神の宿り木~旅の途中~ジン~番外編~

ゆう

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リーンの過去

「獣人族の噛みあとは、群れの通行手形」と、何故言うようになったかの話

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「獣人族の噛みあとは、群れの通行手形のようなものなんだ…。身の安全をリーダーが保証する…」
 あまり詳しく言いたくないけど…。
「アレが無いと、群れの中で所有権を巡って、争いが起きるから…」
 一度、大変な事になって、死にそうになった。
 魔法を封じられ、魔力だけ奪われ、その群れのリーダーに助けられるまで…。


 その頃は、まだ、育った森からあまり外には出た事がなかった。
 いつも精霊や獣人が出入りしていて、皆とても優しく、「外に出る時は、警戒する」と言う事が、よく分かっていなかった。

 その日は、森の隣にある獣人達が住む町に向かった。
 いつも来る豹の獣人が住む町で、半日もあればたどり着いていた。
 側には、小風がふわふわ付いてきていた。
 風が気持ちよく、程よい木陰が眠気を誘う。
 少し休憩。と、側の木に寄りかかり眠ってしまった。
 この時、ちゃんと自衛すれば良かったのに、何もせず眠ってしまった自分も悪かったのだ。
 
 気が付くと、森の中でなく山小屋のような場所に居た。
 身体を起こし辺りを見回す。
 …誰もいない。
 でも、何でここに居るのかが分からなかった。
「風霊」
 返事がない。
 リーンは首を傾げてもう一度よぶ。
 迷子になった時、いつもは直ぐにやって来て、道案内をしてくれるのに…。
「風霊?」
「目が覚めたか」
 そう言って山小屋に入ってきたのは、金茶色の髪の若い豹の獣人。
 体格もよく瞬発力が、ありそうだ。
 だが何故こんな所に?
「何故、人族がこのエリアに居る?」
「人族ではない」
 自分ても良く分からないが、短命の人族ではないのは確か。
「人族ではない?獣人みたいに耳も尻尾無いだろ!」
「でも、違う!。風霊!」
 何度、呼んでも返事がない。
「ああ。魔法は封じさせてもらった。何を使われるか分からなかったからな」
「…。」
 だから呼んでも、伝わらない。
 獣人はゆっくりと近付いてきて、顎をつかむ。
「つっ…。」
 なんだか怖い。この獣人…。
「人族はまだ、味わった事がない…」
 そう言って、首筋に噛みついてきた。
「…!!」
 首筋に食い込む牙の痛みと、恐怖と、血が流れていくのを感じて涙が溢れてきた。
 知っている獣人たちは、こんなに怖くなかった。
 このまま、食い殺されるんだ…。
 何故かそんな風に感じた。が、首筋から牙が抜かれた。
 血がいっそう溢れ出す。
 それをぴちゃぴちゃと舐め出したのだ。
「お前の血。魔力を含んで甘い…。」
 力が…抜ける…。
「…。」
 出血が多かったのか、目の前が真っ暗になって意識を失った。

 ふと、意識が戻るとそこには獣人が三人居た。
 何か言い争っているが、もうろうとしていて、頭に入ってこない。
 身体が重い…。
 一人の獣人が近付いてきて、口を開けさせられ何か飲まされた。
「…。」
 焦点が合わない…。
「…殺さないように…飼うんだ。」
 そんな風に聞こえた。
「血液まで魔力を含んでいるなど、なかなか居ないぞ」
「人族は皆、そうなのか?」
 なんの話をして居るのかがわからない。
「お前の言うことが本当なのか、味見させろ」
 獣人が近付いてきて腕が持ち上げられ、手首に噛みついた。
「つっ…。」
 痛い…。
「あぁ。本当に…甘い…」
 ぴちゃぴちゃと舐める音が響く。
 もう片方の腕も持ち上げられ、手首に痛みが走った。
 焦点の合わない深い緑の瞳から涙が溢れる。
「あぁ。これは病み付きになりそうだ。止めどきが難しい…」
「…殺すなよ。こいつは良い魔力供給源だ」
「…。」
 殺されはしないみたいだが、飼い殺しになりそうだ…。
 誰か…気付いて…。

