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第4章『交わされた禁忌』
16 「神に見られた夜」
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ふたりで最後の約束を交わした夜が明け、天界に淡い光が差し込んだころ――
一見、何もなかったかのように静まり返った天界の空気の下で、
確かなざわめきが広がりつつあるのを、俺は肌で感じていた。
神の庭のすぐ近くにそびえる、聖なる記録の塔。
その中心にある「監視の水盤」は、俺たちふたりの、あの夜の秘密をすべて映し出していた。
誰にも知られるはずのなかった言葉、指先が触れたぬくもり、重ねた唇の感触
――あの夜のすべてが、そこに記録されていた。
最初にそれを見たのは、天上の使者ウリエルだった。
彼は息を呑み、すぐに神に報告を上げた。
「ルシファスとミカエル……神の掟を破り、感情という禁忌に手を伸ばした者たちです」
その報告に対して、神は何も言わなかった。ただ静かに、天の書を閉じただけだった。
それだけで、空気が張り詰めるのを感じた。
終わりの始まりが、音もなく動き出した瞬間だった。
ほどなくして、ミカエルのもとに神直属の審問官から召喚状が届いたと聞いた。
あの封印の刻印を目にした瞬間、君は手を震わせたという。
もう隠せない。俺と過ごした夜が、すべて神に知られたのだと、君も悟ったに違いない。
「……神は、もう知っている」
そして、俺のもとには――黒い羽が落ちてきた。
堕天の象徴。
処罰の前兆を告げる、決定的なサインだった。
俺はその羽を拾い上げ、指先でそっと撫でた。
「来たのか……」
声に出した瞬間、胸の奥にずしりとした覚悟が沈み込んだ。
静かに、けれど確かに、俺は足を動かし始めた。向かった先は、天界の森の奥にある秘密の祠。
そこには、盟友ベルゼブが待っていた。
「ルシファス、まずい。審問官が動き出した。ミカエルも……召喚されたらしい」
「……やっぱりな」
ベルゼブの声には焦りが滲んでいた。
「今すぐ逃げたほうがいい。捕まれば、すべて終わる」
だが、俺は首を横に振った。
喉の奥がきしむように痛んだが、目だけは逸らさなかった。
「いや、俺はミカエルを愛している……ちゃんと、最後に向き合わなきゃいけない」
俺の声には、恐れよりも、祈りにも似た願いと決意が混じっていた。
――愛が罪ならば、その罪ごと背負って、堕ちてやる。
たとえ神に見られていようと、裁かれようと、俺はあの夜を後悔なんてしない。
あの時間こそが、俺たちの真実だった。
神の目は、すべてを見ている。
でも、だからといって、君と交わした心までは否定させない。
祠の扉に手をかけ、そっと押し開けた。
中には、ミカエルがいた。
蒼く透き通った瞳が、差し込む光の中で、かすかに揺れていた。
「ルシファス……」
その声は震えていた。
恐れと祈り、そして――覚悟が入り混じった声。
俺は静かに歩み寄り、君の手を取った。
あたたかな掌が、俺の指に重なった瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「神の目が見ていても……もう、隠さない。逃げもしない。お前と一緒に、この運命を受け入れる」
ミカエルの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
俺の手の中で、その涙をそっと拭うと、君は小さく息をついた。
「怖い……でも、ルシファスとなら、どんな裁きも、もう怖くない」
その言葉に、俺は微笑んだ。
そして、そっと君の額にキスを落とした。
「一緒に神の裁きをまとう――この愛は、誰にも奪えない」
ふたりの指は強く絡み合い、そっと身体を寄せた。
重なる鼓動の音が、どこか遠くで鳴り響く神の鐘と呼応しているように感じた。
森の風が祠をかすかに揺らし、木々のざわめきが切ない旋律を奏でている。
この静けさの中で誓った愛は、神の怒りを受けようとも、誰にも消せやしない。
これは終わりなんかじゃない。
