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33 瘴気浄化の旅 3

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 瘴気の影響で異形化したのは動植物だけではない。人間も――なのだ。

 派遣された神官や魔導士にもどうにもできないとなると、家族は異形化した者を家の中に隠すようになった。

 そこここで異形化が見られていたため、家内にその症状を持つものが出たからといって村八分のような事態にはならなかったが、どうしても奇異に見られる。しかも異形化した者は見た目の変化だけでなく、高熱や痛みにも苦しんでいる。


 それを一軒一軒回るのは効率が悪いという事で、領主と教会の力を借りることにする。

 騎士たちは知らなかったが、流石に領主には聖女が浄化に行く旨は伝えられており、その来訪を指折り数えて待っていたのだ。


 到着した時も、成果を上げる前に大袈裟に騒がれては委縮するかもしれないという事で、陰ながら見守っていた領主は、湖と森の浄化が済んだと聞き小躍りせんばかりに一行を歓待した。


「湖と森の浄化、ありがとうございます、聖女様!これでシャスターの街は救われます!」


 一行が街に戻った途端の大声である。

 大声の持ち主である、四十過ぎくらいの恰幅の良いその男性が領主であることは、とうぜん街の者に知られている。その領主がまるで宣伝するかのように”聖女”の名を出し”街が救われる”と言う。


 今まで瘴気に苦しめられていた人々は、何故か突然にそれが薄くなっていったことを身をもって知っている。そこに領主のアピールだ。大騒ぎにならない方がおかしい。泣きながら礼を言うもの、万歳するもの、何故か聖女コールも始まる。


「せ・い・じょ!せ・い・じょ!わ・れ・ら・のせ・い・じょ!せ―――――っいじょっ!」

「聖女様ぁーっありがとうございますーっ。聖女様!いやむしろ女神!女神さまありがとうーっ!」

「聖女様かわいーっ!こっち向いて―っ」


 来日したハリウッドスター相手でもこうはなるまい――翔馬は他人事のようにその様子を見ていた。


「ランティスの人って感情表現が豊かだよね……」

「ニホンはそうでもない?」


「え?ビーちゃん、この様子に引いてない!?当たり前!?――俺がいた国は、あっちの世界の中でも感情が伝わりにくい国民性ではあったけど」


 感情表現が控えめで、尚且つ空気を読むことを求められる国を思い出す翔馬。


「んー、テンションは違うけど、あたしがいた所は人間族より獣人族が多い国で、良くも悪くも感情表現は素直だね」


 その言葉に驚いた翔馬は、食いつかんばかりにハニー・ビーに迫って彼女の肩を掴んだ。


「獣人!?ビーちゃんの世界には獣人がいるの!?」

「ん。あー、そっか、こっちの世界には獣人族はいないんだっけ。ショーマにーさんのいた世界にもいないの?」

「いないっ!ああ……俺、召喚されるならそっちの世界が良かった……。リアルバニーなお姉さん、もこもこフワフワのちびっ子、ケモ耳としっぽ付きの精悍な冒険者……。ああ、そういえばこの国には冒険者ギルドも無い……」

「あー、冒険者ギルドも無いかぁ」

「ちなみにビーちゃんのトコには……」

「ある」

「………ああぁぁぁぁぁ」


 浮かれた後に消沈した翔馬を見て、ハニー・ビーは首を傾げる。


「獣人族も冒険者ギルドも、その、らのべ?とかっていう物語に出てくんの?はー、にーさんたちの世界は想像力が豊かな世界なんだねぇ」


 頷いた翔馬に感心するようにハニー・ビーが言う。


「ああ………いいなぁ……。いやいや、俺はここでやっていくと決めたんだから、隣の芝生を羨んでもしょーが無い。陛下にお言葉もいただいたんだし……」


 言いながらも翔馬は、見たこともない獣人族がいると言うハニー・ビーのいた世界への憧れが隠せない。それを見てハニー・ビーは思う。


 あたしが帰るとき、にーさんも連れてってあげようか?いやいや、にーさんがそういう希望を持っていたとしても、現実の獣人族を知ってる訳じゃ無いんだから、実際に見たらこうじゃないと思うかもだし。あたしはガーラントのように、召喚したからには生涯面倒見ようって思えないし。いやいやいや、問答無用の召喚と希望に沿っての同行とは違う。

 ここでやっていこうと思ってるなら水差さない。けど、今のところお呼びじゃない勇者のショーマにーさんが、ここに居づらいなら連れて行ってやらない事も無い。


 ま、あっち行ってやっぱりダメーーってなったらこっちに戻す事も出来るしね。


 ニホンに戻すことは無理だけど……。


 そう思いはしても、まだ帰る時ではないハニー・ビーにはそれを告げる気は無かった。


 すっかり傍観者となった二人をよそに、護衛の五人は聖女たちを囲みガーラントが領主に交渉をしていた。

 結果、とりあえず領主の屋敷へ移動し、異形化患者たちを集めるということになったので、傍観者含む11人は興奮した群衆をかき分けながら街の中央よりやや北にあると言う領主の館を目指したのだった。




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