52 / 67
51 再会の予兆
しおりを挟む
「……生きてる?」
俺の声が、やけに遠く感じた。
マルディ医師の持ってきた資料は、すべて俺の常識をぶち壊すには十分すぎるほど正確だった。
ジュリオが。あの爆発の中で消えたはずの彼が、まだ——この世界のどこかで生きている。
「確証はない。でも、これは新しい痕跡よ」
マルディが机の上に叩きつけるように置いた小型のホログラフデバイスが、データログを表示した。
気圧変動、特殊フェロモン反応、そして——認識阻害シールドの痕跡。
あの逃亡劇の後、監視網からも逃れるようにして消えた存在の「痕」が
封鎖区域の旧研究区画で発見されたらしい。
「ジュリオが助けたのは俺たちだ」
レオンが腕を組みながら言う。
「アルクを裏切り、俺たちを脱出させた。
その報いはきっと、地獄みたいなもんだったはずだ」
俺は頷いた。あの日、確かに見た。
崩れ落ちる研究棟の中、火と煙の向こう側に、ジュリオがいた。
振り返りもせず、出口へと俺たちを押し出し——自分は戻った。
もう二度と、会えないと思っていた。
「その可能性が……あるってわけか」
「ジュリオ……」
言葉が空気に溶けた。彼の手がわずかに震えていたことだけが、感情のすべてだった。
「生きている可能性があるなら、必ず探す」
それだけを、彼は静かに言った。
執念にも似た声だった。
「……でも、俺たちも動く必要がある」
レオンが口を開いた。
「アルクは間違いなく、もうこちらの動きを察知してる。兄さんが俺たちを見逃すわけがない」
「罠かもしれない。でも行く」
俺ははっきり言った。
「ジュリオは、俺たちのために全部を捨てた。その彼がどこかで生きてるなら、迎えに行く。それだけだ」
クラウスが目を細めた。
「もう、君は“被験体”じゃないな。私よりもずっと、自由だ」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
その微笑みに少しだけ、過去のクラウスの面影が重なった気がした。
夜、レオンと二人で学院の裏庭を歩いていた。
空は薄曇り、星はひとつも見えない。
「なあ、ユリス」
レオンが口を開いた。
「兄さんがどういうつもりなのか、まだ見ない。だけど……俺は信じたいんだ」
「アルクを?」
「違う。お前を、だ」
その目はまっすぐで、まるで剣のようだった。
「お前が、誰を選ぶのか。何を信じて進むのか。そこだけは、俺は……見届けたい」
返事はしなかった。できなかった。
胸の奥に、ずっと冷たい棘が刺さっていた。
“選べ”と、誰もが言う。
感情を。立場を。未来を。
でも、選ぶことの重さを、誰も語ってはくれない。
それでも俺は。
——俺たちは、もう、止まるわけにはいかない。
ジュリオが生きているなら。
あの日、俺たちを逃したあの手に、もう一度触れられるのなら——
「必ず見つける」
そう呟いた俺の声は、風の中に消えていった。
俺の声が、やけに遠く感じた。
マルディ医師の持ってきた資料は、すべて俺の常識をぶち壊すには十分すぎるほど正確だった。
ジュリオが。あの爆発の中で消えたはずの彼が、まだ——この世界のどこかで生きている。
「確証はない。でも、これは新しい痕跡よ」
マルディが机の上に叩きつけるように置いた小型のホログラフデバイスが、データログを表示した。
気圧変動、特殊フェロモン反応、そして——認識阻害シールドの痕跡。
あの逃亡劇の後、監視網からも逃れるようにして消えた存在の「痕」が
封鎖区域の旧研究区画で発見されたらしい。
「ジュリオが助けたのは俺たちだ」
レオンが腕を組みながら言う。
「アルクを裏切り、俺たちを脱出させた。
その報いはきっと、地獄みたいなもんだったはずだ」
俺は頷いた。あの日、確かに見た。
崩れ落ちる研究棟の中、火と煙の向こう側に、ジュリオがいた。
振り返りもせず、出口へと俺たちを押し出し——自分は戻った。
もう二度と、会えないと思っていた。
「その可能性が……あるってわけか」
「ジュリオ……」
言葉が空気に溶けた。彼の手がわずかに震えていたことだけが、感情のすべてだった。
「生きている可能性があるなら、必ず探す」
それだけを、彼は静かに言った。
執念にも似た声だった。
「……でも、俺たちも動く必要がある」
レオンが口を開いた。
「アルクは間違いなく、もうこちらの動きを察知してる。兄さんが俺たちを見逃すわけがない」
「罠かもしれない。でも行く」
俺ははっきり言った。
「ジュリオは、俺たちのために全部を捨てた。その彼がどこかで生きてるなら、迎えに行く。それだけだ」
クラウスが目を細めた。
「もう、君は“被験体”じゃないな。私よりもずっと、自由だ」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
その微笑みに少しだけ、過去のクラウスの面影が重なった気がした。
夜、レオンと二人で学院の裏庭を歩いていた。
空は薄曇り、星はひとつも見えない。
「なあ、ユリス」
レオンが口を開いた。
「兄さんがどういうつもりなのか、まだ見ない。だけど……俺は信じたいんだ」
「アルクを?」
「違う。お前を、だ」
その目はまっすぐで、まるで剣のようだった。
「お前が、誰を選ぶのか。何を信じて進むのか。そこだけは、俺は……見届けたい」
返事はしなかった。できなかった。
胸の奥に、ずっと冷たい棘が刺さっていた。
“選べ”と、誰もが言う。
感情を。立場を。未来を。
でも、選ぶことの重さを、誰も語ってはくれない。
それでも俺は。
——俺たちは、もう、止まるわけにはいかない。
ジュリオが生きているなら。
あの日、俺たちを逃したあの手に、もう一度触れられるのなら——
「必ず見つける」
そう呟いた俺の声は、風の中に消えていった。
28
あなたにおすすめの小説
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜
小門内田
BL
ドケチで貧乏な大学生の瀧本 純也は、冷徹御曹司の諏訪 冬悟に交際0日、いや、初対面で結婚を迫られる!?
契約から始まった奇妙な結婚生活は、次第に互いの心を少しずつ変えていく。
“契約から本物へ―”
愛を知らない御曹司×愛されたがりの大学生の、立場も性格も正反対な二人が、不器用に心を通わせていく、ドタバタあり、じんわり甘い、ゆるやかな日常BL。
※最初は少し殺伐としていますが、ゆっくりと変化していく物語です。
※男同士の結婚が、一般的な世界線となります。
※関係性をわかりやすくするため、「嫁」や「妻」といった表現を使用しております。
※同タイトルのpixiv版とは、加筆・修正しておりますので、若干内容が変わっております。
予めご了承ください。
※更新日時等はXにてお知らせいたします
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
祝福を授かりましたが、まるで呪いです。
めっちゃ抹茶
BL
異世界に生まれ変わって出会った、一組の運命の番であるαとΩの話。
※ご都合主義があります
※オメガバースの知識がある人向け/作中で説明は一切ありません
※主人公が可哀想、ハッピーエンドではありません
主人公目線、あまり悲壮感はありませんがタグをご確認のうえ以上の事を念頭に、大丈夫な方のみお進み下さい。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる