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第1章
4
しおりを挟む風が動いた。
心が揺れないように、必死に感情を凍らせて、風が消えるのをじっと待つ。
と、頭の上にぬくもりを感じた。目を開くと、なぜだか男の子の手が、私に向かって伸びていた。
頭にはあたたかくて、優しい感触。
これは、なに……?
目を瞬かせて男の子を見る。
男の子は私の頭に手を置いたまま、視線を合わせてきた。
「……助けるよ。目の前で死のうとしてたら、何回だって助ける」
目の奥や胸の辺りが燃えるように熱くなった。
「……どうして?」
震える声で訊ねると、男の子は柔らかく微笑んだ。
「だって、手が届くから」
男の子はどこか遠くを見つめ、しんみりとした声で言った。
「俺さ、大好きな人がいるんだ。すごく優しくて、素直で、可愛い子でさ……」
その顔はどこか、私が来未を想うときに似ているような気がした。
男の子は寂しげに笑い、私を見る。
「だけど、その人とはもう、一緒にはいられなくなっちゃったんだ」
「え……?」
不意のやるせなさげなその顔に、どきりとする。
「どうして……?」
訊ねても、男の子は私の問いには答えなかった。
「俺が君を助けた理由はね、君が俺の手が届くところにいたからだよ、――水波」
目を瞠る。
「……なんで私の名前……」
きぃん、と頭の奥でなにかが響く。
脳の中心に、瞬間的に長い光の針を差し込まれたような、鋭い痛みだ。
突然目眩がして、私は咄嗟に頭を押さえた。
「大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
額を押さえたまま顔を上げ、男の子を見る。目が合うと、男の子はやはり私を見て優しく微笑んだ。
あどけないその笑顔に、心臓が大きく弾んだ。
「……とにかく、水波が生きててよかったよ」
「……あなた、何者? なんで私の名前を知ってるの?」
男の子はにこりと笑うと、私の手を取った。
「こっちきて!」
ぐっと手を引かれた勢いで立ち上がり、柵のすぐそばにあったベンチに座らせられる。
そして男の子は仮面を被り直すと、「ここでちょっと待ってて」と言って去っていく。
「え? えっ、ちょっ……!」
取り残された私は、困惑してその背中を見つめた。
男の子は振り返りながら、「ちゃんと待ってろよ! どこにも行くなよ!」と何度も言って、軽やかに石段を降りていった。
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