 どれだけの時間が経ったのかわからない。
 時折、獣人が来て腕や足に噛みつき、魔力を含む血液が舐め取られた。
 下の世話は抱えられ、獣人の目の前でさせられ、食事は流動食を口に流し込まれた。
 身体に力が入らない…。
 小屋が目隠しされているのか、風が動かない。
 外に出れば、もしかして風霊が見つけてくれるかもしれない…。
 ほんの少しの希望を持ちつつ、魔力を含んだ血液を舐め取られていった。

 獣人達が喧嘩をしていた。
「俺が最初に見つけたんだ!俺のモノだ!」
「勝手に連れ出そうとするな!」
「見つかったらどうする!」
「…。」
 何か言っているが、思考がぼやけてきている。
 やっぱり、このまま死を…向かえるのかな…。
 衰弱しているのは確か…。
 このまま誰にも見つけてもらえなければ、きっとそうなる…。
 入り口の戸が、開いたままになっていた。
 三人はこちらに気付いていない。
 重い身体を引きずって、入り口から外に出た。
 森の中の木々に埋もれた、目立たない山小屋。
 これでは見つけてもらえないな…。
 それでも、山小屋から少しでも離れるように、ふらふらと歩き、力尽き倒れた。
「…風…霊…」
 最後の力を振り絞り、そう呼ぶと意識を失った。


 目が覚めると、ベッドに寝かされていた。
「…。」
「リーン!」
 そこに居たのは、いつも来ていた豹の獣人、ヒイロ。
「良かった。目を覚めして…」
「…ヒイロ…。…ヒイロ…。…ヒイ…ロ…」
 見知った顔を見て、安心したのか涙が溢れてきた。
「…ヒイロ…」
「怖かったよな。もう、大丈夫だから…」
 そう言って、リーンを抱き締めてくる。
「魔力も身体も、衰弱しすぎてる。ここで傷を治してから帰ろうな」
「うん…。…ごめんなさい…。…魔法が…使えなくて…風霊も…呼べなくて…帰れなくて…」
「ああ、分かったよ。…もう少し、眠ろうな…。起きたらチイのアップルパイ、食べような」
「うん。お休み…」
 そう言って、再び眠りについた。


 彼らに噛まれた痕は、なかなか治らなかった。
 まだ、魔法が封じられていて、回復治療が効かないからだ。
 それでも、起き上がって、自分で食事が出来るようにはなった。
「封じられた魔法を解除出来るようになったからな」
 ヒイロがそう言ってきた。
「…。でも、ここではダメ。多分…家を壊してしまう…」
「…魔力の暴走か…」
 リーンは頷いた。
「制御出来ない…気がする…」
「…。」
 やっと慣れて、森の外に出かけれるようになったのだが、不安でしかない。
「外…。誰も…近付かない…場所がいい…」
「分かった。森の中に開けた場所がある。そこに行こう」
 ヒイロとチイと、彼等の副官に連れられ、森の開けた場所に『移動』した。
 リーンが大地に寝かせられ、ヒイロによって、封じられた魔法を『解除』された。
「…離れて…。…止められない…」
 横たわるリーンの周りに大地から枝が伸びてきて、リーンを外界から守るように包む。
 姿が見えなくなるまで包まれると、周囲に薔薇のツルがうねるように纏わりつき、全ての侵入を拒む。
「…。」
 さらに、小さな竜巻が起き、誰も近付けなくしてしまう。
「…。」
 ヒイロ達は少し距離を取りながら、様子を見ていた。
「ヒイロさん達が、あの子の事を外に出したくない理由が分かりましたよ」
 一緒に来ていた副官のホムラが、ため息をついて言う。
「魔力が強すぎる…」
「…。今回みたいな事がなければ、だいぶん制御出来るようになったんだぜ」
「その分、身体の成長が止まっちゃったのよね~」
 チイがため息をつく。

 チイは珍しい女性の獣人でヒイロのつがいだ。
 金色の長い髪がリーンの作り出す竜巻に煽られて、ふわふわと揺れる。
「あとは、純粋過ぎる」
「そうなのよ。いけないこと教えても、素直に受け止めちゃって、けがれないのよ」
 チイはリーンが可愛くて、仕方がない。
 耳と尻尾は無いが、自分の姿に近いため近親感がある事と、人族の中で人族に擬態し、生活していたから馴染みがあるのかもしれない。
「…。様子を見るように、誰か一人は付けておいてくれ」
「了解。で、あいつらどうするんだ?」
 ホムラが聞いてくる。
 リーンを閉じ込めた奴等のことだ。
「リーンが、戻ってきたら決める。そのまま、地下に入れておけ」


