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23 魔女、聖女と会う 1
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「ショーマ様、ありがとうございました」
前向き――とまではいかないものの希が幾分落ち着き、翔馬がこちらに来てからの事、とりわけ魔女ハニー・ビーの話をしたり、元の世界の話をしたりと和やかに過ごした後、ガーラントは部屋へ送りがてら翔馬に礼を言った。
「私どもでは聖女様の御心を鎮めることは適いませんでした。ショーマ様にはなんとお礼を申し上げていいか分かりません」
「いやいや、大したことしてないから。役に立ったなら良かった」
聖女様でなくとも召喚したからには此方での生活を保障する覚悟を持っていたが、ショーマ様はこちらが面倒を見るなどと上から見て良い方ではない――ガーラントはそう思ったのだった。
命を差し出す覚悟をもって陛下に願えば、彼の生涯は保証してもらえるだろう。陛下はそういうお方だ。でも、出来れば……可能であるなら、彼との誼を出来るだけ長く繋げていたい。自嘲しつつも埒も無い甘い願いが心に芽生える。そんな思いなど持って良い立場ではないのを重々承知で。
ガーラントは、己の所業を悔いてはいない。
悔いてはいないが、それでももしもを思ってしまうのは……仕方のない事なのかもしれない。
◇◇◇
「へー、聖女様を呼べたんだ?良かったじゃん」
被害者たちと別れ部屋を出たハニー・ビーは、翔馬に誘われ聖女たちの元へと向かっている。
「だよねー。これでガーラントさんの肩の荷も下りたと思う」
そう言う翔馬も安堵した表情だ。
「聖女様ってどんな人?」
「んー、70歳位の元の世界で産婆さんやってたいう樋口さん、俺のいっこ下でガーラントさんたちが望んでた黒髪黒目で、スレンダーで物言いがハッキリしてる希ちゃん、21歳でふわっとした明るめの髪色の大人しめな谷崎さん」
「え?三人もいんの?」
ハニー・ビーの時も翔馬の時も単身だったのに、なぜ、三度目は三人だったんだろうかと疑問の声をあげた。もちろん、翔馬が分かる訳もない。
「そう、なんでだろうねー?でも、三人とも聖女の力を持ってるってんで、この国、大丈夫かも?良く分かんないけどさ」
そこから翔馬は彼女たちが召喚された時の事を話した。希が元の世界へ戻せと怒っていた事、帰せないと言われ更に怒った事、対価を求めるように提案した事。
「対価にガーラントさんの首を強請るとは思わなかった」
笑って言うが、それでいいのか。
「ガーラントさんも簡単に了承するし、何言ってんだと思ったよ。けど、おまけに”召喚の責を負って死を賜る可能性があるので、首を所望されるのなら早めに願います”とか言っちゃうしさー」
「なに、そのバカ発言」
「だよねー。希ちゃんもそれで毒気が抜かれちゃってさ、しょうがないなーってことで協力する気になったみたい。俺もそうだけど、希ちゃんたちも平和な日本で暮らしてて、死を覚悟して何かをするって事はまずないから、正直、ドン引きして呆れたって言う方が正しいかも」
現在は聖女の力を使う勉強をしているそうだ。そこにいるだけで瘴気を浄化できるんじゃなかったんかいと言うと、いるだけでもゆっくりと浄化されて行くけど、力を最大限に発揮し、速やかに平和へと導けるように修行していると言う。
「そういや、にーさんは27歳だっけ?鑑定したときに見た」
「うん、俺、27。ビーちゃんは?」
「あたしは15歳。にーさん、トティにーさん……って、今回のごたごたで知り合った兵士やってるにーさんなんだけど、22歳のその人と同じくらいに見えるよ。若く見えるねー」
