池の肩を「若い力に任せよう」と撫でる。
小池は肩を震わせ「はい!」と返事をした。
「ところで極秘の企画という事は製造部とは連携していないんですよね?」
「そうだな。こちらで手作りという形になるだろう。なんなら私が……」
「いえ、俺が作ります。設計したのは俺ですし、部長のサイズも測ったので。知り合いに裁縫が得意な人がいるので一週間で仕上げます。勿論社外秘なので縫い方を聞くだけです。では、あの……念の為もう一度採寸してもいいですか?」
「ああ。よろしくお願いする」
小池は「前より入念に測りますね」と言って身を屈めた。そしてメジャーを当てるフリをして、指を這わせる。ついでに舌も這わせる。
(あああ、布越しの熱が堪らない。そしてやっぱり部長はノーパンだ。この人そんな性癖があったのか)
二人だけの秘密の企画で、部長の秘密を知った小池。問い詰めたい気持ちを押さえ、部長の臀部を触りたくる。
仕事だと思っている松崎はそれを微塵も不審がらず、この前以上に激しいボディータッチを黙って受け入れた。
「完璧です」
「ありがとう。では、一週間後よろしく頼むよ」
「はい!」
*
(寝不足なのかな?)
松崎は頬の赤い小池を会議室から見送った。
「無理をさせたかな? しかし仕事の早い子だ。あと三回は指導がいると思ったが。まさか男性用ランジェリーの素質があるのでは?」
小池は三回目で完璧なデザインを出した。
そしてとうとう試作品の段階に入る。製作まで小池がしてくれるというのだから、松崎はもう待つだけだ。
(小池君、お尻の準備は任せてくれ)
今日も松崎はエステに通う。
前回の改善点を踏まえ、四つのデザインを小池は考え付いた。
そして松崎は眼鏡を外し、顎鬚な撫でながらいつも以上に真剣に確認している。
——パサッ
企画用紙と長机の間の摩擦音が、会議室の空気を更に張りつめさせる。
相変わらず松崎は顔色一つ変えない。そして形の良い唇がゆっくり開く。
「デザインDは没だ。その他の三つを試作しよう」
三つは通った。
これだけでも今までのおパンティータイムを考えれば進歩した方だ。だが、そこで喜ばず、小池は意地を見せた。
「Dは何故駄目なのでしょうか? 結構攻めていると思うのですが」
めげずに食らいついてきた小池に松崎は成長した姿を垣間見た。
そして視線を落とす。
「これのコンセプトはなんだろうか」
「ネーミングするなら「やめて、お願い」ですかね」
「なるほど。良いネーミングだ。それだけでこのおパンティーのデザインの意味が分かる。だが、そのデザインはいまいちだ」
デザインDはなんとも斬新だった。アナルから性器にかけて、股の部分が破れているのだ。
「無理矢理やられたい願望のある方には堪らないかと」
鋭利に裂けているわけではなく、誰かに破られたように裂けているのだ。
「切り口も、あたかも誰かに破られたようなデザインにしていますし」
「しかし機能が考慮されていない。確かに私は一回目のおパンティータイムで機能重視ばかりはよくないと言ったが、これでは終始睾丸がぶら下がった状態だ」
ノーパンの男が何を言っているのだと小池は突っ込んだが、ひるまず食いつく。
「つまり行為中以外にも履くという前提ですね? でも普段から履く人なんているのでしょうか?」
「世界には何億人という人間がいるのだ。一人は必ずいる」
少数派を見捨てぬ菩薩の様な心に小池は頭を捻った。コスト面や大多数の顧客を第一優先に考える部長が少数派の意見を取り入れるのは不思議でならなかった。
だが、今はそこを掘り下げる時間ではない。
「しかしDが駄目となるとSMに特化した下着がなくなりますね」
「うむ……そうだ!」
「?」
松崎が携帯電話を取り出す。懐かしい折り畳みの携帯電話だ。
