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49 ひとけのない回廊で抱き合う男女は
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夜の人気のない回廊で抱き合う男女。そこに人が通りかかったらどうするだろうか。
見てみぬふりをして道を変えるか、口頭で注意をするか。それは抱き合う男女、通りかかった者の地位や身分と互いの関係性によって異なるだろう。
そして、抱き合う男女が翔馬とハニー・ビーで、通りかかったのが希だった場合。
「ッ!!しょ―――――ま―――――っ!!」
「ぐおぉぉっ!?」
翔馬の背に希の跳び蹴りが華麗に決まることとなった。
通りかかったのは希だけではなく樋口も谷崎もいたのだが、樋口は「あらあら、まあまあ」とでもいう表情で静観の構え、谷崎は困ったような顔をしている。
蹴られた翔馬は何がなんだか分からない状態だったが、振り返って希を確認すると、笑顔で右手を握りこんで親指を立てて言った。
「ナイス蹴り!」
「アホ―っ!!ドヤ顔でサムズアップしている場合かっ!ビーちゃん!ビーちゃん大丈夫!?無体な事されてない!?翔馬!残念でヘタレだと思っていたら肉食系を通り越して野獣系か!ロリコンじゃないって言ってたのは嘘か!?」
翔馬が立てた親指を握って、本来ならあり得ない方向に曲げた希が吼える。
「あぁん!?15歳の女の子に27の男が強制猥褻か!未成年保護条例違反か!?」
国民の敬愛と感謝を集める聖女がまるでヤクザである。
「いやいやいやいや、そんな欲にまみれたアレじゃなくて……アイテテテ、希ちゃんっ!指、折れるぅ」
「じゃ、なんなのよ?27の成人男性が15歳の、日本でなら女子中学生の年の女の子を抱擁しててどんな言い訳があるっての!?」
確かに日本の常識に照らし合わせれば完全アウトである。
「ノゾミねーさん、なに怒ってんの?」
「ビーちゃんっ!大丈夫!?いかがわしいことされてない!?」
翔馬の指を離した希がハニー・ビーを抱きしめて聞くが、聞かれた当人は何が問題なのか分かっていない。
「なにも?」
「ビーちゃんっ!そこはハッキリ言って!疑問形にしたら希ちゃんがますます怒る!」
「なにも」
「翔馬……アンタ、被害者に偽証を強制したね?」
「ちっ違うって――!」
本当にやましい気持ちは無い。どちらかといえば、ハニー・ビーから翔馬を抱きしめたのだ。
それはもちろん慰めの為で、ハニー・ビーから色の気配は微塵も無い。
だが、弁解するとしたら、なぜ自分がハニー・ビーに慰められていたのかを話さなくてはならない。このメンバーで今更メンツがどうの恥がどうのといっても仕方がないかもしれないが、冷静になって考えれば理由があまりにも情けないと、翔馬は口をつぐむ。
「魔女は悩み相談も受けるんだよ、ノゾミねーさん」
「悩み相談?」
「そう。あたしはまだ経験も知識も浅いけど、それでも魔女だからね。にーさんの相談に乗ってただけ」
「悩み……って、翔馬」
希が翔馬を見るも口を開く気配が無いので、ハニー・ビーに視線で問う。
「相談の内容は他言しない。ねーさんだって、自分が相談したことを誰かに話したら嫌な気持ちになるでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
希としては、たった五人の召喚仲間であり、たった4人の日本人組というだけでなく、自分が一番翔馬に近しいと思っていた。それなのに悩んでいることに気付かず、相談もされなかったことに少々傷ついたきがして、そんな自分が身勝手だと思い直す。
「希ちゃん、なんかあったらビーちゃんに相談するといいよ。ビーちゃん、ホント凄い。天使だから」
「あれ?魔女よね?」
「ん、魔女」
「女神だし」
「魔女だよね」
「魔女」
「いいじゃんっ!天使で女神で魔女!」
「翔馬……あんた、ランティスに随分と馴染んだね……?」
自身も浄化へ行くたびに聖女コールからはじまって、いつの間にか女神コールへと移るランティスの国民性に困惑していた希が呆れたように翔馬に言うと、ハニー・ビーはうんうんと頷いたのだった。
「翔馬さん、あの、もし誰かに見られて噂になったりしたら……ハニー・ビーさんが困るんじゃないかと……」
「え?」
「あの……男女が暗闇で、その抱き合っていたとか言われたら……」
「そうだよ、翔馬!華ちゃんの言う通り!アンタは男だからいいけど、ビーちゃんが困るでしょ」
谷崎も、この三ヶ月で口を開く機会が増え、如月さんから翔馬さん、小山内さんから希さん、樋口さんからおばあちゃんへと呼び方も変わっていた。それに伴い、自身も名字でなく名前で呼んでほしいと言えるようにもなった。
なので、ここからは谷崎ではなく華と呼ぶ事にしよう。
「そ……そっか、そうだよな、ビーちゃんによからぬ噂が立つかもだもんな、ありがと、華ちゃん。俺、気が付かなかったわ」
「……いえ」
「これからは部屋の中で二人きりの時に天使で女神で魔女なビーちゃんを愛で……いててててっ、うそ!冗談だから、希ちゃんっ!」
