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27 ジュリオという名の青年
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翌朝、目を覚ましたとき、部屋にレオンの姿はなかった。 代わりに、ドアの前で仁王立ちしていたのは――
「ユリスーっ!」
「うわっ!」
勢いよく部屋に飛び込んできたのは、テオだった。後ろにはノエルもいる。
「お前、昨日どこ行ってたんだよ!? 探したんだからな!」
「そうだよ、ユリス! レオンなんか、この世の終わりみたいな顔してたんだよ……!」
ふたりの言葉には怒りというより、心配の色が濃く滲んでいた。 そのやさしさが、胸にじんと沁みる。
「ごめん、ごめん。ちょっとひとりになりたくてさ。裏庭のほうまで、ぶらぶらしてたんだ」
「ったく……心配かけんなよ」
テオが軽く拳で俺の肩を小突く。
「……でも、無事でよかった」
ノエルの声は静かで、安堵のにじむ響きだった。 俺の顔をじっと見つめたあと、話題を切り替える。
「そうだ、レオンから聞いた? 例のベータの剣術講師の件」
「えっ……ああ、まだ聞いてない。それで、どうだった?」
「学園を去ったオメガに聞き取り調査した結果――あの講師、完全にゲスだったよ。快楽目的で薬も使ってた。レオンが持ってた名簿とは、まったく関係なかった」
「……そうなんだ」
「でもまあ、あれで警備が強化されるかもしれないって、レオンも言ってた」
沈黙していると、ノエルが一歩こちらに近づく。
「ユリス。実は……君に話しておきたいことがある」
「……ん?」
「マルディ医師が、行方不明になってるって」
「……ああ、聞いたよ」
「僕も製薬会社の関係者から知った……大丈夫?」
ノエルの落ち着いた口調が、かえって不気味に思える。 まわりで、何かが少しずつ崩れていくような感覚。
「テオ、売店でオレンジジュース買ってきて。ユリスは?」
「俺? うーん……カフェオレで」
「オッケー、待ってろ!」
テオが売店へ向かうのを見送り、ノエルが静かに話し始めた。
「……それと、もうひとつ。この前、レオンが持ってた名簿にあった名前、未登録オメガ保護の件にも同じ名前があったよ」
ノエルはポケットから一枚のメモを取り出す。
「記録によると、“ジュリオ・カステリーノ”って少年がいた。僕たちより八歳上で、聖クロノス学院の中等部に在籍していたオメガの生徒。でも―中等部の途中で突然“休学”扱いになって、それから行方がわからなくなってる」
「……いまは?」
「それは不明。記録もそこまで。でも、何か重大なことに関わっていた可能性はある。“隠された生徒”だったのかもね」
胸がざわつく。 ジュリオ…… 俺と同じ検体のひとり、希少オメガの核保有者
「……ありがとう、ノエル。正直、まだ何も思い出せない……でも、過去と向き合わなきゃって……」
ノエルはそれ以上は何も聞かず、肩を軽く叩いて言った。
「無理はしないで。僕の知り合いで、力になれそうな人がいる。必要なら紹介するよ」
ノエルは、まるで何かを知っているような目をしていた。
「それと、安心して。レオンには、何も話してないから」
一歩だけ後ろに下がり、ノエルは微笑んだ。
――その優しさが、痛い。 でも、同時に心強くもあった。
「なぁ、ノエル……ジュリオのことを調べたとき、他に名前は出てこなかったのか?」
「未登録オメガ保護の件、あれは――あの施設にいたオメガたちを救うために、故意に火災を起こしたって話がある。そして、数名の少年が保護された」
「数名……?」
「彼らは、五歳から七歳の少年たちだった。闇で売られたオメガの子どもたち……」
ノエルの顔色は、陰を帯びていた。
「その子たちは、今どうしてるの?」
「行方不明になってたり、死亡が確認されてたり……」
「気になる?じゃあ、調べてみるよ。どこまでわかるかわからないけど」
「……ありがとう」
そのとき、勢いよく扉が開く。
「おっ、来た来た~。テオ、遅い!」
「ごめん、ごめん! でも、すごい混んでたんだって。なんでこの時間にジュースなんだよ……ほんと、ノエルってばわがままプリンスだよな~」
「なにそれ!」
二人の笑い声が、少しだけ気持ちを軽くしてくれる。 けれど、頭の奥ではレオンの顔が、何度も浮かんでは消えていた。
……レオンは、俺のこと…何処までを知ってるんだ?……
名簿のこと、“フラン”のこと―― 俺が問いさえすれば、きっとレオンは答えてくれる。 でも、その一言を口にするのが怖い。
疑念は、静かに確信へと姿を変えていく。
あいつの優しさは――本当に“今の俺”だけに向けられているものなのか
「ユリスーっ!」
「うわっ!」
勢いよく部屋に飛び込んできたのは、テオだった。後ろにはノエルもいる。
「お前、昨日どこ行ってたんだよ!? 探したんだからな!」
「そうだよ、ユリス! レオンなんか、この世の終わりみたいな顔してたんだよ……!」
ふたりの言葉には怒りというより、心配の色が濃く滲んでいた。 そのやさしさが、胸にじんと沁みる。
「ごめん、ごめん。ちょっとひとりになりたくてさ。裏庭のほうまで、ぶらぶらしてたんだ」
「ったく……心配かけんなよ」
テオが軽く拳で俺の肩を小突く。
「……でも、無事でよかった」
ノエルの声は静かで、安堵のにじむ響きだった。 俺の顔をじっと見つめたあと、話題を切り替える。
「そうだ、レオンから聞いた? 例のベータの剣術講師の件」
「えっ……ああ、まだ聞いてない。それで、どうだった?」
「学園を去ったオメガに聞き取り調査した結果――あの講師、完全にゲスだったよ。快楽目的で薬も使ってた。レオンが持ってた名簿とは、まったく関係なかった」
「……そうなんだ」
「でもまあ、あれで警備が強化されるかもしれないって、レオンも言ってた」
沈黙していると、ノエルが一歩こちらに近づく。
「ユリス。実は……君に話しておきたいことがある」
「……ん?」
「マルディ医師が、行方不明になってるって」
「……ああ、聞いたよ」
「僕も製薬会社の関係者から知った……大丈夫?」
ノエルの落ち着いた口調が、かえって不気味に思える。 まわりで、何かが少しずつ崩れていくような感覚。
「テオ、売店でオレンジジュース買ってきて。ユリスは?」
「俺? うーん……カフェオレで」
「オッケー、待ってろ!」
テオが売店へ向かうのを見送り、ノエルが静かに話し始めた。
「……それと、もうひとつ。この前、レオンが持ってた名簿にあった名前、未登録オメガ保護の件にも同じ名前があったよ」
ノエルはポケットから一枚のメモを取り出す。
「記録によると、“ジュリオ・カステリーノ”って少年がいた。僕たちより八歳上で、聖クロノス学院の中等部に在籍していたオメガの生徒。でも―中等部の途中で突然“休学”扱いになって、それから行方がわからなくなってる」
「……いまは?」
「それは不明。記録もそこまで。でも、何か重大なことに関わっていた可能性はある。“隠された生徒”だったのかもね」
胸がざわつく。 ジュリオ…… 俺と同じ検体のひとり、希少オメガの核保有者
「……ありがとう、ノエル。正直、まだ何も思い出せない……でも、過去と向き合わなきゃって……」
ノエルはそれ以上は何も聞かず、肩を軽く叩いて言った。
「無理はしないで。僕の知り合いで、力になれそうな人がいる。必要なら紹介するよ」
ノエルは、まるで何かを知っているような目をしていた。
「それと、安心して。レオンには、何も話してないから」
一歩だけ後ろに下がり、ノエルは微笑んだ。
――その優しさが、痛い。 でも、同時に心強くもあった。
「なぁ、ノエル……ジュリオのことを調べたとき、他に名前は出てこなかったのか?」
「未登録オメガ保護の件、あれは――あの施設にいたオメガたちを救うために、故意に火災を起こしたって話がある。そして、数名の少年が保護された」
「数名……?」
「彼らは、五歳から七歳の少年たちだった。闇で売られたオメガの子どもたち……」
ノエルの顔色は、陰を帯びていた。
「その子たちは、今どうしてるの?」
「行方不明になってたり、死亡が確認されてたり……」
「気になる?じゃあ、調べてみるよ。どこまでわかるかわからないけど」
「……ありがとう」
そのとき、勢いよく扉が開く。
「おっ、来た来た~。テオ、遅い!」
「ごめん、ごめん! でも、すごい混んでたんだって。なんでこの時間にジュースなんだよ……ほんと、ノエルってばわがままプリンスだよな~」
「なにそれ!」
二人の笑い声が、少しだけ気持ちを軽くしてくれる。 けれど、頭の奥ではレオンの顔が、何度も浮かんでは消えていた。
……レオンは、俺のこと…何処までを知ってるんだ?……
名簿のこと、“フラン”のこと―― 俺が問いさえすれば、きっとレオンは答えてくれる。 でも、その一言を口にするのが怖い。
疑念は、静かに確信へと姿を変えていく。
あいつの優しさは――本当に“今の俺”だけに向けられているものなのか
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