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第2章『愛という名の罪』(少年期)
9 「異端の囁きと、祝福の光」
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天界の空は、まるでこの日のために磨かれたかのように澄みきっていた。
その中心に立つのは、金と銀の天の鎧を纏い、光の剣を授かる儀式を迎えたミカエル。
清めの鐘が高らかに鳴り響くたび、空から舞い降りる光の粒が彼を包み、
まるで神そのもののように神聖さを帯びていく。
銀を基調とした鎧には神の印が刻まれ、細やかな金の装飾が淡く反射して、君の輪郭をやさしく縁取っていた。
真白な翼を広げ、祈りを捧げるその姿は、誰よりも尊く、美しかった。
僕は回廊の陰に身を潜め、言葉もなく、その光景を見つめていた。
――やっぱり、君は……美しい。
まっすぐで、誰よりも清らかなまなざしで、神に忠を誓う姿に、誰もが敬意を抱いた。
……僕を除いて。
「美しいね。あれが君の“想い人”かい?……君の目に映る彼は、“光”そのものだろう?」
後方の柱の陰に、風のように現れたひとりの天使。
静かな声に振り返ると、そこには見知らぬ天使が立っていた。
灰色の外套に身を包み、性別も年齢も判別しがたい中性的な雰囲気を纏っている。
「……誰?」
「アムリス。かつて、この天界で“愛”という名の罪に触れ、罰として記録から消された天使だ」
彼は、愛したことで裁かれ、追放寸前まで追い詰められた異端の天使。
「君もまた、“愛”を知ってしまったのだろう?」
その問いかけに、僕の心臓が跳ねた。
見透かされていた。
ミカエルに触れたいと願った夜も、教義の合間に彼の名を記した記録も――すべて。
「でも、忘れるな。愛は罰ではない。
たとえ神がそれを罪と呼んでも、心が選んだ光は、誰にも否定できない」
沈黙が降りた。
どこまでも荘厳な祝福の音楽が神殿を満たし、ミカエルの周囲に聖なる光が降り注ぐ。
「君は、危ういね。光に近づきすぎた者の目をしている。……それは、神への忠ではないだろう?」
「僕は……そんなつもりでは——」
「つもり、じゃないんだ」
アムリスは笑った。
穏やかで、どこか寂しく、どこまでも優しい笑みだった。
「“愛してはいけない”と教えられてきた。でも……それは本当かい?
心がふるえるのは、誰かを想っている証だろう?
君の心は今、あの光に震えている。……その意味を、誤魔化しちゃいけない」
祝福の儀が進む。
神の声が響き、君の額に光が宿る。
祝福される者と、見つめる者。
僕たちふたりの距離は、まるで天と地のように隔たっていた。
「アムリス、あなたは……後悔していないのですか? 罰を受け、記録から消されてまで……」
僕の声は震えていた。
それが恐れからか、それとも希望からか、自分でもわからなかった。
「後悔? するわけないさ」
アムリスは、まるで昔語りのように言った。
「愛した日々は、光だったよ。
裁かれたその瞬間でさえ、僕は幸福だった。
……あのひとを想う時間を、何度も繰り返してもいいと思えるくらいに」
静寂が、僕たちを包んだ。
遠くで、ミカエルが神にひざまずく音が響く。
「君の愛が罪であるかどうか、答えをくれるのは神じゃない。君自身さ。
君のまなざしが、それを決める」
僕は瞳を伏せた。
胸の奥に灯る、ひとつの問い。
――僕の想いは、罪なのか。
それとも、赦されぬ愛のかたちなのか。
アムリスは、ひとつだけ問い返した。
「ねえ……それでも、君は“愛さず”にいられる?」
その問いに、答える言葉を持たないまま。
僕はただ、光の中のミカエルを見つめ続けた。
言葉にできない想いが、胸の奥で熱を帯びていく。
その熱が、いずれ僕の運命を灼きつくすと知っていても――。
その中心に立つのは、金と銀の天の鎧を纏い、光の剣を授かる儀式を迎えたミカエル。
清めの鐘が高らかに鳴り響くたび、空から舞い降りる光の粒が彼を包み、
まるで神そのもののように神聖さを帯びていく。
銀を基調とした鎧には神の印が刻まれ、細やかな金の装飾が淡く反射して、君の輪郭をやさしく縁取っていた。
真白な翼を広げ、祈りを捧げるその姿は、誰よりも尊く、美しかった。
僕は回廊の陰に身を潜め、言葉もなく、その光景を見つめていた。
――やっぱり、君は……美しい。
まっすぐで、誰よりも清らかなまなざしで、神に忠を誓う姿に、誰もが敬意を抱いた。
……僕を除いて。
「美しいね。あれが君の“想い人”かい?……君の目に映る彼は、“光”そのものだろう?」
後方の柱の陰に、風のように現れたひとりの天使。
静かな声に振り返ると、そこには見知らぬ天使が立っていた。
灰色の外套に身を包み、性別も年齢も判別しがたい中性的な雰囲気を纏っている。
「……誰?」
「アムリス。かつて、この天界で“愛”という名の罪に触れ、罰として記録から消された天使だ」
彼は、愛したことで裁かれ、追放寸前まで追い詰められた異端の天使。
「君もまた、“愛”を知ってしまったのだろう?」
その問いかけに、僕の心臓が跳ねた。
見透かされていた。
ミカエルに触れたいと願った夜も、教義の合間に彼の名を記した記録も――すべて。
「でも、忘れるな。愛は罰ではない。
たとえ神がそれを罪と呼んでも、心が選んだ光は、誰にも否定できない」
沈黙が降りた。
どこまでも荘厳な祝福の音楽が神殿を満たし、ミカエルの周囲に聖なる光が降り注ぐ。
「君は、危ういね。光に近づきすぎた者の目をしている。……それは、神への忠ではないだろう?」
「僕は……そんなつもりでは——」
「つもり、じゃないんだ」
アムリスは笑った。
穏やかで、どこか寂しく、どこまでも優しい笑みだった。
「“愛してはいけない”と教えられてきた。でも……それは本当かい?
心がふるえるのは、誰かを想っている証だろう?
君の心は今、あの光に震えている。……その意味を、誤魔化しちゃいけない」
祝福の儀が進む。
神の声が響き、君の額に光が宿る。
祝福される者と、見つめる者。
僕たちふたりの距離は、まるで天と地のように隔たっていた。
「アムリス、あなたは……後悔していないのですか? 罰を受け、記録から消されてまで……」
僕の声は震えていた。
それが恐れからか、それとも希望からか、自分でもわからなかった。
「後悔? するわけないさ」
アムリスは、まるで昔語りのように言った。
「愛した日々は、光だったよ。
裁かれたその瞬間でさえ、僕は幸福だった。
……あのひとを想う時間を、何度も繰り返してもいいと思えるくらいに」
静寂が、僕たちを包んだ。
遠くで、ミカエルが神にひざまずく音が響く。
「君の愛が罪であるかどうか、答えをくれるのは神じゃない。君自身さ。
君のまなざしが、それを決める」
僕は瞳を伏せた。
胸の奥に灯る、ひとつの問い。
――僕の想いは、罪なのか。
それとも、赦されぬ愛のかたちなのか。
アムリスは、ひとつだけ問い返した。
「ねえ……それでも、君は“愛さず”にいられる?」
その問いに、答える言葉を持たないまま。
僕はただ、光の中のミカエルを見つめ続けた。
言葉にできない想いが、胸の奥で熱を帯びていく。
その熱が、いずれ僕の運命を灼きつくすと知っていても――。
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