希の貫き手突きが鳩尾に決まり、痛みをこらえながら「希ちゃん……格闘経験あり?」と疑問を持つ翔馬。勇者の自分が格闘経験ゼロなのに聖女が武闘張ってどうなんだろう――と。
見てみぬふりをして道を変えるか、口頭で注意をするか。それは抱き合う男女、通りかかった者の地位や身分と互いの関係性によって異なるだろう。
そして、抱き合う男女が翔馬とハニー・ビーで、通りかかったのが希だった場合。
「ッ!!しょ―――――ま―――――っ!!」
「ぐおぉぉっ!?」
翔馬の背に希の跳び蹴りが華麗に決まることとなった。
通りかかったのは希だけではなく樋口も谷崎もいたのだが、樋口は「あらあら、まあまあ」とでもいう表情で静観の構え、谷崎は困ったような顔をしている。
蹴られた翔馬は何がなんだか分からない状態だったが、振り返って希を確認すると、笑顔で右手を握りこんで親指を立てて言った。
「ナイス蹴り!」
「アホ―っ!!ドヤ顔でサムズアップしている場合かっ!ビーちゃん!ビーちゃん大丈夫!?無体な事されてない!?翔馬!残念でヘタレだと思っていたら肉食系を通り越して野獣系か!ロリコンじゃないって言ってたのは嘘か!?」
翔馬が立てた親指を握って、本来ならあり得ない方向に曲げた希が吼える。
「あぁん!?15歳の女の子に27の男が強制猥褻か!未成年保護条例違反か!?」
国民の敬愛と感謝を集める聖女がまるでヤクザである。
「いやいやいやいや、そんな欲にまみれたアレじゃなくて……アイテテテ、希ちゃんっ!指、折れるぅ」
「じゃ、なんなのよ?27の成人男性が15歳の、日本でなら女子中学生の年の女の子を抱擁しててどんな言い訳があるっての!?」
確かに日本の常識に照らし合わせれば完全アウトである。
「ノゾミねーさん、なに怒ってんの?」
「ビーちゃんっ!大丈夫!?いかがわしいことされてない!?」
翔馬の指を離した希がハニー・ビーを抱きしめて聞くが、聞かれた当人は何が問題なのか分かっていない。
「なにも?」
「ビーちゃんっ!そこはハッキリ言って!疑問形にしたら希ちゃんがますます怒る!」
「なにも」
「翔馬……アンタ、被害者に偽証を強制したね?」
「ちっ違うって――!」
本当にやましい気持ちは無い。どちらかといえば、ハニー・ビーから翔馬を抱きしめたのだ。
それはもちろん慰めの為で、ハニー・ビーから色の気配は微塵も無い。
だが、弁解するとしたら、なぜ自分がハニー・ビーに慰められていたのかを話さなくてはならない。このメンバーで今更メンツがどうの恥がどうのといっても仕方がないかもしれないが、冷静になって考えれば理由があまりにも情けないと、翔馬は口をつぐむ。
「魔女は悩み相談も受けるんだよ、ノゾミねーさん」
「悩み相談?」
「そう。あたしはまだ経験も知識も浅いけど、それでも魔女だからね。にーさんの相談に乗ってただけ」
「悩み……って、翔馬」
希が翔馬を見るも口を開く気配が無いので、ハニー・ビーに視線で問う。
「相談の内容は他言しない。ねーさんだって、自分が相談したことを誰かに話したら嫌な気持ちになるでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
希としては、たった五人の召喚仲間であり、たった4人の日本人組というだけでなく、自分が一番翔馬に近しいと思っていた。それなのに悩んでいることに気付かず、相談もされなかったことに少々傷ついたきがして、そんな自分が身勝手だと思い直す。
「希ちゃん、なんかあったらビーちゃんに相談するといいよ。ビーちゃん、ホント凄い。天使だから」
「あれ?魔女よね?」
「ん、魔女」
「女神だし」
「魔女だよね」
「魔女」
「いいじゃんっ!天使で女神で魔女!」
「翔馬……あんた、ランティスに随分と馴染んだね……?」
自身も浄化へ行くたびに聖女コールからはじまって、いつの間にか女神コールへと移るランティスの国民性に困惑していた希が呆れたように翔馬に言うと、ハニー・ビーはうんうんと頷いたのだった。
「翔馬さん、あの、もし誰かに見られて噂になったりしたら……ハニー・ビーさんが困るんじゃないかと……」
「え?」
「あの……男女が暗闇で、その抱き合っていたとか言われたら……」
「そうだよ、翔馬!華ちゃんの言う通り!アンタは男だからいいけど、ビーちゃんが困るでしょ」
谷崎も、この三ヶ月で口を開く機会が増え、如月さんから翔馬さん、小山内さんから希さん、樋口さんからおばあちゃんへと呼び方も変わっていた。それに伴い、自身も名字でなく名前で呼んでほしいと言えるようにもなった。
なので、ここからは谷崎ではなく華と呼ぶ事にしよう。
「そ……そっか、そうだよな、ビーちゃんによからぬ噂が立つかもだもんな、ありがと、華ちゃん。俺、気が付かなかったわ」
「……いえ」
「これからは部屋の中で二人きりの時に天使で女神で魔女なビーちゃんを愛で……いててててっ、うそ!冗談だから、希ちゃんっ!」
希の貫き手突きが鳩尾に決まり、痛みをこらえながら「希ちゃん……格闘経験あり?」と疑問を持つ翔馬。勇者の自分が格闘経験ゼロなのに聖女が武闘張ってどうなんだろう――と。
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