『蒼い翼の約束』〜天使の恋は罪に堕ちる〜』

るみ乃。

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第2章『愛という名の罪』(少年期)

7「罪の芽、心の叫び」

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 神殿の扉が、わずかに開いた。振り返るまでもなく、その気配に気づく。
ミカエル――

「ルシファス……」
 
 その声が、深く胸を突いた。
  優しすぎて、甘すぎて、僕の孤独をそっと包みこむ。涙の痕がまだ頬に残るまま、僕はただ立ち尽くしていた。

「ルシファス、どうしたの? ……何があったの?」
  
 僕は思わず目をそらした。何もかも見透かされそうで、怖かった。

「……僕は、ただ……」
言葉にならなかった。
 
  思考が絡まって、どこからどう話せばいいのかわからない。感情があふれそうで、喉の奥で詰まってしまう。

「……言いたくないなら、無理に言わなくていいよ。でも……僕は、ルシファスの味方だよ」
 
 彼は静かに、でも確かな言葉でそう言った。胸が、ぎゅっと締めつけられる。
  
 その一言が、どれほど僕を救うのか、彼は知らない。この気持ちは、秩序を乱す感情。

神に背く、穢れた愛でも……彼の声を聞くだけで世界が光を帯びて、こんなにも温かいのなら。
 
僕は、いったい何を捨てて、何を守ればいいのだろう。

 

 祈りの間を後にして、僕たちは夜の庭園を歩いていた。満天の星が空を覆い、静寂がすべてを包みこむ。天界の夜は穏やかで、まるで何も知らぬふりをしているようだ。
 
 風がそっと金色の髪を揺らし、ミカエルの輪郭をやさしくなぞっていた。その姿が、あまりにも美しくて―― 僕は胸の内を隠すことができなかった。

「……どうして、君のことばかり考えてしまうんだろう」
思わず、ぽつりと呟いた。
 
  言うつもりじゃなかったのに、唇が勝手に動いていた。ミカエルは足を止め、僕の方を向いた。
  
その瞳が月光を映し、まるで夜の湖のように静かに揺れている。

「ルシファス……?」

  その声が、僕を罪に引きずり込むのか、それとも救うのか。
  まだわからなかった。けれど、もう抗えなかった。
  
 気づけば、僕は手を伸ばし、彼の肩に触れていた。そっと、慎重に、でも確かに。

 ミカエルは驚いたように目を見開いたけれど、拒まなかった。その静かな反応に、僕はほんの少しだけ息をついた。

「……ごめん。でも……触れたかったんだ。君に、少しでも近づきたかった。 触れることで、自分がここにいるって、感じたくて」

 感情がこぼれ落ちるようだった。それは祈りではなく、言い訳でもなく、 ただ心の底からあふれた真実だった。
 
 しばらくの沈黙のあと、ミカエルは微笑んだ。優しく、あたたかく、どこか寂しげな表情で。

「僕も、嫌じゃないよ。……君に触れられるの」

 その言葉に、胸が高鳴った。触れてはいけないと知りながら、触れてしまう。想ってはいけないと知りながら、惹かれてしまう。

  冷たく澄み渡る空気が、肌をそっと撫でていく……僕は 胸の奥をひたひたと押し寄せるざわめきに、何度も言い聞かせる。

『これは、罪じゃない——僕は……君を愛しているんだ』

 心の中で何度も繰り返す 神の掟に背き、禁じられた君へ想い。言葉にすればするほど、その言葉の重さに押しつぶされそうになる。


 でも、この想いだけは隠せなかった。どれほど神に背いていようとも、誰がどう思おうとも、僕の心は君を求めていた。どんなに怖くても、どんなに罰が待っていようとも。

「この気持ちを隠すことなんて、もうできない」

 小さくそう呟くと、夜空に煌めく星の光が一筋、僕の胸に差し込んだ気がした。それはまるで、僕の罪深い想いを祝福するかのように優しい光だった。
 
 僕の罪は、君を愛すること……自由の種。
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