12 / 67
11 境界線
しおりを挟む
昼休み、俺はなんとなく中庭を歩いていた。特に目的があるわけでもなく、ただ流れる時間に身を任せていた。けれどその時、ふと視界に入った光景に足が止まる。
レオンが、オメガの生徒と話している。
あの子は確か、先日の生徒会の挨拶会でいた高等部の一年生のオメガ。名前はシド。小柄で、知的な印象を受けるが、どこか不安げな表情を浮かべている。その顔を見ていると、心の中に何かが引っかかるような気がした。
シドは明らかに緊張している。頬を赤らめ、手で制服の裾をぎゅっと握っている姿が、まるで告白の準備をしているように見えた。その瞬間、俺の胸がざわつく。
「——その……好きです!」
思わず声が漏れる。あれは、告白だった。
レオンは少し驚いた表情を浮かべていた。その表情は、普段の堂々とした彼からは考えられないほど、どこか鈍感そうで、少し戸惑っているように見えた。
——俺はその場面を、黙って見ていた。何故か、胸の前で拳をぎゅっと握りしめていた。
「……なんだ、これ。」
自分でもよくわからない感情が湧き上がる。別に、俺が気にすることではないはずだ。だって、俺はベータだし、レオンはアルファだ。二人の間に俺が割り込む余地なんて、最初からない。
「……あれ、何見てんの? あぁ、ユリス、もしかして嫉妬?」
突然、横から声がかかった。ノエルだった。彼がにやにやと笑いながら、俺を見ている。
「は? するわけないだろ。」
俺は即座に答えた。けれど、ノエルはさらに一歩近づいてきて、僕の手を見ては笑った。
「へぇ? でもさっきからめっちゃ睨んでたし、ほら、手も強く握ってるし。」
言われてみると、俺の手は拳を握りすぎて、指の間が白くなっていた。
「ちがうよ!」
その一言で誤魔化すように、俺はノエルを突っぱねた。けれど、ノエルは「ふーん」と肩をすくめ、さらっと言った。
「まあまあ、素直になりなよ、ユリス?」
「うるさい!」
その言葉を無視して、ノエルの頭を軽くはたくと、彼は「ひどい!」とか言ってケラケラ笑っている。いつものように、冗談交じりにからかってくる。
「だって、俺があいつを気にするなんて、ありえない。そもそも俺はベータで、あいつはアルファだし。」
無理に強がった言葉を口にしても、心の中でその理由が自分でもしっくりこないことに気づく。胸の奥がざわついて、気持ちが落ち着かない。
——あいつがレオンに好意を示しているからって、そんなことで動揺するなんて、バカみたいだ。
でも、無駄に熱くなった頭を冷やすように、深いため息をついたところで、ふと視線を感じて振り返った。
レオンが、シドから視線をそらしてこちらを見ていた。その表情は、なんだか困ったような、少し申し訳なさそうな顔をしている。どこか、心の奥がざわつくような、言いようのない気持ちがこみ上げてきた。
——なんだよ、その顔。
レオンが俺を見つけて、軽く手を挙げる。その仕草は、まるで俺が期待しているかのように、何かを気にしているような印象を与える。
目をそらし、足を速めた。レオンがシドと話している姿が、どうしても気になって仕方がなかった。
そのまま歩きながら考える。
——嫌いなはずなのに、レオンが他の誰かに好意を向けられるのが、こんなにイラつく理由は。
心の中で、自分の気持ちを否定しようとするけれど、それは無駄だと気づいていた。レオンと俺には、こんなにも距離があることを知っている、どうしてこんなにも胸が痛むのか。
何も考えたくないのに、どうしても彼のことを考えてしまう。
その気持ちが理解できないまま、俺は中庭を後にした。
レオンが、オメガの生徒と話している。
あの子は確か、先日の生徒会の挨拶会でいた高等部の一年生のオメガ。名前はシド。小柄で、知的な印象を受けるが、どこか不安げな表情を浮かべている。その顔を見ていると、心の中に何かが引っかかるような気がした。
シドは明らかに緊張している。頬を赤らめ、手で制服の裾をぎゅっと握っている姿が、まるで告白の準備をしているように見えた。その瞬間、俺の胸がざわつく。
「——その……好きです!」
思わず声が漏れる。あれは、告白だった。
レオンは少し驚いた表情を浮かべていた。その表情は、普段の堂々とした彼からは考えられないほど、どこか鈍感そうで、少し戸惑っているように見えた。
——俺はその場面を、黙って見ていた。何故か、胸の前で拳をぎゅっと握りしめていた。
「……なんだ、これ。」
自分でもよくわからない感情が湧き上がる。別に、俺が気にすることではないはずだ。だって、俺はベータだし、レオンはアルファだ。二人の間に俺が割り込む余地なんて、最初からない。
「……あれ、何見てんの? あぁ、ユリス、もしかして嫉妬?」
突然、横から声がかかった。ノエルだった。彼がにやにやと笑いながら、俺を見ている。
「は? するわけないだろ。」
俺は即座に答えた。けれど、ノエルはさらに一歩近づいてきて、僕の手を見ては笑った。
「へぇ? でもさっきからめっちゃ睨んでたし、ほら、手も強く握ってるし。」
言われてみると、俺の手は拳を握りすぎて、指の間が白くなっていた。
「ちがうよ!」
その一言で誤魔化すように、俺はノエルを突っぱねた。けれど、ノエルは「ふーん」と肩をすくめ、さらっと言った。
「まあまあ、素直になりなよ、ユリス?」
「うるさい!」
その言葉を無視して、ノエルの頭を軽くはたくと、彼は「ひどい!」とか言ってケラケラ笑っている。いつものように、冗談交じりにからかってくる。
「だって、俺があいつを気にするなんて、ありえない。そもそも俺はベータで、あいつはアルファだし。」
無理に強がった言葉を口にしても、心の中でその理由が自分でもしっくりこないことに気づく。胸の奥がざわついて、気持ちが落ち着かない。
——あいつがレオンに好意を示しているからって、そんなことで動揺するなんて、バカみたいだ。
でも、無駄に熱くなった頭を冷やすように、深いため息をついたところで、ふと視線を感じて振り返った。
レオンが、シドから視線をそらしてこちらを見ていた。その表情は、なんだか困ったような、少し申し訳なさそうな顔をしている。どこか、心の奥がざわつくような、言いようのない気持ちがこみ上げてきた。
——なんだよ、その顔。
レオンが俺を見つけて、軽く手を挙げる。その仕草は、まるで俺が期待しているかのように、何かを気にしているような印象を与える。
目をそらし、足を速めた。レオンがシドと話している姿が、どうしても気になって仕方がなかった。
そのまま歩きながら考える。
——嫌いなはずなのに、レオンが他の誰かに好意を向けられるのが、こんなにイラつく理由は。
心の中で、自分の気持ちを否定しようとするけれど、それは無駄だと気づいていた。レオンと俺には、こんなにも距離があることを知っている、どうしてこんなにも胸が痛むのか。
何も考えたくないのに、どうしても彼のことを考えてしまう。
その気持ちが理解できないまま、俺は中庭を後にした。
32
あなたにおすすめの小説
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜
なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」
男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。
ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。
冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。
「俺、後悔しないようにしてんだ」
その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。
笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。
一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。
青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。
本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが
詩河とんぼ
BL
貧乏伯爵家の子息・ノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれるレオンハート公爵家の当主・スターチスに嫁ぐこととなる。
塩対応で愛人がいるという噂のスターチスやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。
ある時、スターチスが階段から誰かに押されて落ち、スターチスは記憶を失ってしまう。するとーー
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる