悪役令嬢はたった一人を選ぶ〜今世も絶対旦那様と結婚したい!〜

春木菜々

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リリィ・レオニア

旦那さんどこ!?

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 そして案の定、椿は転生した。物心つくころに、ふと思い出したのである。


「あらぁ。私乙女ゲームに転生しちゃったのね!やだ!とっても身体が軽いわ!ぎっくり腰なんて感じさせない若い身体!しなやかな手足!熱く高鳴る鼓動!しわのない顔!いいわね若いって。走り放題じゃない!やっほーい!」


 小さくも、自由の利く身体があまりにも嬉しくて五時間家中を走りまわった。そして、同時に自分の名前にも聞き覚えがあった。

 リリィ・レオニア。国の中でも大きな権力を持ち、王家とのパイプも太いレオニア公爵家の次女であり、孫が話してくれた乙女ゲームのライバル悪役令嬢である。確か孫は「悪役令嬢」と言って、いろいろと文句を言っていた。

 舞台は、沈まぬ月を守護に持つ国家エルターナ。『星と月』がモチーフになっているためグラフィックがとても美しい。
なんとこの国は東から西へと月が移動しない。真北の空で永遠に輝いているのだ。日が出ている間は目立たない。しかし夜になると淡く神々しい光がエルターナに降り注がれる。その設定には椿も大変驚いたものだ。物理化学の先生たちが聞いたらひっくり返ってしまいそうである。

そしてそこでリリィは乙女ゲームの主人公に嫌がらせをするのだけれど……

「あーら不思議。今でもどんなゲームだったか、まったく思い出せないのよねぇ。どれだけ頭を捻っても、これくらいしか覚えていることがないわ。」
「リリィ様……。正気ですか?いじわるの所業はまだしも、その機会遊びの主人公の名前さえ思い出せないなんて!!ああああ。
 いじわる役というのは、いつの時代も何らかの形で退場させられること間違い無しなんですよ……。いつか貴方様に危害が加わるかもしれないのに。そのための対策やらなんやら、考えなくていいんですか!?」


 ベルナはジタバタとしながら、頭を抱えた。そりゃそうだ。焦らなければならないところで、肝心の主人がのほほんと優雅に茶を飲んでいるのだ。これは自分がしっかりしなければと、従者として固く心に誓う。


「だって私、それ聞いたときおばあちゃんよ。おばあちゃんの記憶力なんてそんなもんだわ。それにいいじゃない。私がこうなってしまっている限り、ゲームがゲーム通りに行くはずなんてないもの。ゲームの記憶なんて、多分使い物にならない。」
「そうですかね…。」
「当たり前じゃない。この世界の大枠の設定はゲームの通りかもしれない。でもそれは私の世界線でのお話よ。私が今飲んでる紅茶の味も、向き合う優しい侍女のベルナもすべて本物。作り物ではない実際の世界…そして私はここで生きている。
とすれば、シナリオだの結末だの選択だの、まったくもってくだらないわ。だってここの人たちは用意されたお人形ではない。ゲーム通りに行くようなお遊びではない。一分一秒はたまたコンマ何秒かで、未来なんて簡単にひっくり返るのよ。」
「それは、90年と17年を生きていたリリィ様の経験論?」
「そーよ。」

 前世だってそうだった。わずかに記憶に残る戦争の時も、仕事の転機も、あの大地震のときも、出会いも、あの時その行動しなければ、すべてが変わっていただろうと今でも思う。

 すでに、悪役令嬢だったはずのリリィ・レオニアの行く道が変わっているのだ。それだけでも与える影響は大きいに違いない。
 それに正直、リリィにとってゲームの話なんてどうでも良い。転生したとわかった時から願いはたった一つだけ。
 鷹人から転生した旦那さんを見つけて結婚すること。そのために会いたくもない男たちに、貴重な時間を割いて20回も会っているのだ。

「リリィ様の旦那さんはどこなんでしょうね。」
「ほんとよ!のんびりしすぎじゃない!?おかげで私20人も滅多切りにしちゃったわ。旦那さん、どこなのかしらー。」

 立ち上がって窓を開けると視界一杯に領土が映る。レオニア公爵家の持つ広大な土地だ。空は青く、どこまでも広がっている。リリィは大きく息を吸い込むと力強く叫んだ。

「世界のどっかをほっつき歩いている旦那さーーーん!待っててねーーー!待ちくたびれちゃったから、リリィ・レオニアが会いに行っちゃうからねーーーー!」
 今世も絶対旦那さんと結婚するわ!とリリィはにっこり笑った。


 呆れたベルナが一つ思いついた。
「そういえばリリィ様。旦那さんが、例えば犬とか豚さんとか鶏とか馬とかだったらどうするんですか?」
「うん?犬とか豚さんとか鶏とか馬とかだったら旦那さんと結婚するけど?」
「はぁ、ですよね。……え?」
「え?」
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