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46 臭い匂いは元から断たねば 2
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「あとは魔道具を作る?」
更なる提案に国王が食いつく。
「魔女殿が作れるのか?」
「なんでもかんでもあたし任せにするなら、何もしないで帰るよ?あたしはあくまで見たものを報告して提案するだけ。しかも損得勘定抜きの善意。あくまで実行するのはこの世界の人たちだからね?それと、誰か一人に頼るってのは怖い。その人がいなきゃ回らないような事態にするのは悪手だと思うけど?」
「正論だ。だがとっかかりが欲しい」
「聖女様の浄化が完了すれば、数百年の猶予は出来ると思う」
「魔女殿は厳しいな」
国王が苦笑する。瘴気の問題を先送りすれば、自身の治世の間は何事もなく過ごせるだろう。だが、それを良しとするほど厚顔ではない。出来れば召喚などに頼らず自分たちの手で何とかしようとして、それが成らず聖女の力に頼ることとなった。
幸運にも魔女が瘴気を抑える術を知っているのだから、この機会になんとかしたい。それには彼女の協力が不可欠である。
「魔女殿が好みそうな対価を示せればいいんだがな」
あいにく手札は全て切ったあとだ。その気になればいつでも元の世界に戻れる彼女の楔になればと、トティやアーティを近づけてはみたが、彼らに好意的だったにしても魔女には魔女の持論があって簡単には頷いてくれない。
さて、どうしたものか。国王がそう考えていると、ガーラントが突然ハニー・ビーの足元に土下座して床に額を擦り付けた。これは召喚された日本人から伝わった最大級の謝罪を示す行為だ。
「はい?」
ガーラントの突然の奇行に魔女は引き気味である。
「お願いします!私が言える立場でないのは重々承知しておりますが、それでも!なにとぞ!瘴気を抑え込む術を!神脈を正す術を!」
国王も引いたが、ある意味この方法が魔女には効くのではないかと思った。策を巡らしてYes以外の答えが無いように導く自分のやり方より、愚直ではあるが真正面からの嘆願に彼女は弱いだろう。
「瘴気の発生を抑えられるのなら、今いる我々だけでなくこの先で生まれる全てのランティス国民が安心して暮らせます。民の命のためなら私はどんな対価でも支払いましょう、命を出せというなら差し出します。隷属の術を行使して私を奴隷として扱って下さっても構いません。魔女殿が仰ること、全てに諾とお答えいたします。それでも足りなければ……その……以前に仰っていた、結婚……の件も承り――」
「あほーっ!」
ハニー・ビーはたどたどしいガーラントの言葉を遮り、目の前にある彼の頭に手刀を落とした。
「――魔女殿はガーラントを所望か」
国王は驚きで目を見開いた。
「要らんっ!」
「いや、だが、ガーラントが」
「違うっ!」
「王命にしても良いが」
「要らんっていったら要らん!」
あの時はガーラントの仲人魂をどうにかしないといけないと思って「あたしと結婚する?」などと言ったハニー・ビーだが、今それを心底後悔した。
あれで仲人口を撃退して終了だと思っていたのに、なぜ今になってその話題が再燃するのか。
しかも、命・隷属・それでも足りなければ……などと言われては、あたしがガーラントに恋い焦がれて振られ、その気がないガーラントの差し出せる全てにおいての最終手段のようではないか。命を落とすよりもあたしとの結婚が嫌か!あたしも嫌だけどな!あんたが婚約者を見つけるとか言いださなきゃ、あたしだって言わなかったよっ!男を斡旋するのをやめさせようと思っただけで、その気はこれっぽっちも無いわっ!なにこの辱めっ!?王様!そこ!笑わないっ!
