〜無機質な被検体に触れられ……恋と快楽のデータを取られる腐男子研究員〜「僕とサボテンとアンドロイド」

るみ乃。

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腐男子研究員の日常

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 僕の名前は久世透(くぜ・とおる)、28歳。
 友達も恋人もいない、恋愛経験ゼロの童貞研究員。
 ……そして、誰にも言っていないけど……僕は、腐男子だ。

 現実は冷たくて、色のない日々。
 でもBLの世界だけが、僕を生かしてくれる。妄想の中でなら、僕は誰かに抱かれて、愛されることができるんだ。

 今日も、ひとり研究室の隅っこで、こっそり広げた新刊のBLコミックに目を落とす。
 ページをめくった瞬間――

「あ…やだ…そんなに強くされたら……っ」

 誰かの吐息が、耳元で囁くように聞こえてくる……
 胸の奥がきゅっと締めつけられて、息が苦しく……
 手が震えて、ページがめくれない。まるで、僕自身が抱かれてるみたいに、身体が熱を帯びていく。

「もっと……激しくして……」

 受けキャラの表情に、自分を重ねる。優しく責められていく姿に、身体が疼く。
 妄想が加速して、肌がひりつくほどリアルになってくる。

 誰もいない研究室で、指先が紙をなぞる。まるで、攻めキャラの手が受けキャラの首筋を撫でているみたいに……。

「……はあ。ほんと、俺って何やってんだろ……」

 そんな自嘲の声さえ、妄想の火に油を注いでしまう。
 止められない。止まらない。
 だって現実で、誰かに触れられるのは、怖いんだ。拒絶されたら、軽蔑されたら、僕の心はたぶん、壊れてしまう。

 だから僕は、妄想の中でだけ、甘やかされる。
 優しく名前を呼ばれて、抱きしめられて、愛される。

「ああ……もっと……して……」

 妄想の中の僕は素直で、淫らだ。
 現実じゃ絶対言えないような台詞だって、想像の中ならいくらでも口にできる。
 でもそれが、どこまでも切ない。

 現実には、誰も僕に触れてくれない。
 誰も、僕の名前を甘く呼んでくれない。

「……また、やっちゃったな……」

 机に顔を伏せて、乱れた呼吸を整えようとする。
 でも、胸の奥に残った熱は、まだ冷めない。

 童貞のくせに妄想だけは一人前――なんて滑稽だ。
 だけど、それでもいい。
 この妄想だけが、今の僕を生かしてるんだ。

 研究データのグラフなんて、目に入らない。
 頭の中を埋め尽くすのは、誰かの温もりと、吐息と、甘く呼ばれる名前だけ。

「……もし、誰かに抱きしめられる日が来たら……」

 小さく掠れた声が喉の奥で震える。
 無理だって、分かってる。
 だけど、願わずにはいられない。

 愛されたい――そう心の奥で叫んでも、届かない。


「……ほんと、馬鹿だな、僕……」

 そう呟きながらも、ページを閉じることはできない

 ふと顔を上げると、机の隅に置いた小さなサボテンが、じっとこちらを見ている気がした。

「……今日も、僕を見てくれてたのか。ありがとな」

 声には出さず、心で呟く。
 誰よりも長く、僕の妄想に付き合ってくれている、小さな友達に。

 孤独と甘い熱に抱かれながら、僕は今日もこの場所で、そっと息をしている。
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