そして誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし山田君? 今大丈夫かね。ちょっと猥談になるから、聞かれたくなければ席を離れなさい。あっ、そのままでいいのかい?」
会話の内容からSM玩具担当のデザイナー山田にかけていた。そして席は外さなかったらしい。
「君は緊縛が好物だっただろうか? そうか。緊縛が一番で、二番目は三角木馬で、三番は……おお、服を破られる事か! それは丁度よかった、君に相談したいことがあるのだよ」
松崎は小池を手招きした。
そしてスピーカーモードにして山田の声を拡声する。
『聞きたい事って何でしょうか?』
「下着が破れた女性をどう思う? 興奮するかい?」
何とも直球だ。
『心配になりますね』
想像とは全く違う回答に二人は無言になる。
「しかし君は破るのが好きなのだろ?」
『部長、僕はMですよ。破るのじゃなくて破られることに興奮するんです』
「そちら側の人間か」
『でも、僕も破れた下着を履くのは御免です』
「どうして?」
『それはですね……』
急に声のトーンが変わった山田に小池は反射的にペンとメモ用紙を準備した。
『あれは破る事・破られる事に意味があるんです。あの裂ける時の音! そして羞恥心! 徐々に秘境に近づく様な興奮! 破る事それはまさにジャングルの生い茂る密林を薙ぎ払うのと同じ! そして破られる方は、音の先にいるのは猛獣? それとも冒険者? その冒険者は一体僕をどうするの? そんな危機迫るような焦燥感でじらされる……はああ、それが堪らないんですよ。ロマンです! ロマン!! なのに既に破ってある衣服なんて好物の食べかすを見せられているも同然じゃないですか‼』
急いでメモを取る小池と、ポーカーフェイスの松崎。静かなのを良い事に山田の話は『宝箱の中には三角木馬……』と別の話を始めた為、松崎は礼だけを言って切った。
「……なるほど」
「奥が深いですね。では、デザインを少し変えてみるのはどうでしょうか? また出来次第持ってきます。それにOKが貰えれば試作に移りましょう!」
「いや、著しく成長する君を信じ、デザインDも私の許可なく試作に回してくれて構わない。」
小池の肩を「若い力に任せよう」と撫でる。
小池は肩を震わせ「はい!」と返事をした。
「ところで極秘の企画という事は製造部とは連携していないんですよね?」
「そうだな。こちらで手作りという形になるだろう。なんなら私が……」
「いえ、俺が作ります。設計したのは俺ですし、部長のサイズも測ったので。知り合いに裁縫が得意な人がいるので一週間で仕上げます。勿論社外秘なので縫い方を聞くだけです。では、あの……念の為もう一度採寸してもいいですか?」
「ああ。よろしくお願いする」
小池は「前より入念に測りますね」と言って身を屈めた。そしてメジャーを当てるフリをして、指を這わせる。ついでに舌も這わせる。
(あああ、布越しの熱が堪らない。そしてやっぱり部長はノーパンだ。この人そんな性癖があったのか)
二人だけの秘密の企画で、部長の秘密を知った小池。問い詰めたい気持ちを押さえ、部長の臀部を触りたくる。
仕事だと思っている松崎はそれを微塵も不審がらず、この前以上に激しいボディータッチを黙って受け入れた。
「完璧です」
「ありがとう。では、一週間後よろしく頼むよ」
「はい!」
*
(寝不足なのかな?)
松崎は頬の赤い小池を会議室から見送った。
「無理をさせたかな? しかし仕事の早い子だ。あと三回は指導がいると思ったが。まさか男性用ランジェリーの素質があるのでは?」
小池は三回目で完璧なデザインを出した。
そしてとうとう試作品の段階に入る。製作まで小池がしてくれるというのだから、松崎はもう待つだけだ。
(小池君、お尻の準備は任せてくれ)
今日も松崎はエステに通う。
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