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第3章『天の剣、地の声』(青年期)
10「反逆の兆し」
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天界の空は今日も、どこまでも透き通っていた。
けれど、その美しさがかえって、俺の胸をひりつかせる。
神殿の外れにある静かな広場。
ここでは今、数人の天使たちが羽を伏せ、声を潜めて集まっている。
皆、顔には不安の色を浮かべながらも、互いに近づき、同じひとつの疑問を胸に抱えていた。
「……感情は、悪じゃない」
俺の声が空気を震わせる。
その瞬間、場の空気がぴんと張り詰めた。
「神の秩序のもと、俺たちは守られてきた。それは確かに、事実だ。
でも……それだけで、本当に俺たちは“生きている”と言えるの?」
言葉は慎重に選んだつもりだった。けれど、胸の奥からあふれる想いは、もう抑えられなかった。
「誰かを想う気持ち。
優しさ、憧れ、恋しさや痛み……。
それを否定されるために、俺たちは生まれてきたのか?」
沈黙の中、ぽつりと、ベルゼブが口を開いた。
「…僕の手作りのお菓子、また食べたいって言われたとき、嬉しかった。胸が熱くなったんだ。
あれって、“暴食”なんかじゃないよね。誰かと“美味しい”を分かち合いたかっただけなのに」
彼の声は震えていた。
ふるえる羽が、その想いの深さを物語っていた。
「……そうだな」
俺はそっと目を閉じる。
胸の奥に浮かぶ、君の姿。
ミカエル。
凛とした佇まい、まっすぐな瞳、ふとした笑みに僕の世界は揺れる。
彼の存在だけで、胸が熱くなる。
それが、どうして罪だなんて言えるんだろう。
「でも……神は、それを許さない」
重く低い声を落としたのは、アゼルだった。
「最近、書庫の一部が封印された。“個”を尊ぶ思想や、かつて愛を語った天使の記録が、静かに――消されはじめてる。まるで、それらが最初から“なかったこと”みたいに」
僕は息を呑んだ。
それは情報の抹消なんかじゃない。
感情を、生きた証を、存在そのものを“否定”する行為だ。
「……記録が消えても、僕たちの心まで消せるわけじゃない」
想わず、そう呟いていた。
ミカエルと過ごした時間。ふと触れた手のぬくもり。名前を呼ばれたときの声。
その一つひとつが、俺の中で確かに息づいている。
「“愛してはいけない”なんて……誰が決めた?」
答えはわかってる。
神だ。神の定めた法と秩序。
だけど――それが本当に、“正しさ”なんだろうか。
「俺はもう……戻れない」
あの空虚で冷たい秩序のなかで、何も感じないふりをして生きることなんてできない。
誰かを想うこと。
その人の幸せを願い、自分の心が揺れること。
それは、こんなにも温かく、こんなにも切ない。
「……ミカエルを想うたびに、胸が苦しくなる。
なのに、それが幸福で、涙が出そうになる。
この気持ちが“罪”だというなら、僕は――その罪を、喜んで選ぶよ」
俺の声は、もう震えていなかった。
それは“迷い”ではなく、“誇り”だった。
しんとした空気のなかで、ベルゼブが小さく微笑んだ。
「……なんかさ、それって、すっごく、きれいだね」
俺は彼に、ほんの少しだけ笑い返した。
静かに、でも確かに――風が、吹きはじめていた。
感情を持つこと。誰かを想うこと。
それを“誇り”に変えようとする、まだ小さな“反逆”の芽。
それはまだ、かすかなさざ波にすぎない。
けれど、きっと。
それはいつか、空を揺るがす大きな“波”になる。
俺は、信じている。
天の光に背を向けてもいい。
俺は、俺の心を守る。
たとえこの想いが、どんな結末をもたらしても。
俺は――愛する者のために、立ち上がる。
ミカエル。
君を想う、この気持ちだけは――誰にも、何にも、奪わせない。
けれど、その美しさがかえって、俺の胸をひりつかせる。
神殿の外れにある静かな広場。
ここでは今、数人の天使たちが羽を伏せ、声を潜めて集まっている。
皆、顔には不安の色を浮かべながらも、互いに近づき、同じひとつの疑問を胸に抱えていた。
「……感情は、悪じゃない」
俺の声が空気を震わせる。
その瞬間、場の空気がぴんと張り詰めた。
「神の秩序のもと、俺たちは守られてきた。それは確かに、事実だ。
でも……それだけで、本当に俺たちは“生きている”と言えるの?」
言葉は慎重に選んだつもりだった。けれど、胸の奥からあふれる想いは、もう抑えられなかった。
「誰かを想う気持ち。
優しさ、憧れ、恋しさや痛み……。
それを否定されるために、俺たちは生まれてきたのか?」
沈黙の中、ぽつりと、ベルゼブが口を開いた。
「…僕の手作りのお菓子、また食べたいって言われたとき、嬉しかった。胸が熱くなったんだ。
あれって、“暴食”なんかじゃないよね。誰かと“美味しい”を分かち合いたかっただけなのに」
彼の声は震えていた。
ふるえる羽が、その想いの深さを物語っていた。
「……そうだな」
俺はそっと目を閉じる。
胸の奥に浮かぶ、君の姿。
ミカエル。
凛とした佇まい、まっすぐな瞳、ふとした笑みに僕の世界は揺れる。
彼の存在だけで、胸が熱くなる。
それが、どうして罪だなんて言えるんだろう。
「でも……神は、それを許さない」
重く低い声を落としたのは、アゼルだった。
「最近、書庫の一部が封印された。“個”を尊ぶ思想や、かつて愛を語った天使の記録が、静かに――消されはじめてる。まるで、それらが最初から“なかったこと”みたいに」
僕は息を呑んだ。
それは情報の抹消なんかじゃない。
感情を、生きた証を、存在そのものを“否定”する行為だ。
「……記録が消えても、僕たちの心まで消せるわけじゃない」
想わず、そう呟いていた。
ミカエルと過ごした時間。ふと触れた手のぬくもり。名前を呼ばれたときの声。
その一つひとつが、俺の中で確かに息づいている。
「“愛してはいけない”なんて……誰が決めた?」
答えはわかってる。
神だ。神の定めた法と秩序。
だけど――それが本当に、“正しさ”なんだろうか。
「俺はもう……戻れない」
あの空虚で冷たい秩序のなかで、何も感じないふりをして生きることなんてできない。
誰かを想うこと。
その人の幸せを願い、自分の心が揺れること。
それは、こんなにも温かく、こんなにも切ない。
「……ミカエルを想うたびに、胸が苦しくなる。
なのに、それが幸福で、涙が出そうになる。
この気持ちが“罪”だというなら、僕は――その罪を、喜んで選ぶよ」
俺の声は、もう震えていなかった。
それは“迷い”ではなく、“誇り”だった。
しんとした空気のなかで、ベルゼブが小さく微笑んだ。
「……なんかさ、それって、すっごく、きれいだね」
俺は彼に、ほんの少しだけ笑い返した。
静かに、でも確かに――風が、吹きはじめていた。
感情を持つこと。誰かを想うこと。
それを“誇り”に変えようとする、まだ小さな“反逆”の芽。
それはまだ、かすかなさざ波にすぎない。
けれど、きっと。
それはいつか、空を揺るがす大きな“波”になる。
俺は、信じている。
天の光に背を向けてもいい。
俺は、俺の心を守る。
たとえこの想いが、どんな結末をもたらしても。
俺は――愛する者のために、立ち上がる。
ミカエル。
君を想う、この気持ちだけは――誰にも、何にも、奪わせない。
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