俺たちふたりの、始まりなんだ。
神の目が見ている。
それでも俺は、ミカエルを抱きしめ、運命に抗う覚悟を胸に刻みつけた。
一見、何もなかったかのように静まり返った天界の空気の下で、
確かなざわめきが広がりつつあるのを、俺は肌で感じていた。
神の庭のすぐ近くにそびえる、聖なる記録の塔。
その中心にある「監視の水盤」は、俺たちふたりの、あの夜の秘密をすべて映し出していた。
誰にも知られるはずのなかった言葉、指先が触れたぬくもり、重ねた唇の感触
――あの夜のすべてが、そこに記録されていた。
最初にそれを見たのは、天上の使者ウリエルだった。
彼は息を呑み、すぐに神に報告を上げた。
「ルシファスとミカエル……神の掟を破り、感情という禁忌に手を伸ばした者たちです」
その報告に対して、神は何も言わなかった。ただ静かに、天の書を閉じただけだった。
それだけで、空気が張り詰めるのを感じた。
終わりの始まりが、音もなく動き出した瞬間だった。
ほどなくして、ミカエルのもとに神直属の審問官から召喚状が届いたと聞いた。
あの封印の刻印を目にした瞬間、君は手を震わせたという。
もう隠せない。俺と過ごした夜が、すべて神に知られたのだと、君も悟ったに違いない。
「……神は、もう知っている」
そして、俺のもとには――黒い羽が落ちてきた。
堕天の象徴。
処罰の前兆を告げる、決定的なサインだった。
俺はその羽を拾い上げ、指先でそっと撫でた。
「来たのか……」
声に出した瞬間、胸の奥にずしりとした覚悟が沈み込んだ。
静かに、けれど確かに、俺は足を動かし始めた。向かった先は、天界の森の奥にある秘密の祠。
そこには、盟友ベルゼブが待っていた。
「ルシファス、まずい。審問官が動き出した。ミカエルも……召喚されたらしい」
「……やっぱりな」
ベルゼブの声には焦りが滲んでいた。
「今すぐ逃げたほうがいい。捕まれば、すべて終わる」
だが、俺は首を横に振った。
喉の奥がきしむように痛んだが、目だけは逸らさなかった。
「いや、俺はミカエルを愛している……ちゃんと、最後に向き合わなきゃいけない」
俺の声には、恐れよりも、祈りにも似た願いと決意が混じっていた。
――愛が罪ならば、その罪ごと背負って、堕ちてやる。
たとえ神に見られていようと、裁かれようと、俺はあの夜を後悔なんてしない。
あの時間こそが、俺たちの真実だった。
神の目は、すべてを見ている。
でも、だからといって、君と交わした心までは否定させない。
祠の扉に手をかけ、そっと押し開けた。
中には、ミカエルがいた。
蒼く透き通った瞳が、差し込む光の中で、かすかに揺れていた。
「ルシファス……」
その声は震えていた。
恐れと祈り、そして――覚悟が入り混じった声。
俺は静かに歩み寄り、君の手を取った。
あたたかな掌が、俺の指に重なった瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「神の目が見ていても……もう、隠さない。逃げもしない。お前と一緒に、この運命を受け入れる」
ミカエルの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
俺の手の中で、その涙をそっと拭うと、君は小さく息をついた。
「怖い……でも、ルシファスとなら、どんな裁きも、もう怖くない」
その言葉に、俺は微笑んだ。
そして、そっと君の額にキスを落とした。
「一緒に神の裁きをまとう――この愛は、誰にも奪えない」
ふたりの指は強く絡み合い、そっと身体を寄せた。
重なる鼓動の音が、どこか遠くで鳴り響く神の鐘と呼応しているように感じた。
森の風が祠をかすかに揺らし、木々のざわめきが切ない旋律を奏でている。
この静けさの中で誓った愛は、神の怒りを受けようとも、誰にも消せやしない。
これは終わりなんかじゃない。
俺たちふたりの、始まりなんだ。
神の目が見ている。
それでも俺は、ミカエルを抱きしめ、運命に抗う覚悟を胸に刻みつけた。
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