上 下
158 / 232
【閑話】きりかぶの上で(ラファ×ギル)

(2)

しおりを挟む
「ほら、だったら聞かせてください。彼はいったい何なんですか? あなた、この前も手を出そうとしてましたよね? ……出そうっていうか、多少出してましたけど……」
「……知らね」
「知らない? どういうことですか?」

 ふいと視線を逸らしたギルベルトの態度に、ラファエルはぱちりと瞬いた。

「知らねぇもんは知らねぇんだよ。俺はただ、あいつから出る匂いに……」
「匂い……。さっきも言ってましたね」
「つーか、お前だって前の……、アンリの家に来た時、その匂い辿ってきたんじゃなかったのかよ」
「違いますよ。あれはあなたのことを見かけたって知り合いに聞いたから……」

 ストーカーか!!

 ギルベルトはとっさに言いかけた言葉を飲み込んだ。
 ここで……こんな状況で、これ以上下手なことは言わない方がいい。
 さっきお気に入りの服を容赦なく破られたことを思い出し、多少学習したらしいギルベルトは口を噤んだ。

 ……のわりに、迂闊なところは変わりなく、

「でもまぁ、多分あれだ。あいつ、淫魔なんだよ。お前に効かないってので今分かった」
「淫魔?」
「だから、俺様は悪くない」

 次には開き直ったようにしゃあしゃあと口にして、ラファエルの眉を僅かに顰めさせる。

「どういうことです?」
「そういう匂いを出して誘ってくんだよ。で、誘われたら基本あらがえねぇの。特に悪魔は」

「……なるほど。そういうことでしたか」

 ラファエルは納得したように頷いた。
 どこか感心したように息をつくと、ギルベルトを抑え込んでいた腕の力が僅かに緩む。

「!」

 その瞬間、待っていたようにギルベルトが身体を跳ね起こそうとする。
 けれども、直後には再び組み伏せられて、今度は切り株の表面に軽く額までぶつけてしまった。

「いって……! てめっ、くそ、離せよ! 話はもう終わっただろ!!」

 喚くように声を上げても、誰の耳にも届かない。近場にはもう誰もいない。もはや誰も助けてはくれない。
 ぎり、と骨が軋むほど強く腕を押さえられ、足は両膝を地面につかされているため、踏ん張ることすらろくにできない。

「――それでこんな……」
「……は?」

 それでも何とか足掻あがこうとするギルベルトの背後で、ラファエルはすっと目を細める。それからゆっくりと身を屈め、ギルベルトの背中にそっと上体を重ねた。

「ねぇ、ギル。気付いてます?」

 ぎくりと動きを止めたギルベルトの耳元で、ラファエルは知らしめるように囁いた。

「あなたのここ、ずっと――」

 かたわら、ラファエルは不意打ちのように、他方の手でギルベルトの下腹部をなぞった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

BL / 連載中 24h.ポイント:10,502pt お気に入り:1,076

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:837pt お気に入り:2,473

【異種BL】/NTERSEⓒT -淡紫の花-【獅子×青年】

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:94

生涯においてただ一度の恋だった。

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:39

異世界最強の癒しの手になりました(仮)

BL / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:2,482

処理中です...