『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。

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28 嘘つきのまなざし

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 雨が降り出した午後、校舎の窓際で、
 俺はぼんやりと外を見つめていた。
 白く煙る空。かすれた風景が、まるで夢の中のようだった。
 滴る雨音が、思考を遠くへ連れていく。

 記憶の端に引っかかった「ジュリオ」という名前。
 だが、それ以上に今、ユリスの胸をざわつかせているのは
 ――レオンのことだった。

 彼は何かを隠している。
 クラウス医師に会ってから、俺の中で膨らむ疑惑……

「ユリス!」

 振り向くと、レオンが走ってきた。手には折りたたみ傘を持っている。

「お前、傘持ってないだろ。迎えにきた」

「……ありがと」

 ぎこちなく受け取った傘と、その優しすぎる声。

 どこまでも自分を気遣ってくれるレオンのまなざしが、逆に俺の胸を刺した。

「なぁ、最近……調子悪そうだよな。なんか、あったのか?」

「……ううん。別に」

 嘘だった。でも、正直に話せなかった。
 クラウス医師に聞かされたあの名前、“フラン”。そしてその記録に記された忌まわしい過去。
 それを、俺は受け止められないでいる……どこかで違うと思いたいと

 レオンの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。その奥にあるものを、俺は見逃さなかった。

(やっぱり、レオンも……)

 ふたりで並んで歩く道すがら、ユリスはふと問いかけた。

「レオンは……昔のこと、どれくらい覚えてる?」

「……昔?」

「うん。小さい頃とか。家族のこととか、自分がどんな子どもだったか、とか」

「……あんまり、ちゃんとは。俺、あんまりそういうの、話すの得意じゃなくてさ」

 レオンは苦笑する。

 だが、その笑顔の裏に、何かがある。ユリスはそれを感じ取ってしまう。

「そっか……」

 会話が終わったあと、ふたりの間に沈黙が流れる。
 雨の音だけが心を満たし、胸の内のもやが、ゆっくりと濃くなっていく。
 優しさが壁になることがある。

(レオン……お前はは何を隠してる?)

 その夜、レオンは俺を後ろから抱き寄せて、ぽつりと呟いた。

「ユリス。……俺、お前にだけは、嘘つきたくないって思ってた」

 その“思ってた”という過去形が、ひどく胸を締めつけた。

 俺は、何も返せなかった。
 ただ、背中から伝わるあいつの優しくて切ないぬくもりを受け止める。


 俺の中に、ひとつの確信が芽生えつつあった。

 彼もまた――過去に囚われている。

 そしてその過去は、自分の過去とどこかで交差している。

(……知りたい。怖いけど)

 レオンの優しさは、本当に今の自分に向けられたものなのか。
 それとも――かつての「誰か」への贖罪なのか。

 雨は止んだが、俺の心の霧は、まだ晴れなかった。
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