捲し立てるハニー・ビーは、珍しく汗をかいていた。
「ガーラントに対価を要求する」
切らせた息が落ち着いてからハニー・ビーは言った。
「今後!二度と!その話題を出すな!それを約束できるんなら、魔道具の作成指導をする!」
「はいっ!ありがとうございます。お約束いたします。なんなら、服従ででも隷属ででも縛って頂いても――」
「要らんっ!」
そして笑いながら様子を見ていた国王に向かって「最大限譲歩して作成の指導。実際に作るのはこの国の人。それを飲み込んで」と拗ねたように言う。
「承知した。魔女殿の厚意に礼を言う。――そして、ガーラント」
国王の声かけで顔をあげたガーラントは、頬を紅潮させて喜びに満ちた顔をしていた。
聖女による瘴気浄化が成るだけでも有難いのに、魔女によりこの先の瘴気発生を抑えられるとなれば、国にとって民にとっていかに喜ばしい事か――その思いが表情に現れている。
「よくやった」
短いが重い言葉だった。
死をも覚悟しての聖女召喚。成功したとて王の言葉を無視して召喚を断行した罪は重い。聖女たちによる浄化が進んでいても、その責を不問にしてもらえただけで僥倖だと思っていた。
それがここにきての賞賛の言葉。
ガーラントは言葉もなく涙を流した。
このお褒めの言葉は魔女を陥落させたことに対する言葉だったのだが、それを分かっているのかどうか。
不貞腐れたハニー・ビーは涙にむせぶガーラントを見て毒気が抜かれたのだった。
更なる提案に国王が食いつく。
「魔女殿が作れるのか?」
「なんでもかんでもあたし任せにするなら、何もしないで帰るよ?あたしはあくまで見たものを報告して提案するだけ。しかも損得勘定抜きの善意。あくまで実行するのはこの世界の人たちだからね?それと、誰か一人に頼るってのは怖い。その人がいなきゃ回らないような事態にするのは悪手だと思うけど?」
「正論だ。だがとっかかりが欲しい」
「聖女様の浄化が完了すれば、数百年の猶予は出来ると思う」
「魔女殿は厳しいな」
国王が苦笑する。瘴気の問題を先送りすれば、自身の治世の間は何事もなく過ごせるだろう。だが、それを良しとするほど厚顔ではない。出来れば召喚などに頼らず自分たちの手で何とかしようとして、それが成らず聖女の力に頼ることとなった。
幸運にも魔女が瘴気を抑える術を知っているのだから、この機会になんとかしたい。それには彼女の協力が不可欠である。
「魔女殿が好みそうな対価を示せればいいんだがな」
あいにく手札は全て切ったあとだ。その気になればいつでも元の世界に戻れる彼女の楔になればと、トティやアーティを近づけてはみたが、彼らに好意的だったにしても魔女には魔女の持論があって簡単には頷いてくれない。
さて、どうしたものか。国王がそう考えていると、ガーラントが突然ハニー・ビーの足元に土下座して床に額を擦り付けた。これは召喚された日本人から伝わった最大級の謝罪を示す行為だ。
「はい?」
ガーラントの突然の奇行に魔女は引き気味である。
「お願いします!私が言える立場でないのは重々承知しておりますが、それでも!なにとぞ!瘴気を抑え込む術を!神脈を正す術を!」
国王も引いたが、ある意味この方法が魔女には効くのではないかと思った。策を巡らしてYes以外の答えが無いように導く自分のやり方より、愚直ではあるが真正面からの嘆願に彼女は弱いだろう。
「瘴気の発生を抑えられるのなら、今いる我々だけでなくこの先で生まれる全てのランティス国民が安心して暮らせます。民の命のためなら私はどんな対価でも支払いましょう、命を出せというなら差し出します。隷属の術を行使して私を奴隷として扱って下さっても構いません。魔女殿が仰ること、全てに諾とお答えいたします。それでも足りなければ……その……以前に仰っていた、結婚……の件も承り――」
「あほーっ!」
ハニー・ビーはたどたどしいガーラントの言葉を遮り、目の前にある彼の頭に手刀を落とした。
「――魔女殿はガーラントを所望か」
国王は驚きで目を見開いた。
「要らんっ!」
「いや、だが、ガーラントが」
「違うっ!」
「王命にしても良いが」
「要らんっていったら要らん!」
あの時はガーラントの仲人魂をどうにかしないといけないと思って「あたしと結婚する?」などと言ったハニー・ビーだが、今それを心底後悔した。
あれで仲人口を撃退して終了だと思っていたのに、なぜ今になってその話題が再燃するのか。
しかも、命・隷属・それでも足りなければ……などと言われては、あたしがガーラントに恋い焦がれて振られ、その気がないガーラントの差し出せる全てにおいての最終手段のようではないか。命を落とすよりもあたしとの結婚が嫌か!あたしも嫌だけどな!あんたが婚約者を見つけるとか言いださなきゃ、あたしだって言わなかったよっ!男を斡旋するのをやめさせようと思っただけで、その気はこれっぽっちも無いわっ!なにこの辱めっ!?王様!そこ!笑わないっ!
捲し立てるハニー・ビーは、珍しく汗をかいていた。
「ガーラントに対価を要求する」
切らせた息が落ち着いてからハニー・ビーは言った。
「今後!二度と!その話題を出すな!それを約束できるんなら、魔道具の作成指導をする!」
「はいっ!ありがとうございます。お約束いたします。なんなら、服従ででも隷属ででも縛って頂いても――」
「要らんっ!」
そして笑いながら様子を見ていた国王に向かって「最大限譲歩して作成の指導。実際に作るのはこの国の人。それを飲み込んで」と拗ねたように言う。
「承知した。魔女殿の厚意に礼を言う。――そして、ガーラント」
国王の声かけで顔をあげたガーラントは、頬を紅潮させて喜びに満ちた顔をしていた。
聖女による瘴気浄化が成るだけでも有難いのに、魔女によりこの先の瘴気発生を抑えられるとなれば、国にとって民にとっていかに喜ばしい事か――その思いが表情に現れている。
「よくやった」
短いが重い言葉だった。
死をも覚悟しての聖女召喚。成功したとて王の言葉を無視して召喚を断行した罪は重い。聖女たちによる浄化が進んでいても、その責を不問にしてもらえただけで僥倖だと思っていた。
それがここにきての賞賛の言葉。
ガーラントは言葉もなく涙を流した。
このお褒めの言葉は魔女を陥落させたことに対する言葉だったのだが、それを分かっているのかどうか。
不貞腐れたハニー・ビーは涙にむせぶガーラントを見て毒気が抜かれたのだった。
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