『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。

文字の大きさ
66 / 67

最終話 五つの願い ―物語の核心と希望の継承―

しおりを挟む
 春、桜が咲くころ。

 風に揺れる花びらの中で、ひとつの夢が静かに終わりを告げ、
 そして新しいページが、静かに開かれようとしていた。

 

 かつて、痛みとともに交わされた「約束」たち。

 それは一度は途切れ、奪われ、擦り切れそうになりながらも、
 時を経て、再びこの場所へと還ってきた。

 ――誰かの希望となるために。
 ――もう、誰もひとりきりにしないために。

 

 《ユリスの願い》:「命を“選べる”場所に、もう誰も閉じ込めないこと」

 旧校舎の壁に指先でふれながら、ユリスは静かに目を伏せる。

 あの研究施設で、“フラン”だった自分は、
 天井の白い光ばかりを見上げていた。

 感情も、選択も、すべて奪われていたあの日々。

 でも今は違う。

 眠る前に手を握ってくれる人がいる。
 名前を呼んでくれる声がある。
 心から「生きたい」と思える場所が、ここにある。

 

「この場所を、二度と檻にさせない。
 それが……俺の、最後の“願い”だよ」

 

 その呟きに、そっと手を重ねてくれたのはレオンだった。
 彼の体温が、静かに背中を押してくれる。

 

 

 《レオンの願い》:「権力ではなく、手を差し伸べる存在になること」

 かつての自分は、王族として、アルファとして生きる事への疑問だらけだった、

 でもその中で、本当に欲しかったのは、
 肩書きじゃない。
 ただ「君が生きていてくれること」だった。

 いま隣にいるユリスは、もう過去の檻に囚われていない。
 それを支えることが、今の自分の“使命”だと信じられる。

「お前が泣かずにいられる世界を。
 ……そのためなら、俺は何度だって“選びなおせる”」

 言葉を交わさずとも、互いの想いは重なっている。
 頬をなぞる指先に、ふと唇を寄せ、
 その温もりを確かめた夜のことを、レオンは忘れない。

 

 

 《ジュリオの願い》:「かつての自分と同じ痛みを誰にも味わせないこと」

 診療所のベッドで、小さなぬいぐるみを握って眠る少年。
 その寝息の静かさに、ジュリオはそっと息をついた。

 ――あの頃の僕に、誰かひとりでも「大丈夫」と言ってくれたら。

 きっと、世界の色は少し違っていたかもしれない。

 

 でも今、彼には支えてくれる存在がいる。
 悲しみの中で名を呼んでくれた人。
 どんなに崩れそうでも、そばで手を握ってくれるたくさんの友人がいる。
 そして僕の宝物……

 「僕たちは皆、被害者だった。
 でも、これからは……新しい世代のために、
 “強くなる”って、誓ったんだ」

 手のひらを、胸の前にそっと置く。
 その奥にあるのは、悲しみではない。愛だ。

 

 

 《クラウスの願い》:「君の、その願いを……見守り続けること」

 ジュリオは、クラウスにとっての「生き方」そのものだった。
 ただ一人の笑顔と、その心の平穏だった。

「たとえ同じ道を選ばなくても、
 俺は、君の願いを……生涯かけて見守るよ」

 指先が触れるだけで、伝わる想いがある。
 眠るジュリオの髪を優しく撫でながら、
 その言葉を声に出すことなく誓った。

 愛している。
 それは、守ることでも、奪うことでもない。
 君の隣で生きる未来がなくとも、僕はいつまでも肝を見守り続けるよ

 

 《アルクの願い》:「罪を背負って、大切なものを守る人間になること」

 あの丘で泣いていた自分は、
 兄としても王としても未熟だった。

 ユリスとレオンが手を取り合ったあの日、
 自分が信じられなかった“未来”が、確かに目の前で生まれていた。

「これは償いじゃない。……ただ、
 あの頃の俺に、胸を張れる未来が欲しかっただけなんだ」

 誰かを傷つけた過去は消えない。
 でもその分、これからの誰かを守る力にはなれる。

 そう信じて、彼は空を見上げる。
 満開の桜が、風に乗って舞っていた。

 

 満開の桜の咲く丘。

 それは、現実には存在しない。
 けれど、願いを選び直した者だけが辿り着ける、心の象徴。

 

 春風の中、五人は静かに並んで立っていた。
 言葉はない。
 ただ、想いだけが、風の中を通り抜ける。

 
 ユリスの手に、レオンがそっと手を重ねた。
 その温もりに、ジュリオが微笑み、
 クラウスがそっと肩を叩く。
 アルクは、誰より穏やかな顔で空を見上げる。

 未来を見つめるように。

 

 そして――

 
 丘の下から、小さな足音が近づいてくる。

 まだ幼い背中。
 握られた一通の“手紙”。

 春風にさらされながら、
 その子はしっかりと前を見据えて立っている。

 
 それは、リアかもしれない。
 あるいは、まだ名も知らぬ誰かかもしれない。

 けれど間違いなく、その足取りの先にあるのは──
 彼らが託した“希望”の物語だ。


「五つの願いが交差したこの物語は、
 やがて誰かの手に渡り、また新しい物語へと続いていく――」

《完》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この恋が運命じゃなくても

星川過世
BL
自身の第二の性から逃れたいαと運命の番との出逢いを夢見るΩが運命に逆らおうともがく話。ちょっだけ暗めかも。 他サイト様にも掲載中

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田
BL
ドケチで貧乏な大学生の瀧本 純也は、冷徹御曹司の諏訪 冬悟に交際0日、いや、初対面で結婚を迫られる!? 契約から始まった奇妙な結婚生活は、次第に互いの心を少しずつ変えていく。 “契約から本物へ―” 愛を知らない御曹司×愛されたがりの大学生の、立場も性格も正反対な二人が、不器用に心を通わせていく、ドタバタあり、じんわり甘い、ゆるやかな日常BL。 ※最初は少し殺伐としていますが、ゆっくりと変化していく物語です。 ※男同士の結婚が、一般的な世界線となります。 ※関係性をわかりやすくするため、「嫁」や「妻」といった表現を使用しております。 ※同タイトルのpixiv版とは、加筆・修正しておりますので、若干内容が変わっております。 予めご了承ください。 ※更新日時等はXにてお知らせいたします

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

祝福を授かりましたが、まるで呪いです。

めっちゃ抹茶
BL
異世界に生まれ変わって出会った、一組の運命の番であるαとΩの話。 ※ご都合主義があります ※オメガバースの知識がある人向け/作中で説明は一切ありません ※主人公が可哀想、ハッピーエンドではありません 主人公目線、あまり悲壮感はありませんがタグをご確認のうえ以上の事を念頭に、大丈夫な方のみお進み下さい。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

処理中です...