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20 渡りかけた橋 10

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 結局、みな収納機能付きイヤーカフを受け入れた。

 ハニー・ビーが現れなければ、売られるかその前に精神が壊れるかしていた筈だ。いまさら信用するのしないのという段階ではないらしい。


 屋敷で一味を行動不能にしたリ、陣を刻んで招かれざる客を転移したりと、魔法自体をよく知らなくても彼女の凄さは目の当たりにしてきた面々である。説明さえされれば拒否する理由も無かったらしい。


 一番幼い子供は本人の意思を尊重できないので、ハニー・ビーが強制的によだれで使用者限定の魔法をかけた。他の面々も涙を出せと言われても自分の意思で出るものでなし、血液を使うためには傷を付けねばならぬということで、唾液を選択。


 使用方法を教わり耳に付けた。

 指輪や腕輪と違って、髪型次第で隠す事も出来る為、なるべく目立たせないようにという忠告を彼らは素直にのみ、耳を出さない髪型にしている。


 言葉を与えられなかった子供は、フォセカが両親と相談して引き取ることになっているそうだ。屋敷にいるころから面倒を見ていたが、それはここでも同様だったようで情が湧いたらしい。


「もしも必要なら、なんだけどさ」


 ハニー・ビーが皆を見回して言う。


「今回の件、忘れたかったら手伝うけどどーする?」

「手伝うって……?」

「ん。記憶を封じて無かったことにする」

「そんなこと、出来んの?」

「あたし、結構優秀な魔女だからね」


 ことあるごとに優秀アピールは忘れないハニー・ビーである。


「俺は要らない」


 きっぱりとそう言ったのは、唯一親に売られたと言う13歳の少年だ。素裸・四つん這いで生活させられていたことなど覚えていたくはないだろうに、少年は言う。


「屈辱だった。悔しかったし恥ずかしかったし、何もできない自分が情けなかった」

「なら、なおさら……」


 手が白くなるほどに拳を握りこんだ少年にハニー・ビーが声を掛けるも、彼は頷かなかった。


「忘れてなんかやらない。俺は準軍事組織に入隊することに決めた。書類はもう通してもらってある。俺は、理不尽がまかり通らないように力を付けて強くなる。それで、こんな思いをする人間が居なくなるように努力する。その決意を忘れないためにも、あのことは絶対に忘れたくない」

「おお……かっこいー……」

「格好いいって……格好悪かっただろ、俺」


 ハニー・ビーに救出された時の自分の姿を思い出し唇を尖らせるが、ハニー・ビーは首を横に振る。


「いや、マジで滅茶苦茶かっこいーよ。ん、分かった。記憶の操作はしない」


 他の面々も記憶操作は不要だと言う。皆、心が強いとハニー・ビーは感心した。


 話をしていくうちに、慰謝料制度が無い訳ではないという事が分かった。故意であれ過失であれ物を壊したら弁償はするし、商売上で不利益を被ったり、離婚時に原因を作った側が請求されることもある。ただ、犯罪においては犯人の捕縛や刑があっても、慰謝料請求まではなされない事が多いらしい。特に貴族でも規模の大きい商家でもない平民の場合、それが顕著だと言う。


 要は、訴える金も力も無い弱者は泣き寝入りするしかないということだ。


 独断で慰謝料貰っておいて良かった。ハニー・ビーは改めて自分の取った行動が是である事を確信した。


「さっき、答えてもらえなかったけどさ。なんで俺らにここまでしてくれんの?」

「ここまでって言うほどの事もないよ」

「あるよ。アンタは確かに強いし出来ることも多いけど、俺らとは関係ないのにさ。なんていうか……正義の味方?っぽい」

「や、あたしはそんなんじゃないし。魔女だし」


 ハニー・ビーは慌てて否定する。


「魔女が正義の味方じゃダメなの?」

「ダメってことはないけど、しっくりこないし。それ以前にあたしは正義の味方じゃないし」

「私たちを助けてくれたじゃない」

「ソレ違う。ムカついたからあいつらぶっ潰しただけ。フォセカたちを助けようとしたわけじゃない」


 ハニー・ビーは本気でそう言っているのに、フォセカが何故か嬉しそうに笑う。


「私の鎖を砕いてくれて、みんなを部屋から助け出してくれて、訴えに行ったきり戻ってこなかったトティさんの為にお貴族様の伝手を使って、私たちの為に聞いたこともないような道具を作ってくれて、辛かったら記憶を消してくれるって言ってるのにね」


 慰謝料は、正直言って本当に受け取っていいのかどうか分からないんだけど――とフォセカは続ける。

 貰っておけばいいし。どうせ、国に没収されるんだろうから、とハニー・ビーは返した。


「ただ単に渡りかけた橋だったってだけだし。ムカついたからぶっ潰すっていう橋を渡ってるときに、たまたま皆がいただけ。渡りかけた橋を戻るのも、途中で降りるのも性に合わないから。ただそれだけ。助けようとしたわけじゃないから」


 それはハニー・ビーの中では筋の通った理屈であるのに、皆は納得しない。


 ハニー・ビーが何を言ってもフォセカたちが微笑んでいるので、少々居心地の悪さを感じ彼女は話はこれで終わりとばかりに立ち上がった。


「正義の味方なんていないんだから、自分で気を付けなよ?」


 特に別れの言葉などは要らない。たまたま知り合って、ほんの少しの縁があっただけだから改まる必要もないと、ハニー・ビーは手を振ってドアを開ける。


「本当にありがとう!私で何かハニー・ビーさんのために出来ることがあったらするから、いつでも声を掛けて」

「屋敷で、態度が悪くて済まなかった。本当に助かった」

「ありがとう!」

「俺、強くなって、アンタのようにはいかなくても誰かを助ける側に回るから!」

「感謝してる」


「お礼は要らんって言ってんのにっ!じゃねっ」


 ハニー・ビーは慌ただしく部屋を出てドアを閉めると、疲れたようにため息をついた。


「あいつら、人の話を聞きやしない……疲れた」


「お疲れさまー」


 部屋の外で待っていて声を掛けてきたのは翔馬だ。


「おー、ショーマにーさん、久しぶりー」

「ビーちゃん、ひさしぶりー。実は報告がありまして」

「どしたの?」


「聖女様が召喚されましたー!」

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