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番外編
「リアの手紙」 ――未来編
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丘の上を歩くとき、風の匂いが変わる。
桜の花びらが、顔にふれて、すぐに舞い上がっていく。
まるで、誰かの想いみたいに――言葉にならないまま、でも確かに届いてくるんだ。
この丘は、パパが大切にしていた場所。
父様が、初めて泣いたって話してくれた場所。
私にとっては、夢のなかで何度も歩いた景色。
でも今日、私はちゃんと自分の足でここに立っている。
パパは、よく言ってた。
「風の音が聞こえるだろう? それは、命の音だよ」って。
そのたびに、私はこっそり耳をすましていた。
聞こえた気がしたんだ。
笑い声や、泣き声。誰かの歌。
そして……誰かの「願い」が、今もこの丘に残ってる気がした。
私は、ジュリオとアルクの子。
パパは、やさしくて、少し泣き虫で、でもすごく強い。
「過去の自分を赦せなかった」と言っていたけど、
私はパパを見ていて、いつだって“赦しそのもの”だと思ってた。
夜、私が熱を出してうなされたとき、
ずっと手を握って、歌をうたってくれた。
その歌は、昔、泣いていた誰かに向けた歌だったんだって。
私は眠るふりをしながら、ちゃんと聞いてた。
父様は、ちょっと不器用で、だけど誰よりも真っすぐ。
庭で転んだとき、黙って抱き上げて「泣くな」とだけ言った。
でも、腕の中はすごくあたたかかった。
「リア、お前はもう“俺たちの償い”なんかじゃない。
……お前は、お前の人生を生きるんだ」
その言葉が、すごくあったかくて、でも少しだけ怖くて。
“自由”って、嬉しいのに、少しだけ重たい。
だって、何を選んでもいいってことは、間違うこともあるってことだから。
でもね、私は知ってる。
私には、選びなおした大人たちがいる。
自分の傷と向き合って、愛することを、やめなかった人たちが。
ユリスおじ様は、いちばん最初に名前を呼んでくれた人。
「リア」って、まっすぐ見つめて言ってくれた。
少し難しい言葉を使うけど、心の奥は、まるであったかい火みたい。
火は、誰かを傷つけることもできるけど、
でも、そばにいればあたたかくて、光をくれる。
レオンおじ様は、ユリスおじ様の隣にいて、
どんなときも、その手を離さない人。
「愛してる」をちゃんと言える人。
その人がそばにいるだけで、誰かの人生はきっと変わる。
私、そんなふうに“誰かの支え”になれる人になりたい。
いつか、誰かの手を取って「大丈夫」って言えるような――
そんな言葉を、嘘じゃなく、信じてもらえるような人に。
クラウスさんは……ちょっとこわそうだけど、
パパのことをものすごく大事にしてるのが分かる。
守る、ってことを、黙って続けられる人なんだと思う。
この前、父様と話してたのを聞いた。
「あいつがこいいって思った。
私は、そんな人たちに囲まれて育った。
だからたぶん、私はとても幸せな子供なんだと思う。
でも、ここからは――私の番だ。
私は、パパから「優しさ」を受け継いだ。
泣いてる人に、そっと手を差し伸べられる力。
父様からは、「選びなおす勇気」を受け継いだ。
一度失敗しても、また進めばいいって信じられる強さ。
そして、ユリスおじ様やレオンおじ様からもらったものは、
「痛みの上に築かれた未来」の、ほんとうの意味。
誰かの悲しみの先に、
こうして“歩いていける道”があるってこと。
小さな手で、私はまだ大きなことはできない。
でも、見てきた背中が教えてくれた。
生きるってことは、願うってこと。
そして、願いは“未来に託す”こと。
私は、この手紙を未来に届けたい。
まだ名前も知らない誰かが、
迷ったとき、泣きそうなときに、
そっと読んでくれるかもしれない。
そう思って、この手紙を書いてるんだ。
これは、誰かの過去の話じゃない。
誰かの記録や、歴史や、痛みの証明だけじゃない。
これは、私の“これから”の話。
私は歩いていくよ。
小さな足でも、ちゃんと未来へ続くこの丘を。
誰かが残してくれた光の道を、
今度は、私が照らす番なんだ。
パパへ、父様へ。
そして、すべての“願い”を選びなおした大人たちへ。
ありがとう。
私は、ちゃんと生きていく。
次にここに来る誰かが、
また新しい願いを手にできるように。
その時、今度は私が「迎える」側でいたい。
だから私は、歩く。
何度でも、選びなおして。
何度でも、立ち上がって。
この風が、まだ知らない誰かにも届くように。
――リアより
【手紙の余白には、子どもの筆跡で小さな絵が描かれている。】
桜の木。風の中に立つ五人の大人たち。
そして、その先を歩く、小さな少年の背中――
