『蒼い翼の約束』〜天使の恋は罪に堕ちる〜』

るみ乃。

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第4章『交わされた禁忌』

17「審問の庭で、愛を叫んだ」

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 神の庭に隣接する、審問の塔――

 その厳かなる白亜の空間に、俺とミカエルは、それぞれ別の入口から導かれてきた。
 互いの姿は見えずとも、胸の奥底では、確かに触れ合っている気がしていた。

 あの夜、微睡みの中で重ねた温もり。柔らかな吐息、震える指先、何度も確かめ合った愛。
 それらは今も、血のように流れ続けている。

 天井は高く、光は冷たい。神の意志を体現する審問官たちが、無表情に俺たちを見下ろす。並ぶ純白の翼は、まるで罪人を計る天秤のようだった。

 中央に立つのは、ウリエル。神の剣を執る、冷酷で整った顔立ちの天使。彼の視線が俺を貫いた。

「堕天使ルシファス。天使ミカエル。汝らは、神の掟に背き、情を交わし、肉体を結び、愛という名の背徳に堕ちた。この事実に、何か異議はあるか」

 まるで冷たい刃が肌をなぞるような声だった。静寂が降り、塔の内にはただ、ふたりの呼吸だけが響いていた。

 俺は、静かに顔を上げた。

「……異議はない。確かに、俺たちは愛し合った」

 それは罪と認める言葉ではなかった。ただ、真実を告げたまでだ。

 会場がざわめく。誰かが顔を背け、誰かが眉をひそめる。

 その中で、ミカエルがゆっくりと顔を上げた。

「……私もです。ルシファスを、愛しました」

 君の声は震えていた。けれど、それが嘘でないことは、誰よりもこの俺が知っている。
神の前では偽れない。それを知りながら、それでも君は真実を選んだ。

「罪と言われても、私はこの想いを否定しません。だって……それが、私なんです」

 ウリエルの眉がわずかに動く。その瞬間、ひとりの審問官が声を荒らげた。

「天使に感情など不要だ! 愛など愚かさにすぎぬ!」

 その言葉に、俺は苦く笑った。

「なら、なぜ俺たちは心を与えられた? なぜ互いに惹かれ、触れたいと思った? 感情を持つことを、誰が望んだんだ?」

 ミカエルを見やると、君はまっすぐに俺を見ていた。その瞳に宿る光は、あの夜に見たそれと同じだ。
俺の背に残る爪痕さえ、今では誇らしい。

「……私も、ルシファスと共に裁かれてください」

 その言葉に、空気が一変する。

「ミカエル……」

 君は微笑んだ。どこまでも優しく、どこまでも強く。

「君ひとりに、罪を背負わせたくない。あの夜、僕は君に触れたいと思った。祈った。求めた。……それは私の意志です」

 胸が詰まり、喉が熱くなる。

 なんて、優しい天使だろう。

「……ミカエル。お前は、まだ神を信じているのか?」

 俺は君の手をそっと握る。ふたりの手が重なり、指先が絡む。その瞬間、確かに神の視線が俺たちに降りた気がした。

 けれど、ミカエルは首を横に振った。

「信じているのは、君だ、ルシファス」

 その声に、俺の中のなにかが溶けていく。ああ、どうかこの世界が崩れても構わない――この手を離さない限り。

 沈黙が戻る。ウリエルは、氷のような瞳で俺たちを見つめた。

「その想いが罪であるならば、汝らの翼は……堕ちるだろう」

 俺たちは、ただ静かに手を繋ぎ続けた。

 たとえそれが最後の祈りだとしても。
 たとえその記憶が、裁かれる夜の夢だとしても。

 ――それでも。

「……ありがとう、ミカエル」

「私こそルシファス、君を好きになって……よかった」

 神の塔に響く、最後の鐘の音。それは罰の合図であり、同時に――俺たちの愛が真実だった証でもあった。

 白い羽が堕ちる音すら、今は美しかった。
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