「あー、俺ら日本人は人種的に若く見られる傾向にあるからね。ビーちゃんは15かぁ……一回りも下、ビーちゃんこそ若いなー、これから楽しい事がいっぱいあるお年頃だなー、羨ましいっ」
両手を組んで身をよじる翔馬に、ハニー・ビーは呆れたように言う。
「一回りがなんだか知らんけど、楽しい事がいっぱいあるかどうかと年は関係ないしなぁ。あたしは100超えたって自分がやりたい事をやりたいようにやって楽しんで生きたいし」
「あー、うん、そうね。俺も、これからここで楽しもう。要らない勇者だからこそ、勝手に出来る訳だし」
「ん、あたしも要らない魔女だしね。楽しむ」
お喋りしているうちに、聖女が勉強していると言う場所に到着する。翔馬がノックをし、いらえを待って入室すると、そこは図書室とサロンが併設されたような大広間だった。
「噂の魔女っ子連れてきたよー」
「何それ」
翔馬の大雑把な説明にハニー・ビーが笑って足を進める。大きなテーブルの片側に三人の女性。対面にガーラントと、ハニー・ビーが見たことのない壮年の男性が二人。おそらく教師役だろうと当たりを付ける。
「はじめましてー。聖女様で合ってる?魔女のハニー・ビーだよ」
ハニー・ビーのいつも通り砕けすぎる物言いでの挨拶に聖女たちは少し驚いたようだが、すぐに笑顔を作った。
「はじめまして、可愛い魔女さん。あたしゃ樋口、産婆だよ。聖女だとか言われてるけどさ、こんな年寄りまで呼ばなきゃならないってのは、さぞ難儀だろうって事で助けてるよ」
樋口の言葉で「サンバ・ヒグチ」ではなく「ヒグチ・サンバ」なのか?とガーラントは疑問に思ったのだが、もちろんどちらも違う。
「……谷崎華です」
「小山内希だよー」
「ヒグチ媼、タニザキねーさん、オサナイねーさん、よろしくー」
「おや、媼ときたかい。ばーちゃんでいいよ。向こうではそう呼ばれてた」
「希って呼んで。わたしもビーちゃんって呼んでいい?」
対自分の時とは随分と表情も対応も違う……と思ったガーラント。当然だと分かっていながら残念に思う。
前向き――とまではいかないものの希が幾分落ち着き、翔馬がこちらに来てからの事、とりわけ魔女ハニー・ビーの話をしたり、元の世界の話をしたりと和やかに過ごした後、ガーラントは部屋へ送りがてら翔馬に礼を言った。
「私どもでは聖女様の御心を鎮めることは適いませんでした。ショーマ様にはなんとお礼を申し上げていいか分かりません」
「いやいや、大したことしてないから。役に立ったなら良かった」
聖女様でなくとも召喚したからには此方での生活を保障する覚悟を持っていたが、ショーマ様はこちらが面倒を見るなどと上から見て良い方ではない――ガーラントはそう思ったのだった。
命を差し出す覚悟をもって陛下に願えば、彼の生涯は保証してもらえるだろう。陛下はそういうお方だ。でも、出来れば……可能であるなら、彼との誼を出来るだけ長く繋げていたい。自嘲しつつも埒も無い甘い願いが心に芽生える。そんな思いなど持って良い立場ではないのを重々承知で。
ガーラントは、己の所業を悔いてはいない。
悔いてはいないが、それでももしもを思ってしまうのは……仕方のない事なのかもしれない。
◇◇◇
「へー、聖女様を呼べたんだ?良かったじゃん」
被害者たちと別れ部屋を出たハニー・ビーは、翔馬に誘われ聖女たちの元へと向かっている。
「だよねー。これでガーラントさんの肩の荷も下りたと思う」
そう言う翔馬も安堵した表情だ。
「聖女様ってどんな人?」
「んー、70歳位の元の世界で産婆さんやってたいう樋口さん、俺のいっこ下でガーラントさんたちが望んでた黒髪黒目で、スレンダーで物言いがハッキリしてる希ちゃん、21歳でふわっとした明るめの髪色の大人しめな谷崎さん」
「え?三人もいんの?」