その背中は、前を向いている。
未来へ向かって、まっすぐに。
──リア・エステル=ヴァルフォ-ド
桜の花びらが、顔にふれて、すぐに舞い上がっていく。
まるで、誰かの想いみたいに――言葉にならないまま、でも確かに届いてくるんだ。
この丘は、パパが大切にしていた場所。
父様が、初めて泣いたって話してくれた場所。
私にとっては、夢のなかで何度も歩いた景色。
でも今日、私はちゃんと自分の足でここに立っている。
パパは、よく言ってた。
「風の音が聞こえるだろう? それは、命の音だよ」って。
そのたびに、私はこっそり耳をすましていた。
聞こえた気がしたんだ。
笑い声や、泣き声。誰かの歌。
そして……誰かの「願い」が、今もこの丘に残ってる気がした。
私は、ジュリオとアルクの子。
パパは、やさしくて、少し泣き虫で、でもすごく強い。
「過去の自分を赦せなかった」と言っていたけど、
私はパパを見ていて、いつだって“赦しそのもの”だと思ってた。
夜、私が熱を出してうなされたとき、
ずっと手を握って、歌をうたってくれた。
その歌は、昔、泣いていた誰かに向けた歌だったんだって。
私は眠るふりをしながら、ちゃんと聞いてた。
父様は、ちょっと不器用で、だけど誰よりも真っすぐ。
庭で転んだとき、黙って抱き上げて「泣くな」とだけ言った。
でも、腕の中はすごくあたたかかった。
「リア、お前はもう“俺たちの償い”なんかじゃない。
……お前は、お前の人生を生きるんだ」
その言葉が、すごくあったかくて、でも少しだけ怖くて。
“自由”って、嬉しいのに、少しだけ重たい。
だって、何を選んでもいいってことは、間違うこともあるってことだから。
でもね、私は知ってる。
私には、選びなおした大人たちがいる。
自分の傷と向き合って、愛することを、やめなかった人たちが。
ユリスおじ様は、いちばん最初に名前を呼んでくれた人。
「リア」って、まっすぐ見つめて言ってくれた。
少し難しい言葉を使うけど、心の奥は、まるであったかい火みたい。
火は、誰かを傷つけることもできるけど、
でも、そばにいればあたたかくて、光をくれる。
レオンおじ様は、ユリスおじ様の隣にいて、
どんなときも、その手を離さない人。
「愛してる」をちゃんと言える人。
その人がそばにいるだけで、誰かの人生はきっと変わる。
私、そんなふうに“誰かの支え”になれる人になりたい。
いつか、誰かの手を取って「大丈夫」って言えるような――
そんな言葉を、嘘じゃなく、信じてもらえるような人に。
クラウスさんは……ちょっとこわそうだけど、
パパのことをものすごく大事にしてるのが分かる。
守る、ってことを、黙って続けられる人なんだと思う。
この前、父様と話してたのを聞いた。
「あいつがこいいって思った。
私は、そんな人たちに囲まれて育った。
だからたぶん、私はとても幸せな子供なんだと思う。
でも、ここからは――私の番だ。
私は、パパから「優しさ」を受け継いだ。
泣いてる人に、そっと手を差し伸べられる力。
父様からは、「選びなおす勇気」を受け継いだ。
一度失敗しても、また進めばいいって信じられる強さ。
そして、ユリスおじ様やレオンおじ様からもらったものは、
「痛みの上に築かれた未来」の、ほんとうの意味。
誰かの悲しみの先に、
こうして“歩いていける道”があるってこと。
小さな手で、私はまだ大きなことはできない。
でも、見てきた背中が教えてくれた。
生きるってことは、願うってこと。
そして、願いは“未来に託す”こと。
私は、この手紙を未来に届けたい。
まだ名前も知らない誰かが、
迷ったとき、泣きそうなときに、
そっと読んでくれるかもしれない。
そう思って、この手紙を書いてるんだ。
これは、誰かの過去の話じゃない。
誰かの記録や、歴史や、痛みの証明だけじゃない。
これは、私の“これから”の話。
私は歩いていくよ。
小さな足でも、ちゃんと未来へ続くこの丘を。
誰かが残してくれた光の道を、
今度は、私が照らす番なんだ。
パパへ、父様へ。
そして、すべての“願い”を選びなおした大人たちへ。
ありがとう。
私は、ちゃんと生きていく。
次にここに来る誰かが、
また新しい願いを手にできるように。
その時、今度は私が「迎える」側でいたい。
だから私は、歩く。
何度でも、選びなおして。
何度でも、立ち上がって。
この風が、まだ知らない誰かにも届くように。
――リアより
【手紙の余白には、子どもの筆跡で小さな絵が描かれている。】
桜の木。風の中に立つ五人の大人たち。
そして、その先を歩く、小さな少年の背中――
その背中は、前を向いている。
未来へ向かって、まっすぐに。
──リア・エステル=ヴァルフォ-ド
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