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59 夜明けに触れる
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風は静かに夜を運び、東の空がほんのりと白み始めている。
俺はレオンと一緒に、王宮の外れにある古い温室跡に身を寄せていた。
ジュリオはもう、拘束されていない。
クラウスの腕に抱かれたまま、穏やかに微笑んでいる。
少しやつれたその顔は、それでもどこか透明で、美しかった。
そして――アルク。
王家の塔で見た彼の最後の姿。
視力を失いながらも、ジュリオを手放したその背中は、沈黙の中に深い哀しみを湛えていた。
「レオン、傷……平気か?」
問いかけると、レオンはわずかに目を細めて笑った。
「大丈夫。片目が見えないくらい、どうってことないよ」
そう言って肩をすくめたが、その笑みの奥に、かすかな痛みがにじんでいた。
「……嘘つけ。無理してるの、わかってる」
俺はそっと、彼の額に手を当てる。
熱はない。でもその身体には、戦いが刻んだ代償が、確かに残っていた。
「ユリス、お前、ほんと、そういうとこ……鋭いよな」
レオンが小さく笑って、俺の手をぎゅっと握り返してくる。
その掌は、傷を抱えているのに、不思議なほど優しくて、温かい。
「お前が俺のこと、ちゃんと見てくれてるの……わかってた。
フランで出会ったときも、ユリスとして再会したときも……お前の目だけは、いつも真っ直ぐだった。
まるで、俺の全部を知ってるみたいで、こわいくらいだった」
俺は言葉を失った。
たとえ片方の瞳しか残されていなくても――レオンは、真っ直ぐに俺を見ていた。
見透かすように。確かめるように。心まで、触れるような眼差しで。
「なぁ、ユリス……お前、俺のこと、どう思ってる?」
突然の問いに、心臓が跳ねた。
まっすぐに気持ちを問われるなんて、思ってもいなかった。
だけど、もう逃げるつもりはない。
俺は、彼と向き合う覚悟を決めている。
「ずっと……好きだよ」
答えると、レオンの睫毛がわずかに揺れた。
俺は続けた。
「ほんとは、お前のこと、最初は苦手だった。
強引で、無神経で、人の心を勝手に測ってくるようなところが嫌で……でも、
そんなお前が、俺をちゃんと“ユリス”として見てくれてたのも……気づいてた」
レオンが、目を細めて微笑む。
その表情があまりにも優しくて、胸が締めつけられる。
「お前もな。俺のこと、“レオン”として見てくれた。
王子でも、アルファでもなくて――ただの、俺として」
その言葉が、まっすぐに胸に染み込んでくる。
まるで、ずっと欲しかったものを、やっと手にしたように。
「なあ、ユリス。……触れてもいい?」
レオンが、そっと手を伸ばしてくる。
その仕草に欲望の色はなく、ただただ確かめるような、静かであたたかい動きだった。
「……うん」
俺は、小さく頷いた。
レオンの指先が頬に触れ、そっと撫でる。
耳の裏をなぞり、髪をすくうように撫でられるだけで、体中がじわりと熱を帯びていく。
「……お前、かわいいとこあるよな。強いくせに、すぐ顔赤くなる」
「うるさい……」
そう言い返したけど、照れが顔に出ているのは自分でもわかった。
レオンは小さく笑って、俺の額にそっとキスを落とす。
「ほんとに……好きなんだ。お前のことが」
その声は、深く静かで、誠実で、どこまでも切ないほど真っ直ぐだった。
胸の奥が、きゅっと痛くなる。
気づけば俺は、彼の胸元に顔を埋めていた。
「俺も……好きだ。……レオンと、ずっとこうしていたい」
そう囁くと、レオンの腕が俺を強く抱きしめた。
「ずっと一緒にいよう。もう、どこにも行かせない。
俺が、お前を守る。……どんな世界でも」
その言葉が、俺の心を静かに、でも確かに満たしていく。
激しく溺れるような熱じゃない――でも、身体の奥からじんわりと染み込んでくる、確かな愛の温度。
夜が明けきる頃、遠くから馬車の音が聞こえてきた。
「来たな……追手かもしれない」
レオンが体を起こし、窓の外を覗く。
やがて、フードを深く被ったひとりの使者が姿を現した。
レオンが、低く呟く。
「クラウスが言ってた。ノエルの知り合いがいる。
オメガ保護団体、マルディ医師――王家の圧力が届かない場所だ。
そこなら、俺たちを匿ってくれるかもしれない」
「……行こう」
俺は静かに頷く。
「俺たちはまだ……始まったばかりだ」
レオンが手を差し出す。
俺はその手を、迷いなく強く握り返した。
「ユリス。これから、どんな運命が来ても……お前を離さない」
「俺も。レオンと、生きる」
ふたりで歩き出す。
この先には、きっと苦しみも、痛みもあるだろう。
でも――
ふたりでなら。
どんな未来も、怖くない。信じられる。
夜明けの風が吹き抜ける。
新しい世界が、静かに始まろうとしていた。
俺たちは、手を取り合ったまま――旅立った。
俺はレオンと一緒に、王宮の外れにある古い温室跡に身を寄せていた。
ジュリオはもう、拘束されていない。
クラウスの腕に抱かれたまま、穏やかに微笑んでいる。
少しやつれたその顔は、それでもどこか透明で、美しかった。
そして――アルク。
王家の塔で見た彼の最後の姿。
視力を失いながらも、ジュリオを手放したその背中は、沈黙の中に深い哀しみを湛えていた。
「レオン、傷……平気か?」
問いかけると、レオンはわずかに目を細めて笑った。
「大丈夫。片目が見えないくらい、どうってことないよ」
そう言って肩をすくめたが、その笑みの奥に、かすかな痛みがにじんでいた。
「……嘘つけ。無理してるの、わかってる」
俺はそっと、彼の額に手を当てる。
熱はない。でもその身体には、戦いが刻んだ代償が、確かに残っていた。
「ユリス、お前、ほんと、そういうとこ……鋭いよな」
レオンが小さく笑って、俺の手をぎゅっと握り返してくる。
その掌は、傷を抱えているのに、不思議なほど優しくて、温かい。
「お前が俺のこと、ちゃんと見てくれてるの……わかってた。
フランで出会ったときも、ユリスとして再会したときも……お前の目だけは、いつも真っ直ぐだった。
まるで、俺の全部を知ってるみたいで、こわいくらいだった」
俺は言葉を失った。
たとえ片方の瞳しか残されていなくても――レオンは、真っ直ぐに俺を見ていた。
見透かすように。確かめるように。心まで、触れるような眼差しで。
「なぁ、ユリス……お前、俺のこと、どう思ってる?」
突然の問いに、心臓が跳ねた。
まっすぐに気持ちを問われるなんて、思ってもいなかった。
だけど、もう逃げるつもりはない。
俺は、彼と向き合う覚悟を決めている。
「ずっと……好きだよ」
答えると、レオンの睫毛がわずかに揺れた。
俺は続けた。
「ほんとは、お前のこと、最初は苦手だった。
強引で、無神経で、人の心を勝手に測ってくるようなところが嫌で……でも、
そんなお前が、俺をちゃんと“ユリス”として見てくれてたのも……気づいてた」
レオンが、目を細めて微笑む。
その表情があまりにも優しくて、胸が締めつけられる。
「お前もな。俺のこと、“レオン”として見てくれた。
王子でも、アルファでもなくて――ただの、俺として」
その言葉が、まっすぐに胸に染み込んでくる。
まるで、ずっと欲しかったものを、やっと手にしたように。
「なあ、ユリス。……触れてもいい?」
レオンが、そっと手を伸ばしてくる。
その仕草に欲望の色はなく、ただただ確かめるような、静かであたたかい動きだった。
「……うん」
俺は、小さく頷いた。
レオンの指先が頬に触れ、そっと撫でる。
耳の裏をなぞり、髪をすくうように撫でられるだけで、体中がじわりと熱を帯びていく。
「……お前、かわいいとこあるよな。強いくせに、すぐ顔赤くなる」
「うるさい……」
そう言い返したけど、照れが顔に出ているのは自分でもわかった。
レオンは小さく笑って、俺の額にそっとキスを落とす。
「ほんとに……好きなんだ。お前のことが」
その声は、深く静かで、誠実で、どこまでも切ないほど真っ直ぐだった。
胸の奥が、きゅっと痛くなる。
気づけば俺は、彼の胸元に顔を埋めていた。
「俺も……好きだ。……レオンと、ずっとこうしていたい」
そう囁くと、レオンの腕が俺を強く抱きしめた。
「ずっと一緒にいよう。もう、どこにも行かせない。
俺が、お前を守る。……どんな世界でも」
その言葉が、俺の心を静かに、でも確かに満たしていく。
激しく溺れるような熱じゃない――でも、身体の奥からじんわりと染み込んでくる、確かな愛の温度。
夜が明けきる頃、遠くから馬車の音が聞こえてきた。
「来たな……追手かもしれない」
レオンが体を起こし、窓の外を覗く。
やがて、フードを深く被ったひとりの使者が姿を現した。
レオンが、低く呟く。
「クラウスが言ってた。ノエルの知り合いがいる。
オメガ保護団体、マルディ医師――王家の圧力が届かない場所だ。
そこなら、俺たちを匿ってくれるかもしれない」
「……行こう」
俺は静かに頷く。
「俺たちはまだ……始まったばかりだ」
レオンが手を差し出す。
俺はその手を、迷いなく強く握り返した。
「ユリス。これから、どんな運命が来ても……お前を離さない」
「俺も。レオンと、生きる」
ふたりで歩き出す。
この先には、きっと苦しみも、痛みもあるだろう。
でも――
ふたりでなら。
どんな未来も、怖くない。信じられる。
夜明けの風が吹き抜ける。
新しい世界が、静かに始まろうとしていた。
俺たちは、手を取り合ったまま――旅立った。
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