【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―

るみ乃。

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10 ひとさじの違和感

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 学園のホールには、控えめな音楽と談笑が混じった、温室のような穏やかな空気が漂っていた。

「改めて、レオン・ヴァルフォードくん、ようこそ!」

 生徒会長の声に合わせて、軽やかな拍手が響く。今夜の催しは、レオンの生徒会加入と転入を祝う、ささやかな歓迎の会だった。

 ――が、正直言って、歓迎の会というよりも「レオンと仲良くなりたい者たちの集い」のような感じだった。

 それもそのはず。レオンが生徒会に入ると決めたのは、つい数日前のことだ。誰も予想していなかった。

 俺はホールの隅に腰を下ろし、手持ち無沙汰に紙コップのジュースをいじっていた。

「お、いたいた。隅っこ好きだな」

 テオが声をかけてきた。

「こんな騒がしいの、苦手なんだよ」

「そう言いつつ来てるあたり、律儀だよな。素直じゃないっていうか」

 テオの視線が、ふと会場の中央へ向く。 そこでは、数人のオメガやベータの男子たちが、レオンの周りに集まっていた。

「レオン、やっぱり目立つな。オメガ組から人気あるっぽいぜ。あれ、たしかシドって子じゃなかったか? 1年の成績めっちゃいいやつ」

「ああ、知ってる」

 俺は短く返しながら、自然とそちらに目を向けていた。 囲まれたレオンは、いつものように穏やかに会話している。 気負いもせず、誰かを見下すこともなく──

 なのに、どうしてだろう。 見ているだけで、胸の奥がざわつく。

「なーんか複雑な顔してんな、お前」

「してねえよ」

「へえ? じゃ、行ってこいよ。気になるんだろ?」

「は?」

 テオはニヤニヤ笑って、そのままノエルの元へ消えていった。

 俺は仕方なく立ち上がって、レオンのもとへ歩き出した。

 近づくと、タイミングよく周囲の数人が解散し、レオンと目が合う。

「ユリス」

「……人気者だな。あいつら、めっちゃ食いついてたぞ」

 レオンは少しだけ苦笑した。

「そうでもない。」

「……ふうん」

 返事をしながら、自分でもわからない感情を押し殺していた。

「やっぱり、お前とこうして話すのが一番楽だな。」

 一瞬、呼吸が止まる。

 何気なく言ったようなその一言に、なぜか心臓が騒がしくなった。

「……お前、ほんとにそういう無自覚なとこな、ズルイな」

「無自覚なことないけど……」

 その言葉に、なぜか視線を逸らしてしまった。

 けれどそのとき──

「レオン先輩、一緒にこっちで写真撮ってもらっていいですか?」

 声をかけてきたのは、さっき話していたオメガのシドだった。 やけに楽しそうな笑顔。

 レオンは一瞬だけこちらを見て、何かを図るような目をした。

「……行ってこいよ。せっかくの歓迎会なんだし」

 無理やり笑ったつもりだったけど、レオンは何も言わずに軽く頷いた。

 俺は、その背を見送る。

 ──胸の奥に残ったこのざらつきは、いったい何なんだろう。
 それを、俺はまだ知らなかった
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