この現代にリアルファンタジー持ち込むな。

うなきのこ

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吸血鬼に世話をされる

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「おかえりなさい幹彦さん。今日は遅かったですね。お腹すいたでしょう?ご飯大盛りにしておきました」
「お、今日はチキン南蛮か!お前の作る南蛮ダレって店で食べるのとは全然違うよな。おれはお前の作るやつの方が好き」
 机の上にほかほかの食事が置かれてゆき、いい匂いに腹がなった。
「ふふふふ。気に入って頂けているのなら何よりです」


 吸血鬼との邂逅から半年が経った。
 俺の胃はすっかり吸血鬼こいつに掴まれ、今や外食も職場の付き合い以外ではほぼしない。飯が美味すぎる。
 早世した妻の料理も美味しかったが引けを取らない程の美味さに毎日の食事が待ち遠しい。

 毎日ウキウキで、ていうのも恥ずかしいが早々と帰るものだから、上司には「付き合いが悪くなったな。やっと彼女でもできたか」なんてよくからかわれる。

 バランスのいい食事は健康にいいのだと気付かされたのは日々のちょっとした事で実感している。ものを拾うのにも「よっこらしょ」なんて口をついていたのが言わなくなったし、階段もきつくなく、仕事の効率も上がってしまった。仕事に関しては数ヶ月前に上司が変わったからかギリギリグレーだった職場がグレーになったおかげもあるだろうが。
 何はともあれ悪くなることがない事に感心した。世の中に「健康的な生活には健康な食事!そこで健康をサポートするために青汁を……」だとかよく見るがあれはあながち間違いでもないのかもしれないな。
 野菜を摂れとうるさい吸血鬼も青汁を勧めてくるくらいだ。昔、母さんの飲んでいた青汁を飲んでみた時に吐くほど不味くてトラウマになった。吸血鬼にしっかり伝えたら「そうですか。それなら仕方ないですね」てまたもすぐ引き下がったが代わりに野菜の量が増えた。
 青汁よりはマシだった。


 食事を終え缶チューハイ片手にソファーに移動する。食事中より食後に酒を飲みたい派だ。
 健康的な食事というものを提示されてから、もしかして酒は飲めなくなるのかと思い聞いてみたら吸血鬼的には酒は飲んでも構わないらしい。少しスパイシーな血になるだけなんだと。
「今日はどこにバイトに行ってきたんだ?」

「すぐそこのコンビニです。ここはサラリーマンの方が多いからですかね。直ぐに買い物が終わるように皆さん買うものがだいたい固定されてるみたいで面白いです」

「サラリーマンも常連だしお前もバイト常連だもんな。目的は違うが」

 こいつは出会う以前から日雇いバイトをして渡り歩いていてるらしい。気に入ったところにはよく顔を出し、仕事ぶりが丁寧だと褒めてもらえてそれも楽しいんだと。

「人間観察は私の娯楽ですからね。コンビニやスーパーのアルバイトが1番色んな方に出会えて楽しいですよ」

「あ、そ。長生きしてて一番の楽しみが人間観察って人間全員がペットみてぇだ」

「一番の楽しみは人間観察ではなくて幹彦さんのような人を一から育てることですよ」
「っ、押し倒すな。それに育てられたつもりはねぇ」
「でもだいぶ……ん、味が変わりましたね?芳醇な香りと旨みが出てきて美味しいです」
「っ、は……ンッ」
 首筋を噛まれ血を吸われ背筋がビリッとする。

 こいつと生活するようになって1ヶ月がたった頃に味見と称して喰われ、「美味しいですがまだまだですねぇ」だなんて言うもんだからなんかちとカチンと来て。「だったらちゃんと俺の血がうめぇってなるまで飯作れ!(ご飯が美味すぎる)」と、売り言葉に買い言葉。同居の許可をしてしまった。
 あんな大声出したのはヤンキーしてた時以来だった。

 なんであんなこと言ったのか。いや、だから売り言葉に買い言葉だったんだがな。
 ただ本当に飯は美味いし血も貧血になるほど飲まれるわけじゃないからまぁいいか、なんて近頃。
 毒されてんなぁ……。

「あぁっ、ぅん、くそ……んんッ!」
 ちなみに、言わせてもらいたいのだが喘いでしまうのは俺の意思ではない。
 ぢゅうぢゅうと聞こえる音に肌が勝手に粟立ってくるが仕方ないんだ。

「噛む時に痛くないよう最初だけ即効性の分泌液出してますけど…それだけですよ?」

 念押しするこの男が憎らしい。

 初めて吸血された時に気持ち良す…や、混乱して思いっきし殴ってどういう原理かと問い詰めた。そうしたら微量の催淫効果のある分泌液を出していると言ってきた。不快だからやめろと言えば反省したようで調節すると言って引き下がった。
 血液摂取を長期行っていないとさすがに吸血鬼も死ぬことがあるらしい。だから早々に引き下がったのだろう。


 ざり、と傷口を舐め上げ吸血終了の合図がするとのしかかっていた身体が離れる。

「…は、……は…」

 吸血が終わると心做しかこいつの肌ツヤが良くなる。イケメンがさらに若々しいイケメンに。ムカついてくる。
 数分たっても未だ興奮気味の俺はソファーで熱が鎮まるのを待った。


「ふぅ……何回されても慣れねぇな…」

「吸血行為だけでここまで気持ちよさそうに喘ぐのは幹彦さんだけでしたからね……最初の少量だけでもソレとなるとそもそも薬に耐性がない体質なんでしょうけど。
幹彦さん、そろそろ試したいことがあるのですが」

「なんだ」

「キスしてもよろしいですか」

「良くない。」
 いいわけあるかよ。飯食わせてもらう、吸血される。そんな関係であって恋人な訳では無いのに何言ってんだこいつ。

「試したいってなんだ」

「薬が効きづらいだけではなく快楽や刺激にも弱いのかなって思いまして。ですのでキスしてみませんか?」

「そうだったとしてわざわざお前とする意味がわからん。」

 ずずいっと距離を縮められ俺はソファーの端へ後退る。

「きっと気持ちいいですよ?幹彦さん、私が傷口舐めると吸血されている時より可愛らしい声していますし、口の中舐めあげたらさらに快楽を感じられるかもしれません」
「っ!!ば、は!?!」

「自覚があるのでしょう?キスしてみませんか」

 口をぱかりと開けると牙と真っ赤な舌が現れる。俺はそれに釘付けになっていた。
 確かに昔から刺激に弱いのは自覚していたが女性とキスをしてもセックスをしてもこんなに頭がとろけるくらい気持ちよくなることは無かった。
 妻が早世してしまってから一切そういうことをしていない。もしかしたら、あまりに生活に刺激が無さすぎて久々の快楽に過剰反応しているのかもしれない。

しばらくそういった触れ合いもなかったしと興味が湧いた。

「……きす、だけだぞ」

 今まで男とキスなんてしたことなかったからそこに興奮しているのかもしれないと誰にともなく言い訳をした。

 目を逸らして許可したがあいつがすんごい笑顔で返事をしたような気がする。
「幹彦さん、こっち向いてください。」

「う、なんて顔してるんだ!なんなんだその顔は!」

 笑顔どころか溶けた顔してる男に顔が火照ったのを感じた。


 吸血中に反応してしまう恥ずかしさに耐えられず直ぐに別のことを考えてしまう自覚はあるのだが、それもこの実験的キスで少しは矯正されて欲しい。
 だいたい半年経つのに未だに吸血時のアレに耐えられないのもおかしいだろう。やはり分泌液を流しているんじゃ…。

 軽く唇が触れるだけのキスから始まって次第に唇を啄むように嬲られる。しばらく可愛らしいちゅっちゅっと言う音だけが響いてなんとも面映ゆくてこちらからかぶりつくようなキスを仕掛けた。
 するとすぐにこたえて舌先で歯列をなぞられくすぐったくて歯が浮いた所を割入ってくる。
 縦横無尽に蠢く舌にびっくりはしたが案外嫌な気がしない。

 ぢゅく、と口端から音が漏れた。

 上顎を舐められ舌もなぞられるとぞわぞわとした。
 血を吸われている時に感じるあれと同じ。

「あふ、あっ、んふぅ…ん、」

 キスされてるだけだと言うのに声が抑えられないんだが。

「こぇ…ほんとに、ぅん、薬つか、て、ない?」

「ふふ、…使って、ませんよ…ふ、」

 うそだろ。気持ちよすぎていつの間にか勃ってるんだぞ。
 こいつの舌どうなってるんだ。

「ん!?ヴンンッ!!」
 不意にこりっと軽く噛まれてイッてしまった。うそだろう。

「…ぁ、」

 ビクビクと震える身体を抑えられてさらに深く激しく口付けられる。

「ま、まへ……ぁう、うぅうん!は、はっん」

 やばいぞこれは。

「ふ、ん、…すと、ストップ!やめ、んん」

「……ん、なんでしょう?」
 口を離し顎を伝い落ちる唾液を拭いながら無駄に色気がある目を向けられてドキリとする。

「気持ちよすぎましたか」

 今度は別の意味でドキリとした。恥ずかしいことに図星だったからだ。気持ちよすぎて意識が飛びかけてしまったから全力で止めた。

「……気づいてるだろ。パンツかえてくる。寝る。」

「…分かりました。おやすみなさい、幹彦さん」

 額に軽くおやすみのキスをすると、のしかかっていた身体を起こしリビングを出ていった。



「俺もしかしてゲイだったのか……?」
 着替え終わりベッドへ潜ってひとりごちる。
 今まで女性と付き合ったことは何回かあるし妻ともセックスレスになったことはなかった。
 ゲイというよりバイ・セクシャルなのだろうか。
 キスだけでイッたことは今まで1度もないのに。

 男と初めてキスしたから。初めての体験に興奮しているだけ。吸血中に気持ちよくなるのも今までそんなところ触られたことがなかったから。

「久々の刺激に敏感になっているだけだ……」
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