45 / 69
44
しおりを挟む
ヴィーネ達一行がようやく都エメルディアに足を踏み入れた時、輝く杜の都と讃えられた都の面影は既に微塵もなかった。
都は閑散として澱んでおり、人影は殆ど見当たらない。
稀に遭遇する人々の顔つきは暗く、うつろで無気力だ。
動くことが叶う者達は皆、とうの昔に都から逃げ出した後のようだ。
今都に在る人々は、病人を抱えて逃げ出せぬ者や一縷の望みにすがる者、諦めきった者ばかりだった。
かつては賑わっていただろう大通りを駆け抜けていく騎士達に、その都に取り残された人々の空虚な視線がずっと付き纏う――
(これ程、荒れ果てているとは、……)
シリウスは胸中で呟きながら、前方にそびえたつ緑の塔を睨んだ。
塔の隣に併設されていた学校は、閉鎖されて久しい。
王国に杜の都在り、と謳われた緑の都の零落ぶりに、シリウスの心は痛んだ。
(……そういえば、ヴィーネはレオナの名を継いでいる――緑の塔での継承式は済ませていたのだろうか?)
古の七人の賢者達の名を受け継ぐ者達は、皆それぞれにその資格を得たときに、関わりのある塔にて継承式を行う――シリウスとて、風の賢者ヴァンの名を得た後、風の塔にて儀式を行った。
しかし、ヴィーネはその驚異的な若さと特殊な状況下であることから、儀式を行えたとは思えない。
緑の塔を前にして、ふと頭をかすめた疑念のままに隣を見れば、ヴィーネが蒼白な顔で馬を駆っていた。
「――呼ばれている……呼ばれているの」
ヴィーネの呟きを捉えた瞬間、ヴィーネの馬を駆る速度がぐんと上がる。
「ヴィーネ、待て!」
嫌な予感に、シリウスは慌てて声をかけるが、速度は落ちない。むしろ、どんどん上がっていく――
シリウスは舌打ちをして、残りの騎士達に言い放つ。
「我々の後を追える者は、共に来い! 逸れた者は、少なくとも日暮前には一旦必ず都から出て、昨夜の野営地まで戻って待機せよ!」
指示を終えるや否や、猛然とヴィーネの後を追う――この速度について来られる者は、シリウスの両脇にぴたりと並走するロッドとガイ、そして意外なことに身の軽い導師と少年少女達だった。
一方ヴィーネは、もはや周囲の状況は何も目に入らず、内なる声に従って、ひたすらに緑の塔を目指して馬を駆っていた。
段々と大きくなる呼び声とその苦痛、悲しみが押し寄せていて、ヴィーネの心は潰れそうに痛んだ。
その心痛により、速度が少し落ちた間に、ヴィーネの両隣にシリウスとディンが並ぶ。
「ヴィー! おい、ヴィーっ、ヴィーネ! しっかりしろよ! 聞こえないのかっ?!」
「無駄だ! 意識が半分引きずられている――!」
ヴィーネは両隣で交わされる必死なやり取りにも、何も反応を示さない――その両目に捉えるのは、緑の塔のみ。
(早く、一刻も早く、あそこへ――)
ヴィーネを先頭に、緑の塔へと続く大通りを疾風の如く駆け抜けるシリウス達――やがて、ヴィーネは馬から飛び降り、目前に迫った塔の扉に抱きついた。
それに、ほとんど同時にシリウスとディンが続く――しかし、ヴィーネの両脇に彼らが追いつき、ヴィーネに触れた瞬間、一瞬のうちに三人の姿はかき消えた。
「消えた――嘘だろう?! ヴィー、ディン!」
「シリウス様っ! 何処に行かれたのですか?!」
少し遅れて到着したキールとシャール、そしてシリウスの側近達は、思わぬ事態に慌てふためいた。
そこへ、落ち着いた導師の声が響く――
「ほう。これは、珍しい仕掛けじゃな。――――塔が此処まで保ったのも、其方のおかげか、銀の癒し手リアスよ」
いつの間に現れたのか、扉の前には白銀を思わせる青年が佇んでいた。
都は閑散として澱んでおり、人影は殆ど見当たらない。
稀に遭遇する人々の顔つきは暗く、うつろで無気力だ。
動くことが叶う者達は皆、とうの昔に都から逃げ出した後のようだ。
今都に在る人々は、病人を抱えて逃げ出せぬ者や一縷の望みにすがる者、諦めきった者ばかりだった。
かつては賑わっていただろう大通りを駆け抜けていく騎士達に、その都に取り残された人々の空虚な視線がずっと付き纏う――
(これ程、荒れ果てているとは、……)
シリウスは胸中で呟きながら、前方にそびえたつ緑の塔を睨んだ。
塔の隣に併設されていた学校は、閉鎖されて久しい。
王国に杜の都在り、と謳われた緑の都の零落ぶりに、シリウスの心は痛んだ。
(……そういえば、ヴィーネはレオナの名を継いでいる――緑の塔での継承式は済ませていたのだろうか?)