ハニー・ビーの時も翔馬の時も単身だったのに、なぜ、三度目は三人だったんだろうかと疑問の声をあげた。もちろん、翔馬が分かる訳もない。
「そう、なんでだろうねー?でも、三人とも聖女の力を持ってるってんで、この国、大丈夫かも?良く分かんないけどさ」
そこから翔馬は彼女たちが召喚された時の事を話した。希が元の世界へ戻せと怒っていた事、帰せないと言われ更に怒った事、対価を求めるように提案した事。
「対価にガーラントさんの首を強請るとは思わなかった」
笑って言うが、それでいいのか。
「ガーラントさんも簡単に了承するし、何言ってんだと思ったよ。けど、おまけに”召喚の責を負って死を賜る可能性があるので、首を所望されるのなら早めに願います”とか言っちゃうしさー」
「なに、そのバカ発言」
「だよねー。希ちゃんもそれで毒気が抜かれちゃってさ、しょうがないなーってことで協力する気になったみたい。俺もそうだけど、希ちゃんたちも平和な日本で暮らしてて、死を覚悟して何かをするって事はまずないから、正直、ドン引きして呆れたって言う方が正しいかも」
現在は聖女の力を使う勉強をしているそうだ。そこにいるだけで瘴気を浄化できるんじゃなかったんかいと言うと、いるだけでもゆっくりと浄化されて行くけど、力を最大限に発揮し、速やかに平和へと導けるように修行していると言う。
「そういや、にーさんは27歳だっけ?鑑定したときに見た」
「うん、俺、27。ビーちゃんは?」
「あたしは15歳。にーさん、トティにーさん……って、今回のごたごたで知り合った兵士やってるにーさんなんだけど、22歳のその人と同じくらいに見えるよ。若く見えるねー」
「あー、俺ら日本人は人種的に若く見られる傾向にあるからね。ビーちゃんは15かぁ……一回りも下、ビーちゃんこそ若いなー、これから楽しい事がいっぱいあるお年頃だなー、羨ましいっ」
両手を組んで身をよじる翔馬に、ハニー・ビーは呆れたように言う。
「一回りがなんだか知らんけど、楽しい事がいっぱいあるかどうかと年は関係ないしなぁ。あたしは100超えたって自分がやりたい事をやりたいようにやって楽しんで生きたいし」
「あー、うん、そうね。俺も、これからここで楽しもう。要らない勇者だからこそ、勝手に出来る訳だし」
「ん、あたしも要らない魔女だしね。楽しむ」
お喋りしているうちに、聖女が勉強していると言う場所に到着する。翔馬がノックをし、いらえを待って入室すると、そこは図書室とサロンが併設されたような大広間だった。
「噂の魔女っ子連れてきたよー」
「何それ」
翔馬の大雑把な説明にハニー・ビーが笑って足を進める。大きなテーブルの片側に三人の女性。対面にガーラントと、ハニー・ビーが見たことのない壮年の男性が二人。おそらく教師役だろうと当たりを付ける。
「はじめましてー。聖女様で合ってる?魔女のハニー・ビーだよ」
ハニー・ビーのいつも通り砕けすぎる物言いでの挨拶に聖女たちは少し驚いたようだが、すぐに笑顔を作った。
「はじめまして、可愛い魔女さん。あたしゃ樋口、産婆だよ。聖女だとか言われてるけどさ、こんな年寄りまで呼ばなきゃならないってのは、さぞ難儀だろうって事で助けてるよ」
樋口の言葉で「サンバ・ヒグチ」ではなく「ヒグチ・サンバ」なのか?とガーラントは疑問に思ったのだが、もちろんどちらも違う。
「……谷崎華です」
「小山内希だよー」
「ヒグチ媼、タニザキねーさん、オサナイねーさん、よろしくー」
「おや、媼ときたかい。ばーちゃんでいいよ。向こうではそう呼ばれてた」
「希って呼んで。わたしもビーちゃんって呼んでいい?」
対自分の時とは随分と表情も対応も違う……と思ったガーラント。当然だと分かっていながら残念に思う。
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