「制御出来るようになったけど、魔力を閉じ込められなくなった」
 三日後。噛みつかれた痕もなくなり、木の防護壁から出てきたリーンがそう言った。
「…。」
 このまま町に連れて行くと、魔力の磁場で周りが制御不能になってしまう。
「…ヒイロ。…どうしよう」
 涙めになったリーンが不安そうにこっちを見ている。
 まだ、早いと思ったが『魔力の相殺』で、押さえるか?
 それとも『魔力のきずな』で、獣人族の噛みあとを付け、誰にも手出し出来ないように、してしまうか…。
「チイ。どうする」
「『魔力の絆』で、噛み痕付けて、群れの通行手形にしましょう。この子の後ろには、私達がいるって分からせる為に…。奪い合いにならないように…」
「リーンには悪いが、その方法が丸く収まる。かな…」
 ヒイロは苦笑いして、テントを準備させる。
 さすがに外で、人前で『魔力の絆』、魔力の籠った体液を飲ませて身体に馴染ませ、所有の印である噛み痕を付けるわけにはいかない。
 自分達のテリトリーとはいえ無防備になってしまう。
 移動用のテントは直ぐに組み立てられ、ヒイロとチイはリーンを連れて中に入った。
 外にはホムラが護衛に立ち、誰も近付けないようにテントの周りに壁を作った。

 テントの中は大人が三人くらい余裕で横になれる大きさで、分厚い絨毯が敷かれクッションや毛布などが置かれていた。
 靴を脱ぎ、絨毯の上に上がるとヒイロが涙目のリーンに説明してきた。
「リーン。『魔力の絆』で、噛み痕を付け、誰にも手出し出来ないようにする。これは、効果がずっとあるわけではない。その都度、噛み痕を付けてもらって、群れでの安全を保証してもらうモノだ」
「本当はね、リーンの色白い肌に噛み痕なんて付けたくない。でも、分かるよね。しばらくの間だけでも魔力を抑えられないと、森にも帰れない…」
 リーンは頷く。
 ヒイロがテントの中心に胡座をかいて座りリーンを呼ぶ。
「おいで、体液の交換だ」
 リーンはヒイロの膝に乗り、口付け体液の交換を始める。
 チイはリーンの服を脱がし始め、首筋に舌を這わす。
 『魔力の絆』が始まった。

 
 リーンはヒイロとチイ、二人に噛み痕を付けてもらい、魔力を制御してもらって、包まれるように挟まれて、安心して眠っていた。
 所有の印を付け、内側からリーンの魔力を操って押さえ込む事が出きたからだ。
「二人がかりで制御する事になるとはな…」
「森に帰ったら封じれるようになるまで、しばらく外には出れなくなるわね」
 チイがリーンの漆黒の髪を撫でる。
「近くの群れの奴等の所に、通達を出した方がいいかも知れないな。漆黒の髪のリーンが来たら、群れのリーダーの所に連れていって『魔力の絆』を施してもらう。と」
「リーンは嫌がるわね」
 チイはクスッと笑う。
「確実に嫌がるな。…もっと防護系と魔力を隠す方法を教えるか…。」
「そうね。そろそろ複雑な組み合わせを教えて、リーンだけの魔法の作り方を教えてもいいのかも。センスあるから、自分に合った魔法を作れるかもしれないわ」
 魔力は持っているが、使いこなせていない。
 魔法も少しずつ覚えているところ。
 貴重な存在だと言うことに、本人の自覚はない。
「…。まだ、外の世界には出せないな」
「ええ、もう少し、魔力を操れるようになるまでは…」

「お前を閉じ込めた奴等の処遇はどうしたい」
 回復したリーンはヒイロの家でそう聞かれた。
「…悪さしないように、首輪付けたらヒイロにあげる。好きに使って…」
「お前が首輪を付ける?」
「うん。獣人族に首輪は屈辱でしょ。人族じゃないって言ったのに、信じないあいつらが悪い!」
 ヒイロは楽しそうに笑う。
「…今回は、無防備に昼寝したのも…悪かったけど…。ねぇ、寝てる間に悪さされないような魔法って無い?どんなのが良いかな」
 リーンは対策と傾向をヒイロに相談し始めた。

 リーンには、魔力を制御し、魔法を使いこなす為の、覚える時間は、たっぷりとあった。


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