古の七人の賢者達の名を受け継ぐ者達は、皆それぞれにその資格を得たときに、関わりのある塔にて継承式を行う――シリウスとて、風の賢者ヴァンの名を得た後、風の塔にて儀式を行った。
しかし、ヴィーネはその驚異的な若さと特殊な状況下であることから、儀式を行えたとは思えない。
緑の塔を前にして、ふと頭をかすめた疑念のままに隣を見れば、ヴィーネが蒼白な顔で馬を駆っていた。
「――呼ばれている……呼ばれているの」
ヴィーネの呟きを捉えた瞬間、ヴィーネの馬を駆る速度がぐんと上がる。
「ヴィーネ、待て!」
嫌な予感に、シリウスは慌てて声をかけるが、速度は落ちない。むしろ、どんどん上がっていく――
シリウスは舌打ちをして、残りの騎士達に言い放つ。
「我々の後を追える者は、共に来い! 逸れた者は、少なくとも日暮前には一旦必ず都から出て、昨夜の野営地まで戻って待機せよ!」
指示を終えるや否や、猛然とヴィーネの後を追う――この速度について来られる者は、シリウスの両脇にぴたりと並走するロッドとガイ、そして意外なことに身の軽い導師と少年少女達だった。
一方ヴィーネは、もはや周囲の状況は何も目に入らず、内なる声に従って、ひたすらに緑の塔を目指して馬を駆っていた。
段々と大きくなる呼び声とその苦痛、悲しみが押し寄せていて、ヴィーネの心は潰れそうに痛んだ。
その心痛により、速度が少し落ちた間に、ヴィーネの両隣にシリウスとディンが並ぶ。
「ヴィー! おい、ヴィーっ、ヴィーネ! しっかりしろよ! 聞こえないのかっ?!」
「無駄だ! 意識が半分引きずられている――!」
ヴィーネは両隣で交わされる必死なやり取りにも、何も反応を示さない――その両目に捉えるのは、緑の塔のみ。
(早く、一刻も早く、あそこへ――)
ヴィーネを先頭に、緑の塔へと続く大通りを疾風の如く駆け抜けるシリウス達――やがて、ヴィーネは馬から飛び降り、目前に迫った塔の扉に抱きついた。
それに、ほとんど同時にシリウスとディンが続く――しかし、ヴィーネの両脇に彼らが追いつき、ヴィーネに触れた瞬間、一瞬のうちに三人の姿はかき消えた。
「消えた――嘘だろう?! ヴィー、ディン!」
「シリウス様っ! 何処に行かれたのですか?!」
少し遅れて到着したキールとシャール、そしてシリウスの側近達は、思わぬ事態に慌てふためいた。
そこへ、落ち着いた導師の声が響く――
「ほう。これは、珍しい仕掛けじゃな。――――塔が此処まで保ったのも、其方のおかげか、銀の癒し手リアスよ」
いつの間に現れたのか、扉の前には白銀を思わせる青年が佇んでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
84
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる